会社が負っているのは、雇用契約書という書類を作る義務ではない。労働基準法15条が定めるのは、労働契約を結ぶ際に労働条件を明示する義務である。明示する書面の様式は自由とされていて、厚生労働省はモデル様式を公開しているにとどまる。
そのうえで、明示義務の量は雇用形態で変わる。正社員とパートタイム労働者と派遣労働者では、会社が明示しなければならない事項の数が違う。自分がどの枠にいるかで、受け取るはずの書面の厚みも変わってくる。書類そのものの位置づけは雇用契約書とは、書面にした労働条件にまとめた。
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会社が負っているのは、雇用契約書という書類を作る義務ではない。労働基準法15条が定めるのは、労働契約を結ぶ際に労働条件を明示する義務である。明示する書面の様式は自由とされていて、厚生労働省はモデル様式を公開しているにとどまる。
そのうえで、明示義務の量は雇用形態で変わる。正社員とパートタイム労働者と派遣労働者では、会社が明示しなければならない事項の数が違う。自分がどの枠にいるかで、受け取るはずの書面の厚みも変わってくる。書類そのものの位置づけは雇用契約書とは、書面にした労働条件にまとめた。
労働条件の明示は、労働契約を結ぶ際に行う。有期労働契約なら、更新のたびに同じ義務がかかる。更新は新しい契約を結ぶ行為だから、1回目の契約で明示したから2回目は省略できる、という作りにはなっていない。
無期転換申込権が発生する契約の更新時には、明示すべき事項が増える。無期転換申込機会と、無期転換後の労働条件。この2つは、通算5年を超えて更新される有期契約の、権利が発生する回の更新時に加わる。
それとは別に、無期転換ルールにより無期労働契約が成立する際にも、無期転換後の労働条件を明示する必要がある。
パートタイム・有期雇用労働者を雇い入れたときは、労働契約の更新時も含め、労働基準法15条の明示事項に加えて4つを文書の交付により明示する。昇給の有無、退職手当の有無、賞与の有無、相談窓口。パートタイム・有期雇用労働法6条1項による義務である。
さらに同法14条1項は、不合理な待遇の禁止、通常の労働者と同視すべきパートタイム・有期雇用労働者に対する差別的取扱いの禁止、賃金、教育訓練、福利厚生施設、通常の労働者への転換という6つの事項について、雇用管理の改善に関する措置の内容を説明する義務を課している。明示と説明は別の義務。
派遣労働者の場合、派遣元事業主が雇入れ時にあらかじめ、労働基準法15条の明示事項に加えて5つを文書の交付により明示する。昇給の有無、退職手当の有無、賞与の有無、労使協定の対象となる派遣労働者であるか否か、派遣労働者から申し出を受けた苦情処理に関する事項。労働者派遣法31条の2第1項による。
数えると、正社員より有期やパートのほうが、派遣はさらに多い。義務の量は、立場が不安定なほうに厚く置かれている。
2019年4月1日から、労働者が希望した場合には、FAX、電子メールやWebメールサービス、LINEやメッセンジャー等のSNSメッセージ機能でも明示できるようになった。条件は本人の希望と、もう1つ。出力して書面を作成できるものに限られる、とされている。労働者の個人的な事情によらず出力できる状態であれば、出力して書面を作成できると認められる。
第三者に閲覧させることを目的としている労働者のブログや個人のホームページへの書き込みによる明示は、認められていない。SMSも、PDF等のファイルが添付できず文字数制限もあるため望ましくない、とされている。
罰則はここに結び付く。厚生労働省のリーフレットは、労働契約の締結時に明示を怠ったり、労働者が希望していないにもかかわらず電子メール等のみで明示したりすることは労働基準関係法令の違反となり、30万円以下の罰金となる場合がある、と書いている。会社の判断でメールに切り替える運用は、義務の向きを逆にしている。
常時10人以上の労働者を使用する使用者は、就業規則を作成して労働基準監督署に届け出なければならない。労働基準法89条と90条。さらに同法106条は、常時各作業場の見やすい場所に掲示する、備え付ける、書面を交付するなどの方法で、働く人に周知することを求めている。
この義務が効いてくる場面がある。厚生労働省の資料は、実質的な周知がなされていないと、就業規則の定めが労働契約の内容にならないことがある、と書いている。契約書の末尾に「以上のほかは、当社就業規則による」とあっても、その就業規則を読める状態になければ、定めが契約の中身として働かないことがある、ということ。
具体的には、就業規則を備え付けている場所等を労働条件通知書や社内メールなどで示し、必要なときに容易に確認できるようにする必要があるとされている。モデル労働条件通知書に「就業規則を確認できる場所や方法」の欄があるのは、この周知とつながっているため。
労働条件の明示は使用者に課された義務で、労働者の側に明示を受け取る義務や署名を返す義務を定めた条文は、労働基準法15条にも施行規則5条にも置かれていない。署名欄のある書類が配られるのは、合意の事実を記録に残すための実務上の運用。
ただし内容に疑問があるまま署名すると、後から食い違いを示しにくくなる。確かめてから返す。それが、義務の有無とは別に残る実務の話になる。
測り方は、自分の雇用形態から義務の件数を引き算すること。
この4つを足した数が、いま会社が自分に対して負っている明示と周知の義務の総量になる。手元の書面と照らして足りない項目があれば、それは会社の側の未履行。
明示義務を全部果たした会社でも、そこに書かれた条件が自分に合うとは限らない。義務の履行は最低限の線であって、働く人が何を優先するかとは別の軸にある。
workprevu の診断は、職場の環境を12の軸に割って記録し、自分に合う条件との距離を見るためのもの。義務の件数を数えたら、次は自分の優先順位を数える番。
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