出向とは、雇用契約が2本になる

出向すると、雇用契約は1つから2つになる。厚生労働省の「在籍型出向『基本がわかる』ハンドブック」は在籍型出向を、出向元企業と出向先企業との間の出向契約によって、労働者が出向元企業と出向先企業の両方と雇用契約を結び、出向先企業に一定期間継続して勤務することと定義している。籍は元の会社に残り、働く場所と指示を出す相手が移る。

打診を受けた段階で確かめられる書面は3枚ある。就業規則の出向規程、会社どうしが結ぶ出向契約、そして出向先での労働条件を示したもの。

雇用契約が2本になる、それが定義の線

在籍型出向で結ばれる雇用関係は、出向元との1本と出向先との1本。ハンドブックの図は、この2本を並べて描いている。同じ資料は、出向先企業と出向労働者の間に雇用契約関係があるため労働者派遣には該当しない、と書き分けた。

定義から外れるものも、同じ線で引ける。元の会社との雇用契約が終わるものは、出向から外れて転籍になる。社内で部署や勤務地が変わるだけの異動も、雇用契約が2本にならないので外れる。配置転換・転勤・出向の区別は人事異動の拒否、異動の種類で変わるに書いた。

転籍は、元の会社との雇用契約が終わる

広島県の労働相談Q&Aは、転籍(転籍出向)を、今までの会社との雇用関係を終了させ、新たに別の会社と雇用関係を結ぶことと説明している。戻る先が残るかどうか。出向と転籍を分ける点はここに尽きる。

同意の要件も違う。ハンドブックは、在籍型出向を命じるには労働者の個別的な同意を得るか、または出向先での賃金・労働条件、出向の期間、復帰の仕方などが就業規則や労働協約等によって労働者の利益に配慮して整備されている必要があるとされている、と書いている。転籍について広島県の同じQ&Aは、転籍命令には、出向と同様、就業規則等の規定があるだけではなく、さらに労働者の個別の合意が必要とされていますと説明する。就業規則に転籍の条文があるだけでは足りない、という意味だ。

派遣との境目は、出向先と自分の間に何があるか

出向と派遣は、出向先(派遣先)と働く本人の間にあるものが違う。ハンドブックの図では、在籍型出向は雇用関係、労働者派遣は指揮命令関係と書き分けられている。派遣で働く人は派遣先と雇用契約を結ばない。出向で働く人は結ぶ。

形としては、在籍型出向は労働者供給に該当する。労働者供給を業として行うことは職業安定法第44条で禁止されているが、ハンドブックは次の4つのいずれかの目的があるもの等は基本的に「業として行う」ものではないと判断されるとしている。労働者を離職させずに関係会社で雇用機会を確保する、経営指導・技術指導を実施する、職業能力開発の一環として行う、企業グループ内の人事交流の一環として行う。打診されたときに会社から聞く「出向の目的」は、たいていこの4つのどれかに言い換えられる。

給与と保険は、契約の中身で枝分かれする

給与は出向元と出向先が話し合って決める。支給の経路はハンドブックが2通り挙げている。出向先が本人に直接支給する形と、出向先が出向元に給与負担金を支払って出向元が本人に支給する形。給与水準が出向先より出向元のほうが高く、その差額を出向元が補填する場合、差額補填の給与は出向期間中でも出向元の損金に算入される(法人税基本通達9-2-47)。差額を埋める扱いが制度として想定されている、ということ。

保険は3つで扱いが分かれる。

  • 雇用保険は、生計を維持するのに必要な主たる賃金を受けている側の雇用関係についてのみ被保険者となる。出向先側で被保険者になるなら、出向元での資格喪失と出向先での資格取得の手続きが要る
  • 労災保険は、出向先の組織に組み入れられて出向先事業主の指揮監督を受けて働く場合、出向元で支払われている賃金も含めて計算し、出向先で適用する
  • 厚生年金保険と健康保険は、使用関係があり報酬が支払われている企業(一方または双方)で適用を受ける。双方で被保険者になるときは、本人が選択した事業所を主たる事業所として二以上事業所勤務届を出す

失業等給付の基本手当の算定は、雇用保険の被保険者になっている企業から支払われた賃金だけが基礎になる。賃金の支払いを2社に分けると、ここに影響が出る。

期間に法律の上限は無く、書面で決まる

出向期間の上限を定めた条文は無い。ハンドブックが載せた出向規程の参考例は、出向者の出向期間は●年を超えない範囲で当社が個別に決定した期間とすると書き、出向目的の達成状況や業務上の必要に応じて短縮または延長することがあると続ける。年数の欄は空白のまま。各社が埋める。

実際の長さは、同じハンドブックのコロナ禍の事例8件で2か月から24か月に分布していた。最も多いのは12か月の4件で、24か月が2件、2か月と6か月が各1件。出向契約書の参考例では、期間の短縮や延長をしようとする場合は会社間の協議と書面による合意で決め、決定内容を出向者に通知するとなっている。期間が動くときに本人へ届くのは、この通知だ。

命じられるかどうかは、同意と就業規則で決まる

労働契約法第14条は出向についてこう定める。使用者が労働者に出向を命ずることができる場合において、当該出向の命令が、その必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、当該命令は、無効とする。

条文は「命ずることができる場合において」から始まる。命じる根拠がそもそもあるか、次に権利の濫用にあたらないか。順に2段で見る構造になっている。根拠の側は、さきほどの個別的な同意か、就業規則・労働協約等の整備。ハンドブックは、就業規則等が整備されている場合でも、事前に出向先企業の職場見学を行ったり、手上げ方式で出向労働者を募るなど、労働者の理解を深め納得を得るために丁寧に社内手続を進めている企業もあると紹介している。

自分の職場で、何が変わるかを記録する

出向で動くのは、勤務地や仕事の内容だけではない。指示の出し方、確認の頻度、裁量の広さ、人と接する量。同じ会社の中の異動でも動くこれらが、会社をまたぐとまとめて動く。

出向の前と後で何がどう変わったかは、記憶では比べにくい。いまの職場の条件を12の軸で記録しておくと、出向先の条件との差を数で見られる。打診を受けた段階で一度記録しておくと、戻ったあとに読み返す材料にもなる。

出典

  1. 在籍型出向「基本がわかる」ハンドブック 第2版(在籍型出向の定義、労働者供給との関係、出向規程・出向契約書の参考例、給与・社会保険・労働保険の取扱い、コロナ禍の出向事例)/厚生労働省/2022年9月
  2. 労働相談Q&A 7-4 転籍命令には応じなければならないか(転籍の定義と個別の合意)/広島県
  3. 労働契約法(第14条 出向。2020年4月1日施行時点の条文)/e-Gov法令検索