雇用契約書の記載例を、欄ごとに読む

雇用契約書の記載例を探すと行き着くのは、厚生労働省が公開しているモデル労働条件通知書である。様式そのものは自由なので、会社ごとに表題も並び順も違う。ただし書くべき事項は労働基準法施行規則5条が決めているため、欄の構成はこの様式に寄る。

受け取る側から見ると、記載例は「空欄がどこか」を見つけるための物差しになる。以下は一般労働者用(常用、有期雇用型)の様式に沿って、欄ごとに何が入るはずかを並べたもの。書類の名前が雇用契約書でも、労働条件通知書兼雇用契約書でも、見る場所は変わらない。名前の違いについては雇用契約書とは、書面にした労働条件で整理した。

記載例と呼ばれているものの正体

モデル労働条件通知書は、交付が労働基準法15条に基づく労働条件の明示と、パートタイム・有期雇用労働法6条に基づく文書の交付を兼ねるものだと注記された様式。つまり1枚で両方の義務を満たす形が想定されている。市販のテンプレートや解説記事の記入例も、たいていここを下敷きにしている。

様式の末尾には「以上のほかは、当社就業規則による。就業規則を確認できる場所や方法( )」という欄がある。契約書に書ききれない決まりを就業規則へ送る作りになっていて、ここが空欄だと、細則をどこで読めるのか分からないまま働くことになる。

契約期間の欄には、更新を判断する材料まで書く

期間の定めなし、または期間の定めあり(年月日〜年月日)。期間の定めありを選んだ場合は、契約の更新の有無を「自動的に更新する/更新する場合があり得る/契約の更新はしない/その他」から選ぶ。

さらに、更新を何で判断するかの欄が続く。様式に印刷されている選択肢は5つ。

  • 契約期間満了時の業務量
  • 勤務成績、態度
  • 能力
  • 会社の経営状況
  • 従事している業務の進捗状況

更新の可否が自分の成績で決まるのか、会社の業績で決まるのかは、この欄のチェックで分かれる。

就業場所と業務の欄は、2024年4月から2段になった

2024年4月から、雇入れ直後の就業場所・業務に加えて、その「変更の範囲」も明示の対象になった。変更の範囲とは、今後の見込みも含め、その労働契約の期間中における就業場所や従事する業務の変更の範囲を指す。

厚生労働省が示した記載例を並べると、幅の違いがはっきりする。限定がない場合。

  • (雇入れ直後)仙台営業所 (変更の範囲)会社の定める営業所
  • (雇入れ直後)広告営業 (変更の範囲)会社内での全ての業務
  • (雇入れ直後)店舗における会計業務 (変更の範囲)全ての業務への配置転換あり

一部に限定がある場合は、こう書く。

  • (雇入れ直後)東京本社 (変更の範囲)東京本社、大阪支社及び名古屋支社
  • (雇入れ直後)豊橋 (変更の範囲)愛知県内
  • (雇入れ直後)十三出張所 (変更の範囲)淀川区内

「会社の定める営業所」と「東京本社、大阪支社及び名古屋支社」では、転居の可能性の広さが違う。幅が全部。労働者が情報通信技術を利用して行う事業場外勤務、いわゆるテレワークを雇入れ直後から行うことが通常想定されている場合には、労働者の自宅やサテライトオフィスなど、テレワークを行う場所を「雇入れ直後」の就業場所として明示する、という扱いも示されている。

労働時間の欄は、制度の名前で書き分ける

始業( 時 分)終業( 時 分)が基本形。そのうえで、適用される制度ごとに書き方が分かれる。

  • 変形労働時間制等:単位を書いたうえで、勤務時間の組み合わせを適用日つきで3パターンまで
  • フレックスタイム制:始業及び終業の時刻は労働者の決定に委ねる。フレキシブルタイムとコアタイムの時刻を記入
  • 事業場外みなし労働時間制:始業・終業の時刻を記入
  • 裁量労働制:始業・終業の時刻を基本とし、労働者の決定に委ねる

フレックスと裁量労働制は、どちらも時刻の決定を働く人に委ねる書き方になる。違いは、コアタイムの欄が埋まるかどうか。

賃金の欄は10項目に割れている

基本賃金の選択肢は、月給・日給・時間給・出来高給(基本単価と保障給)・その他・就業規則に規定されている賃金等級等。諸手当は4枠あり、それぞれ額または計算方法を書く。

割増賃金率の欄は細かい。所定時間外については法定超の月60時間以内と月60時間超、それに所定超という3つの率を書き分ける作りになっていて、休日は法定休日と法定外休日に分かれ、さらに深夜の率が別に置かれている。ここが埋まっていれば、残業代の計算は自分でも追える。空欄なら、就業規則を見にいく。

残りは、賃金締切日、賃金支払日、賃金の支払方法、労使協定に基づく賃金支払時の控除の有無、昇給の有無と時期・金額等、賞与の有無、退職金の有無。昇給・賞与・退職金は「有」なら時期や金額等の記入欄が付く。

退職に関する事項の欄で、辞めるときの手順が決まる

定年制の有無と年齢、継続雇用制度の有無と上限年齢、創業支援等措置の有無、自己都合退職の手続(退職する 日以上前に届け出ること)、解雇の事由及び手続。この5つ。

自己都合退職の手続の日数は、辞めると決めてから初めて読む人が多い欄。入社時に数字を確かめておくと、次を考える時期の目安になる。

手元の書面を、記載例と突き合わせて測る

記載例の使い道は、見比べて差を数えることにある。見る順番を3つに絞ると早い。

  1. 空欄の数。様式に欄があるのに埋まっていない項目を数える。割増賃金率と更新の判断基準は、空のまま配られることがある。
  2. 「就業規則による」の行き先。就業規則を確認できる場所や方法が書かれているか。常時10人以上の労働者を使用する使用者には、就業規則を見やすい場所に掲示する、備え付ける、書面を交付するなどの方法で働く人に周知する義務がある(労働基準法106条)。実質的な周知がなされていないと、就業規則の定めが労働契約の内容にならないことがある、とも説明されている。
  3. 変更の範囲の幅。就業場所と業務の2段目が、どこまで広いか。

この3つを見るだけで、書面が条件を決めているのか、就業規則に預けているのかが分かる。

欄を埋めるのは会社、優先順位を決めるのは本人

様式は、会社が明示すべき事項の一覧であって、働く人が何を重く見るかの一覧ではない。転居の可能性を避けたい人にとっては変更の範囲の欄が中心になり、時間の融通を優先する人にとってはフレックスのコアタイムが中心になる。同じ書面でも、読む人によって拾う欄が変わる。

workprevu の診断は、職場の環境を12の軸に割って記録し、自分に合う条件との距離を見るためのもの。書面の欄と自分の優先順位を並べると、面談で聞くべきことが絞れる。

出典

  1. 2024年4月からの備えは大丈夫ですか? 労働条件明示事項が追加されます(厚生労働省、2024年4月1日施行。モデル労働条件通知書、就業場所・業務の変更の範囲の記載例、労働基準法15条・106条)
  2. 令和6年4月から労働条件明示のルールが変わります(厚生労働省 熊本労働局)