変形労働時間制の残業代は3段階

変形労働時間制でも残業代は出る。数え方が原則と違うだけで、割増賃金そのものが消える制度ではない。1日・1週・対象期間の3段階で時間外労働を拾い、前の段で拾った時間を次の段から除いていくので、所定が9時間と決まっている日は9時間を超えてから時間外労働になり、8時間を超えた1時間ぶんに割増は付かない。

制度そのもの、つまり総枠の計算や1年単位・1か月単位・1週間単位の違いは変形労働時間制の定義に書いた。ここで扱うのは残業代だけ。

時間外労働は1日・1週・対象期間の3段階で拾う

厚生労働省の静岡労働局が配っている資料は、1か月単位の変形労働時間制での数え方を3つに分けている。

  1. 1日の法定時間外労働。 労使協定または就業規則その他これに準ずるものによって1日8時間を超える時間を定めた日は、その定めた時間を超えて働いた時間。それ以外の日は、8時間を超えて働いた時間。
  2. 1週の法定時間外労働。 1週40時間を超える時間を定めた週はその時間を超えた分、それ以外の週は40時間を超えた分。ただし、1で法定時間外労働となる時間は除く。
  3. 対象期間の法定時間外労働。 対象期間の法定労働時間の総枠(40時間 × 対象期間の暦日数 ÷ 7日)を超えて働いた時間。1または2で法定時間外労働となる時間は除く。

特例措置対象事業場では、40時間のところが44時間になる。

順番に意味がある。同じ1時間を二重に数えないため、上の段で拾った時間は下の段から外す決まりになっていて、「1日で5時間、1週で3時間、月で2時間、だから合計10時間」という足し算にはならない。

所定が9時間の日は、9時間を超えてから

9時間勤務の日に、8時間を超えた1時間ぶんの割増賃金が付かない。その日の所定労働時間が9時間として先に決まっているからで、1番目の段が「8時間を超える時間を定めた日はその時間を超えて働いた時間」となっているのは、まさにこの形を指している。

逆の場合も見ておきたい。所定が7時間の日に8時間働いても、1番目では拾われない。7時間を超えた1時間は所定外労働だが、法定の8時間の中に収まっている。分かれ目は、賃金が出るかどうかより割増が付くかどうかにある。所定の7時間を超えた1時間ぶんは、割増なしの時間給として支払われる。

所定どおり働いた日に、月の終わりで時間外が出る

静岡労働局の資料には、1週間ぶんの勤務を並べた例が載っている。その最後の日は1日8時間も1週40時間も超えていないのに時間外労働が発生していて、理由は月の途中で働いた日が積み上がってその月の法定労働時間の総枠を超えたこと、資料は超過分を「177.1時間を超える0.9時間分(小数点2桁以下切り捨て)」と書いている。

177.1時間は、31日の月の総枠(40 × 31 ÷ 7)。3番目の段が効くのはこういう場面で、各日・各週を見ているだけでは出てこない。月末の数日は、所定どおりに働いても時間外労働になりうる。

割増率は時間外25%以上、月60時間を超えた分は50%以上

厚生労働省の「確かめよう労働条件」は、割増率をこう整理している。時間外労働と深夜労働(午後10時から午前5時)はそれぞれ1時間当たりの賃金の25%以上増し、法定休日の労働は35%以上増し、1か月60時間を超える時間外労働は50%以上増しで、中小企業に対する猶予は2023年(令和5年)4月1日に廃止された。

重なったときは足す。時間外と深夜が重なれば1.50倍、法定休日と深夜が重なれば1.60倍。

変形労働時間制でも、この率は変わらない。変わるのは、何時間ぶんが時間外労働かを決める数え方だけ。そこを混ぜて「変形だから残業代は出ない」と受け取ると、2段目と3段目で拾われるはずの時間が見えなくなる。

制度として成立していないときは、原則の8時間・40時間で数える

変形労働時間制は、変形期間の労働日と労働日ごとの労働時間をあらかじめ特定しておくことが条件で、会社が業務の都合でその都度任意に労働時間を変更する運用は制度の使い方から外れる。成立していなければ、残る物差しは原則の1日8時間・1週40時間。

確かめる先は3つ。就業規則の労働時間の条、労使協定の写し、勤務カレンダー。1か月単位は就業規則だけで導入できるため、労使協定が無いこと自体は問題にならない。見るべきは、対象期間の初めにカレンダーが配られていたか、そして途中で書き換えられていないか。運用でつまずきやすい箇所は変形労働時間制のデメリットにまとめてある。

自分で数えるのに要る記録は2つ

勤務カレンダー(各日の所定労働時間が書かれたもの)と、実際に働いた時間。この2つが日ごとに揃っていれば、3段階の数え方を自分で当てられる。

手順はこうなる。まず各日について、所定労働時間と8時間のうち長いほうを超えた時間を書き出す。次に各週について、所定と40時間のうち長いほうを超えた時間から、日で書き出した分を引く。最後に月の合計実労働時間から総枠を引き、そこから日と週で書き出した分を引くと、残った時間が3段目で拾われる時間外労働になる。

給与明細の残業時間と合わないとき、どの段で差が出ているかまで絞れる。

自分の職場で確かめる

残しておくと後で効く記録は、配られた勤務カレンダーの写しと、実際の出退勤の時刻。所定労働時間が日によって違う職場では、この2つが揃っていないと時間外労働の時間が出てこない。

workprevu の診断は、職場の条件を12の項目に割って記録する。働く時間と場所の決まり方も項目の1つで、同じ職場の人の答えと並べたときのずれを見る形にしてある。

出典

  1. 1か月単位の変形労働時間制をとる場合の時間外労働の考え方(厚生労働省 静岡労働局)
  2. 時間外・休日労働と割増賃金/確かめよう労働条件(厚生労働省)
  3. 労働法基礎講座 変形労働時間制(概要・種類・注意点)/厚生労働省 長崎労働局