固定残業代の得と損は、どちらも時間あたりの単価に出る。残業が設定時間に届かない月は、働いた時間で割った単価が上がる。設定時間を超えた月は、超過分の単価が基本給のほうだけで計算されるため、同じ月給で固定残業代が無い場合より低くなる。最低賃金の判定からは外れ、休業手当や有給の計算には入る。項目ごとに入り方が違うので、1つの評価にまとめられない。
仕組みそのものと、求人票で見る3項目は固定残業代とは、何を見れば分かるかに書いた。ここでは、金額がどこで変わるかだけを追う。
以下、月給28万円のうち基本給22万円、固定残業手当6万円(30時間分)、1か月平均所定労働時間160時間という例で計算する。
残業が設定時間に届かない月に、単価が上がる
固定残業代は、残業をしなかった月も支給される。これが得の側の中身。
残業が0時間の月は、160時間働いて28万円。時間あたり1,750円。残業がちょうど30時間だった月は190時間で28万円なので、1,473円。同じ月給でも、働いた時間で割ると277円の差が出る。残業が少ない月ほど、時間あたりの受け取りは大きくなる。
業務を早く終わらせても月給が下がらない、という性質もここから来る。1日30分ずつ早く終える工夫が、そのまま時間単価に乗る。設定時間までの範囲では、働いた時間と賃金が切り離されている。
収入がぶれにくいのは、設定時間までの範囲
月ごとの変動の幅は、設定時間と実際の残業時間の関係で決まる。
実際の残業が毎月5時間から25時間の間で動いている人は、30時間分を前払いされているので、どの月も28万円。変動はゼロ。実際の残業が20時間から45時間で動いている人は、30時間を超えた月だけ超過分が加算されるので、月給は28万円から上に振れる。
振れ幅が小さいのは、設定時間が実際の残業の上限より大きいとき。設定時間を実残業が頻繁に超えているなら、収入は毎月変わる。安定するかどうかは、制度の性質ではなく自分の残業の分布で決まる。
超過分の単価は、基本給のほうで決まる
ここが損の側の核。固定残業代は割増賃金そのものなので、割増賃金を計算する基礎となる「通常の労働時間の賃金」には入らない(労働基準法第37条)。
超過分の単価を出すと、基本給22万円 ÷ 160時間 = 1,375円。時間外労働の割増率は月60時間以下で25%以上なので、1,375円 × 1.25 = 1,718円75銭。30時間を超えた1時間ごとに、この額が加算される。
仮に同じ28万円が全額基本給で、固定残業代が無い設計だったとする。28万円 ÷ 160時間 = 1,750円。割増を付けると2,187円50銭。超過1時間あたりの差は468円75銭。月給の表示額が同じでも、残業1時間の値段は変わる。
もうひとつ確かめられること。6万円 ÷ 1,718円75銭 = 約34.9時間。この例の固定残業手当は、30時間分の割増賃金としては足りている。足りていない設計なら、設定時間の中でも差額の支払いが必要になる。求人票の金額と時間数を使えば、この割り算は自分でできる。
最低賃金の比較では、固定残業代を除く
最低賃金額以上かどうかを確かめるとき、支払われた賃金から次のものを除外する(厚生労働省「最低賃金の対象となる賃金」)。
除外されるのは6つ。臨時に支払われる賃金(結婚手当など)、1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)、所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金(時間外割増賃金など)、所定労働日以外の日の労働に対して支払われる賃金(休日割増賃金など)、午後10時から午前5時までの間の労働に対して支払われる賃金のうち通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分(深夜割増賃金など)、精皆勤手当・通勤手当及び家族手当。
固定残業代は3つ目に当たるので、判定の対象から外れる。この例だと22万円 ÷ 160時間 = 1,375円が、地域別最低賃金と比べられる額。月給28万円という表示額で最低賃金を満たしているかを見ても、判定の数字にはならない。
平均賃金には算入される
入る側の項目もある。平均賃金は、算定すべき事由の発生した日以前3か月間に支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で割って出す(労働基準法第12条)。ここで言う賃金の総額には、臨時に支払われた賃金と3か月を超える期間ごとに支払われる賃金を除いた賃金が入る。固定残業代は除外されない。
平均賃金が使われる場面は、会社の責任で休業したときの休業手当(平均賃金の60%以上)、解雇予告手当、年次有給休暇の賃金を平均賃金方式で払う会社での有給1日ぶんの額など。固定残業代が月6万円あるなら、その6万円も分子に入る。
割増賃金の基礎には入らず、平均賃金には入る。同じ手当が、計算の場面によって扱いを変える。
賞与と退職金は、算定基礎の定義で決まる
賞与や退職金の算定基礎に固定残業代が入るかどうかを、法律は決めていない。各社の規程の問題。
読む場所は、賃金規程または退職金規程の「算定の基礎となる賃金」の定義。「基本給」と書かれていれば22万円が基礎で、「基準内賃金」と書かれていればその範囲に固定残業手当が含まれるかを別に探すことになる。月給28万円のうち6万円が算定から外れるなら、賞与が基本給の2か月分の会社では12万円の差。
測り方は、4つの数字を出すこと
損得を自分で判定するのに要る数字。
- 固定残業代を除いた基本給の額
- 固定残業代の額と、それが何時間分か
- 1か月平均所定労働時間(年間の所定労働日数 × 1日の所定労働時間 ÷ 12)
- 直近3か月から6か月の実際の残業時間
1を3で割れば超過分の基礎単価が出て、2を1.25倍した基礎単価で割れば、設定時間分として足りているかが出る。4と2を比べれば、前払いを受け取っている側か、超過分を請求する側かが分かる。
どちらが自分に合うかは、残業の分布で変わる
実際の残業が設定時間より少ない月が続いているなら、その差は働いていない時間に対する賃金として受け取っている。多い月が続いているなら、超過分の単価が基本給で決まる設計の影響を毎月受けている。
同じ制度でも、残業の量と変動の仕方で結果が反対になる。だから求人票の「固定残業代30時間分」という表記だけでは、自分にとっての損得は決まらない。決まるのは、その職場で実際に発生する残業が何時間で、どれだけばらつくか。
自分の職場で記録しておくこと
明細を1枚開いて、上の4つの数字を書き出す。そのうえで、直近3か月の実際の残業時間を並べる。
記録しておくと比べやすいのは3つ。月ごとの残業時間と設定時間の差。差が出た月に、超過分が明細に別の行として載っているか。残業が発生した時刻帯。4週ぶん貯まると、設定時間が自分の働き方に合っているかを、金額と時間の両方から言葉にできる。