残業の計算でつまずく場所は、式よりも起点にある。1日8時間を超えたら残業、という説明が当てはまるのは通常の労働時間制度の職場だけで、変形労働時間制やフレックスタイム制、みなし労働時間制が適用されていると、どこからが時間外労働になるかの線が引き直される。自分の勤務形態を先に特定しないと、計算の1行目から合わなくなる。
残業の計算は、起点が形態で変わる
公開 約 5 分

計算は3つの手順に分かれる
順番は決まっている。起点を決める、時間を数える、単価と率を掛ける。
このうち2番目と3番目は、どの形態でも共通の作業になる。所定を超えた分と法定労働時間を超えた分を分けて数える手順は残業時間の計算、2つの線を分けて数えるに、1時間あたりの賃金と割増率の掛け算は残業代の計算は、3つの掛け算にまとめた。
残るのが1番目。ここから先は、形態ごとに起点が違う。
通常の労働時間制度では、線が2本
所定労働時間を超えた分と、1日8時間・1週40時間の法定労働時間を超えた分。この2本を別々に数える。所定が7時間30分の職場なら、7時間30分から8時間までの30分は割増の付かない時間外になる。
所定が短いパートタイムの働き方でも、考え方は同じ。
変形労働時間制は、定めた各日・各週の時間が起点
1か月単位の変形労働時間制では、あらかじめ就業規則や労使協定などで定めた各日・各週の労働時間を超えた部分と、期間の労働時間の総枠を超えた部分が時間外労働になる。静岡労働局の資料がそう説明している。所定が10時間と決められている日に10時間働いても時間外にはならず、11時間働いた1時間が時間外。
1年単位の変形労働時間制になると、上限が増える。長崎労働局の資料によると、対象期間が1年のときの総労働時間は法定労働時間の総枠以内、つまり40時間 × 365日 ÷ 7日 ≒ 2,085時間以内で、労働日数は1年280日以内。1日の所定は10時間まで、1週は52時間まで、連続して働ける日数は原則6日まで。勤務カレンダーに書かれた時間が、その日の起点になる。
フレックスタイム制は、清算期間の終わりで数える
フレックスタイム制では、1日8時間を超えて働いてもただちに時間外労働にはならない。判定は清算期間の単位で行われ、法定労働時間の総枠を超えた分が時間外労働になる。
厚生労働省の手引きの表では、清算期間の暦日数が31日なら総枠177.1時間、30日なら171.4時間、29日なら165.7時間。清算期間が1か月を超える場合は、期間全体で週平均40時間以内であることに加えて、1か月ごとに週平均50時間以内という線もかかる。
裁量労働制は、働いた時間を数えない
専門業務型裁量労働制では、実際に働いた時間の長短にかかわらず、労使協定で定めたみなし労働時間を働いたものとして扱う。みなし時間を法定労働時間より長く設定する場合には36協定の締結が要り、超える部分には割増賃金が発生する。
ただし、全部がみなしで処理されるわけではない。厚生労働省の解説では、休日労働と深夜労働についての規定はこの制度でも適用され、休日や深夜に働いたときは、みなし労働時間ではなく実際に働いた時間に応じて割増賃金を支払う必要があるとされている。深夜の時間帯は22時から5時まで。2024年4月1日からは、制度の適用に本人の同意が必要になった。
管理監督者でも、深夜と年次有給休暇は残る
労働基準法41条2号にあたる管理監督者には、労働時間・休憩・休日の規定が適用されない。時間外労働や休日労働の割増賃金は発生しない。
適用除外はそこまで。厚生労働省のパンフレットは、管理監督者であっても深夜業(22時から翌日5時まで)の割増賃金は支払う必要があり、年次有給休暇も一般労働者と同様に与える必要があると明記している。
判定は肩書で決まらない。部長や店長といった名称にとらわれず、労働条件の決定その他の労務管理について経営者と一体的な立場にあるかどうかを、実態に即して判断するという解釈が示されている。遅刻や早退で減給や人事考課上の不利益を受けているなら、管理監督者性を否定する重要な要素にあたる。
固定残業代があっても、起点は動かない
毎月定額で支払われている場合でも、時間外労働の数え方は変わらない。定額に含まれている時間数を超えて働いた分は、別に支払われる。含まれている時間数と金額がどこに書かれているかは固定残業代とは、何を見れば分かるかにまとめた。
自分の形態は、3か所を見れば分かる
- 就業規則の労働時間条項。始業・終業の時刻、所定労働時間、変形労働時間制やフレックスタイム制の定めがあるか
- 労使協定。フレックスなら清算期間と総労働時間、裁量労働制ならみなし時間と対象業務が書かれている。36協定の内容と一緒に事業場に備え付けられている(36協定とは、残業の上限を決める書面)
- 給与明細。時間外手当の時間数と金額、固定残業代の項目名、深夜手当の有無
この3か所で形態が特定できたら、あとは時間を数えて単価を掛けるだけ。上限の側の線は残業時間の上限、原則45時間の数え方にある。
計算した数字を、記録に残す
1か月ぶん計算してみると、自分の職場の時間の決まり方が見えてくる。起点がどこか、どの日が時間外に乗るのか、深夜に食い込む日が月に何回あるのか。
形態の名前と、起点の決まり方と、実際の時間数。この3つを控えておくと、異動や転職のときに条件を同じ土俵で並べられる。診断では、働く時間の決まり方を含めて職場の条件を記録に残せる。





