通勤手当の計算は、2つの別な計算が重なっている。ひとつは勤務先の賃金規程に沿って支給額を出す計算。もうひとつは、その額のうちいくらが所得税の対象から外れるかを判定する計算で、こちらは国税庁が金額を公表している。自分の手当を確かめるとき、どちらの話をしているのかを先に分けておくと混乱しない。
通勤手当の計算と非課税の判定は別
公開 約 7 分

支給額の計算と、非課税額の判定は別
支給額そのものに、国が決めた計算式は無い。定期券の実費にするか、片道距離の区分で決めるか、出勤日数で日割りするか。全部、勤務先の規程の書き方次第である。通勤手当に支給義務が無いことと、その中身が会社ごとに違う理由は通勤手当とは、支給義務のない賃金に書いた。
いっぽう非課税限度額のほうは、所得税法施行令で区分と金額が決まっている。だから「通勤手当の計算方法」を調べて出てくる距離別の金額表は、支給額を決める表ではなく、税がかからない上限の表。ここを取り違えると、規程で月5,000円と決まっている人が「片道12キロなら7,300円もらえる」と誤読することになる。
計算に使う数字は3つ
規程から読み取るのは、支給の基礎(実費か距離か)、支給の周期(毎月か6か月ごとか)、会社が独自に設けている上限額。この3つが分かれば1か月当たりの額が出て、あとは国税庁の限度額と比べるだけ。逆にこの3つのどれかが読み取れないまま、ネット上の計算例に自分の通勤距離を当てはめても、出てくるのは他社の規程に沿った数字にすぎない。
交通機関だけなら1か月15万円が天井
電車やバスなどの交通機関だけで通勤する場合、非課税になるのは、最も経済的かつ合理的な経路および方法で通勤した場合の通勤定期券などの金額である。その金額が1か月当たり15万円を超えるときは、15万円が限度額になる。
新幹線や特急の運賃も、その経路と方法が最も経済的かつ合理的と認められるなら含まれる。含まれないのはグリーン料金(令和8年4月1日現在の法令等)。
車と自転車は、片道距離の区分で決まる
自動車や自転車などの交通用具を使う場合、1か月当たりの非課税限度額は片道の通勤距離だけで決まる。月に何キロ走ったか、ガソリンがいくらかかったかは、この限度額の計算に入ってこない。区分に当てはめた定額。
| 片道の通勤距離 | 1か月の非課税限度額 |
|---|---|
| 2km未満 | 全額課税 |
| 2km以上10km未満 | 4,200円 |
| 10km以上15km未満 | 7,300円 |
| 15km以上25km未満 | 13,500円 |
| 25km以上35km未満 | 19,700円 |
| 35km以上45km未満 | 25,900円 |
| 45km以上55km未満 | 32,300円 |
| 55km以上65km未満 | 38,700円 |
| 65km以上75km未満 | 45,700円 |
| 75km以上85km未満 | 52,700円 |
| 85km以上95km未満 | 59,600円 |
| 95km以上 | 66,400円 |
片道2キロメートル未満だけは扱いが違う。交通用具を使っていても非課税になる部分が無く、支給された通勤手当は全額が課税対象になる。
駅まで車、そこから電車の計算
交通機関と交通用具を併用するときは、足し算になる。交通機関の1か月分の定期券などの金額に、交通用具の片道距離で決まる限度額を加え、その合計が非課税の限度。ただし合計も1か月15万円までで、ここを超えた部分は課税される。
有料道路を使う場合は、距離の区分の額に合理的な料金の額を加算できる。駐車場を使う場合は、一定の要件を満たすものについて駐車場料金相当額を加算でき、加算の上限は月5,000円。対象になるのは勤務先や乗降する駅・停留所などの周辺にある駐車場で、片道2キロメートル未満の人は加算の対象にならない。有料道路と駐車場の両方を使うなら両方を加算できるが、やはり合計15万円が天井である。
引上げが2回あった。規程は追えているか
距離区分の金額は、ここ数年で動いている。令和7年11月19日に所得税法施行令の一部を改正する政令が公布され、交通用具を使う人の非課税限度額が引き上げられた。施行は同年11月20日、適用は令和7年4月1日以後に支払われるべき通勤手当から。
改正の前後を並べると、上がり幅が分かる。
| 片道の通勤距離 | 改正後 | 改正前 |
|---|---|---|
| 55km以上 | 38,700円 | 31,600円 |
| 45km以上55km未満 | 32,300円 | 28,000円 |
| 35km以上45km未満 | 25,900円 | 24,400円 |
| 25km以上35km未満 | 19,700円 | 18,700円 |
| 15km以上25km未満 | 13,500円 | 12,900円 |
| 10km以上15km未満 | 7,300円 | 7,100円 |
| 2km以上10km未満 | 4,200円 | 4,200円 |
この時点では、55キロメートル以上がひとつの区分で、上限は38,700円だった。令和8年4月1日現在の法令では、そこが65キロメートル刻みより細かく割られ、95キロメートル以上で66,400円まで伸びている。駐車場料金相当額の加算も、この時点の表には無い。
長距離を車で通っている人や、駅前の駐車場代を自分で払っている人は、規程の額が改正前の数字で止まっていないか確かめる余地がある。限度額が上がっても、会社が支給額を上げる義務は生まれない。上限が動いただけ。片道60キロメートルを車で通っていて支給額が31,600円のままなら、改正後の限度額まで7,100円の余白があるという事実が分かるだけで、その余白を埋めるかどうかを決めるのは勤務先である。
超えた分は、その月の給与に乗る
限度額を超えて支給された部分は、給与として課税される。通勤手当などを支給した月の給与に上乗せして、所得税および復興特別所得税が源泉徴収される(令和9年分以後は、所得税、防衛特別所得税および復興特別所得税)。
だから給与明細で見るべき場所は2つある。通勤手当の欄の額と、課税支給額の合計。後者に通勤手当の一部が入っているなら、限度額を超えているということ。
6か月定期でまとめて受け取ったとき
非課税限度額は、どの区分も「1か月当たり」で決まっている。数か月分をまとめて受け取っても、判定の単位は1か月である。短期間の雇用のパートやアルバイトについても、限度額は月単位で計算すると国税庁が説明している。
社会保険の側は、扱いが変わる。事業所の給与規定に定めのある通勤手当は労務の対償として受けるものと認められ、標準報酬月額の対象となる報酬に含まれる。数か月分を一括して現金または定期券等で支給されるケースについても、支払上の便宜によるものと考えられるため、3か月を超える期間ごとに支給される場合であっても報酬に含まれるものとして取り扱われている(日本年金機構)。
所得税では非課税、社会保険では報酬。同じ1万円が、制度によって反対の扱いを受ける。手取りで見ると、通勤手当が月1万円増えたときに所得税は動かないまま、健康保険料と厚生年金保険料の計算基礎になる標準報酬月額のほうは上がる可能性があり、等級が1つ上がれば保険料も上がる。小さい差。それでもゼロではない。
どう測るか
自分の通勤手当を計算するなら、順番は決まっている。
- 賃金規程で支給の基礎・周期・会社の上限額を読む
- 支給額を1か月当たりに直す(6か月分なら6で割る)
- 通勤手段に対応する非課税限度額を、上の表で確かめる
- 2が3を超えていれば、その差額が課税される部分
このうち手を動かす価値があるのは1である。規程を開かないと2も出ない。開いたついでに、対象になる雇用形態、住所が変わったときの届出の期限、改定の時期まで読んでおくと、経路が変わったときに手取りがどう動くか自分で見積もれる。
自分の職場で確かめられること
計算が合っているかどうかより先に、届け出た経路と実際の通勤が合っているかを見ておきたい。距離の区分は片道の通勤距離で決まるので、引越しや経路の変更で区分をまたぐと、非課税の限度額も変わる。
もうひとつ、計算からは出てこない数字がある。通勤に実際かかっている時間。片道の所要時間を4週ぶん記録すると、手当の額では埋まらない負担が数字になる。自分に合う通勤の条件を言葉にするには、金額と時間の両方が要る。





