左遷は、いまより低い地位や職責へ移されることを指す言い方で、法令にも人事の辞令にも出てこない。中国で右を尊び左を卑しんだことに由来する語が、職場の出来事の受け取り方として残っているだけ。会社の文書と統計が扱っているのは、配置転換、降格、出向という別の3つの行為で、それぞれ根拠も手続きも違う。自分の異動がどれに当たるかは、辞令と賃金の書面を並べれば判別できる。
左遷とは、辞令に書かれない言い方
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辞令に載るのは、3つのうちのどれか
まず配置転換。就業する場所や従事する業務を変えることで、モデル就業規則の第8条は「会社は、業務上必要がある場合に、労働者に対して就業する場所及び従事する業務の変更を命ずることがある」と書き、労働者は正当な理由なくこれを拒むことはできないと続ける。根拠は就業規則の条項と労働契約。
次に降格。職位や役職を引き下げるもので、賃金のうち役職に紐づく部分が動く。配置転換と同時に起きることもあるし、職位だけが下がって所属が変わらないこともある。
3つめが出向。籍を残したまま別の会社の指揮命令下で働く形で、これは移る先が変わる。
左遷という語は、この3つのどれにも重なりうる。逆に、どれにも当てはまらない配置転換を左遷と感じることもある。本人の受け取りを表す語であって、行為の種類を指す語ではないので、手続きの話をするときは言い換えが必要になる。
2024年4月から、変更の範囲が書面に出ている
確かめ方の入口が1つ増えた。2024年4月の労働条件明示ルールの改正で、労働契約を結ぶときと有期契約を更新するときに、就業場所・業務の変更の範囲を明示することが必要になった(改正労働基準法施行規則第5条第1項第1号の3)。
ここに書かれた範囲の中で起きた異動なのか、範囲の外なのか。入社時や更新時に受け取った書面と、今回の辞令を並べると分かる。「変更の範囲」は将来の配置転換などで変わりうる就業場所・業務の内容の範囲を指すので、「会社の定める営業所」のように広く書かれていることも多い。広く書いてあればその通りに読む。
ルールが文書で決まっている会社は少ない
では会社の側に判断の基準があるのか。労働政策研究・研修機構が企業1,852社に聞いた調査では、転勤に関するルールを「特に定めていない」企業が76.4%だった。回収率18.5%の調査で、2016年8月から9月の実施。
基準が文書化されていなければ、同じ異動が左遷なのか育成なのかを会社の規程から読み取ることはできない。定期的な人事異動の仕組みそのものはジョブローテーションとはにまとめた。打診から内示、発令までの日付の並びは人事異動はいつかにある。
本人の希望がどれくらい通っているかは、別の調査で約1割という数字が出ている。異動の本人希望の反映割合に書いた。
賃金で動くのは、役職に紐づく手当
職責が下がったときに最初に出るのは、役職手当の有無だ。令和7年就労条件総合調査によると、諸手当を支給した企業のうち「役付手当など」を支給した企業は84.2%で、支給された労働者1人平均の支給額は43.5千円(令和6年11月分)。役職を外れれば、この部分が消える。
基本給そのものが下がるかどうかは、就業規則や賃金規程に降格時の取扱いが書かれているかで変わる。賃金の決定、計算及び支払の方法は就業規則の絶対的必要記載事項なので、規程を取り寄せれば読める。手当の種類ごとの金額の相場は通勤手当の平均や管理職の給料でも扱った。
どう測るか。異動の前後で5つを比べる
左遷かどうかを言葉で決めようとすると、受け取り方の話で終わる。比べられるのは、次の5つ。
- 職位。辞令の肩書きと、決裁の権限がどこまであるか
- 所属と指揮命令。誰に報告し、誰が自分の評価を書くか
- 職務。担当する範囲と、仕事の始まりから終わりまでのどこを持つか
- 賃金。役職手当、基本給、賞与の算定基礎
- 勤務地と通勤時間
このうち3番目は、職位が下がっても広がることがある。前の役職では分担されていた工程をひと通り持つようになる場合だ。範囲の持ち方はタスク完結性とは、決められる幅は裁量権とはで測り方を書いた。
拒めるかどうかは、種類で変わる
配置転換の命令を断れるかどうかは、異動の種類と契約の内容で変わる。転居を伴うかどうかで扱いが別になるので、人事異動の拒否と転勤の拒否に分けて書いた。
職責が下がったことへの不満と、手続きが契約の範囲を超えていることは、別に扱う。前者は希望として伝える話で、後者は書面で確かめる話。
自分の職場で確かめる
辞令を受け取った日に、上の5つを異動の前と後で書き出す。数字で書けるのは賃金と通勤時間、数で書けるのは決裁できる金額と報告先の人数。残りは文で書く。
3か月たってから同じ5つをもう一度書くと、動いたものと戻ったものが分かれる。地位の上下という一本の軸では、この差は出てこない。
出典
- モデル就業規則(厚生労働省、令和7年12月版。第8条 人事異動、賃金に関する絶対的必要記載事項)
- 2024年4月から労働条件明示のルールが変わります(就業場所・業務の変更の範囲の明示。改正労働基準法施行規則第5条第1項第1号の3)/厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署/2024年
- 企業の転勤の実態に関する調査(調査シリーズNo.174。転勤に関するルールを特に定めていない企業76.4%)/労働政策研究・研修機構/2016年8月19日〜9月9日実施・企業1,852社(回収率18.5%)/2017年公表
- 令和7年就労条件総合調査 結果の概況(第17・18表 諸手当。役付手当などの支給企業割合84.2%、1人平均支給額43.5千円、令和6年11月分)/厚生労働省





