出向のメリットは本人の回答で読む

出向を経験した本人の回答で最も多かったのは、出向先での新しい仕事の経験がキャリアアップ・能力開発につながった、という項目だった。57%。次が、出向元での雇用が維持されているので安心して働くことができた(46%)、これまでどおりの収入を確保できたため生活面の安定が図られた(38%)。厚生労働省が2021年8月に産業雇用安定助成金を活用した企業へ行ったアンケート調査で、出向労働者382人の複数回答による結果だ(厚生労働省「在籍型出向『基本がわかる』ハンドブック」第2版)。

同じ調査で、評価しない理由として挙がったのは2つ。職場環境の違いなどから精神的負担が大きかった(18%)と、自身にとってキャリアアップ・能力開発につながる仕事内容ではなかった(1%)。

前提を1つ。ここでいう出向は在籍型で、元の会社に籍を残したまま出向先とも雇用契約を結ぶ形を指す。元の会社との雇用契約が終わる転籍は、この調査の対象から外れる。

得たものの上位3つは、経験・雇用・収入

割合の並びを見ると、本人が挙げた上位3つは性質が違う。1つめは出向先で何を身につけたかという経験の話。2つめと3つめは、出向しても元の会社との関係と手取りが切れなかったという継続の話だ。

出向労働者が在籍型出向を評価する理由 割合
出向先での新しい仕事の経験がキャリアアップ・能力開発につながった 57%
出向元での雇用が維持されているので安心して働くことができた 46%
これまでどおりの収入を確保できたため生活面の安定が図られた 38%

n=382(複数回答可)。調査は、コロナ禍で事業を一時的に縮小した企業が雇用維持のために行った出向を対象としている。人材育成を目的とした出向や、グループ内の人事交流としての出向は、この母数に入っていない。

負担は、人と場所の変化に集まる

不満の側で18%が選んだのは、職場環境の違いなどからの精神的負担だった。仕事の内容が合わなかったという回答は1%にとどまる。数字の形だけを見れば、本人が重いと答えたのは仕事そのものより、人と場所が変わることのほうだった。

ハンドブックに載った出向労働者の声も、同じ向きを指している。経験した事のない仕事内容に従事することや、新しい人間関係に馴染めるかどうかという点で出向前に不安や悩みはあったが、実際に出向してみて不安や悩みは減少した。数週間から1か月程度の間、仕事に慣れる努力をすれば、ある程度の不安や悩みは減少すると思う。1人の声。割合として読むものではない。

受け入れ側が挙げた理由は、別のところにある

同じハンドブックには、出向先企業に聞いた結果も載っている。n=341、複数回答可。最も多いのは、人手不足が解消され自社の従業員の業務負担を軽減できた(75%)。次に、社会人としての基礎スキルや職務に必要な職業能力を持った人材を確保できた(52%)、自社の従業員への刺激になり業務改善や職場活性化を期待できる(42%)。

打診されたときに自分に向いている期待は、この3つのどれかに近い。欠員の埋め合わせなのか、持っている技能なのか、既にいる人への刺激なのか。どれに近いかで、出向先で最初に任される仕事の幅も、人を紹介される順番も、出向期間が終わるまでに身につくものも変わってくるので、打診の場で聞いておく価値がある。聞き方は、ここから作れる。

本人の18%と、受け入れ側の2%

2つの設問を並べると、差が1か所に出る。出向先企業が評価しない理由のうち、出向労働者への精神面のケアの負担が大きいを選んだのは2%。教育訓練の負担が大きいが3%、出向元との出向契約までの調整・交渉の負担が大きいが8%。

本人の18%と、受け入れ側の2%。同じ調査の中で、精神面の負担はこれだけ離れた位置に置かれている。母数も設問も違うので、差をそのまま比べることはできない。それでも、出向先に「負担は無かったか」と聞いて返ってくる答えと、自分が感じる重さがずれやすい場所がどこかは読める。ケアを頼む相手は、出向元に残っている側かもしれない。

ハンドブックの事例では、出向元の専務や人事担当が週1回程度、電話で出向者に連絡を取っていた。連絡の経路を出向前に決めておくかどうか。ここは契約書に書かれない部分だ。

労働条件は、下がったぶんを埋める条項があるかで変わる

ハンドブックが載せた出向規程の参考例は、労働時間・休憩・休日・休暇・服務規律・安全衛生・福利厚生について、出向先の定めるところによるとしている。そのうえで、出向先の労働時間、休日、休暇の労働条件が出向元のものよりも不利益となる場合は、その不利益を解消するよう必要な措置を講じるものとすると書く。

年次有給休暇は出向元の勤続年数に基づいて付与され、労働基準法第39条第7項による時季指定義務は出向先が履行する。出向期間は出向元の勤続年数に通算する、という条項もある。参考例なので、各社の規程がこの形とは限らない。自分の会社の出向規程に不利益解消の条項があるか。勤続年数の通算が書かれているか。打診の段階で読める書面はここだ。

給与の差についても扱いがある。出向元の給与水準が出向先より高く、その差額を出向元が補填する場合、差額補填の給与は出向期間中でも出向元の損金に算入される(法人税基本通達9-2-47)。税務上の取扱いとして、差額を埋める形が想定されている。

異動の種類ごとの違いは人事異動の拒否、異動の種類で変わるに書いた。配置転換・転勤・出向で、根拠になる書面が変わる。

この調査が答えていないこと

3点ある。対象が産業雇用安定助成金を活用した企業に限られること。回答が複数回答で、1人が複数の項目を選べること。そして調査時点が2021年8月で、コロナ禍の雇用維持を目的とした出向が中心だということ。

出向の期間ごと、年代ごと、職種ごとの割合は、この資料から読めない。出向後に元の会社へ戻った人がどう評価したかも分からない。回答が出向中か出向後のどちらの時点のものかも、公表された範囲には書かれていない。

自分の職場で、出向の前の条件を記録しておく

出向で動くのは勤務地と仕事の内容だけではない。指示の出方、確認の頻度、裁量の広さ、人と接する量。会社をまたぐと、これらがまとめて動く。

動いたかどうかを後から比べるには、前の状態が要る。いまの職場の条件を12の軸で記録しておくと、出向先の条件との差を数で見られる。打診を受けた段階の記録は、戻ったあとに読み返す材料にもなる。

出典

  1. 在籍型出向「基本がわかる」ハンドブック 第2版(出向労働者・出向先企業が在籍型出向を評価する理由/評価しない理由のアンケート結果、出向規程の参考例、給与の税務上の取扱い)/厚生労働省/2022年9月