「残業の平均」として出回る数字は、どれを指しているかで大きく動く。厚生労働省の毎月勤労統計調査2025年分結果確報では、1人あたり月9.8時間。同じ調査の同じ年でも、一般労働者だけを取り出すと13.2時間、パートタイム労働者は2.3時間になる(残業時間の平均は月9.8時間)。平均を自分の数字と並べる前に、何を数えた平均なのかを確かめておきたい。
残業の平均は、何を数えた平均か
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平均に入っている時間
毎月勤労統計調査が集計しているのは、残業という言葉を使わず、所定外労働時間という項目。厚生労働省の用語の説明では、所定外労働時間数とは「早出、残業、臨時の呼出、休日出勤等の実労働時間数」と定義されている。定時後に残った時間に加えて、朝の早出も、休みの日に呼び出されて働いた時間も、ここに合算されている。自分の感覚で「残業」と呼んでいる範囲より広い。
対になる所定内労働時間数は、就業規則で定められた正規の始業時刻と終業時刻との間の実労働時間。どちらも実労働時間なので、休憩時間は賃金が支払われているかどうかにかかわらず除かれ、年次有給休暇を取った日の時間も入らない。
ここで効いてくるのが「実労働時間」という条件。事業所が記録している時間を集計する仕組みなので、記録に残らなかった時間は平均にも乗らない。固定残業代の職場では、定額に含まれる時間が勤怠記録と合っているかどうかで見え方が変わる(固定残業代とは、何を見れば分かるか)。
分母を変えると、数字が変わる
9.8時間と13.2時間の差は、集計に入れる人の範囲から出ている。パートタイム労働者を含めた全体が9.8時間、一般労働者だけが13.2時間、パートタイム労働者だけが2.3時間で、フルタイムで働いている人が自分の残業を比べる相手としては、全体の平均よりも13.2時間のほうが近い。
パートタイムの比率が高い産業ほど、全体の平均は下がる。宿泊業や飲食サービス業の数字を見るときは、この効き方を頭に入れておく。産業ごとの数字は業種別の残業時間、最長20.6時間にまとめた。運輸業,郵便業の20.6時間と医療,福祉の4.9時間では、4倍以上の開きがある。
調査が変われば、数え方も変わる
労働時間を扱う政府の統計は1つではない。毎月勤労統計調査は事業所に聞く調査で、全国調査の標本は約33,000事業所。労働力調査は世帯に聞く調査で、就業者本人の就業時間を集計する。
厚生労働省自身が、2つの調査の数値は一致しないと説明している。理由の1つが集計の単位で、労働力調査は1人が複数の仕事をしていればその人の就業時間を合計するのに対し、毎月勤労統計調査は事業所ごとに計上するため、同じ人が2か所で働いていればそれぞれの事業所で別々に数えられる。
3つめの系統が、会社が自ら公表した数字。厚生労働省の職場情報総合サイトに月平均所定外労働時間を答えた2,759社では、中央値が7.7時間だった(残業時間の中央値は7.7時間)。答えるかどうかが任意なので、公表している会社の側に偏りがある。
民間の調査でも平均残業時間は発表されている。母集団の集め方、聞き方、対象の年齢層がそれぞれ違うので、公的統計の数字と同じ軸には並ばない。数字を見かけたら、誰に何を聞いた調査かを先に読む。
平均と中央値は、同じ場所を指さない
残業時間の分布は右に裾を引く。ほとんどの人が0時間から15時間あたりに集まっていても、月に60時間や80時間働いている人が少数いれば、その人たちの時間が全体の平均を上へ引っ張っていく。中央値はその影響を受けにくい。
会社の公表値で見ると、平均8.7時間に対して中央値は7.7時間。1時間のずれ。真ん中の半分は3.1時間から12.6時間の間に入っていて、平均の1つの数字では、この幅が見えない。
「平均より上か下か」を気にするより、分布のどのあたりにいるかを見たほうが、自分の位置は掴みやすい。
平均と、法律の線は別の数字
平均は実態を集計した値で、労働基準法の上限は守るべき線。この2つは役割が違う。時間外労働の上限は原則で月45時間・年360時間(残業時間の上限、原則45時間の数え方)。
数え方も別になる。平均として集計されている所定外労働時間は所定の時間を超えた分で、法律が上限をかけているのは法定労働時間を超えた分。所定が7時間30分の職場なら、30分のずれが毎日出る。2つの線の引き方は残業時間の計算、2つの線を分けて数えるに書いた。
自分の平均を、同じ条件で出す
比較の土俵をそろえるために、自分の側も3つの数字を出しておく。
- 直近12か月の所定外労働時間を合計して12で割る。1か月や3か月では繁忙期に引っ張られる
- 12か月のうち、いちばん長かった月と短かった月を控える。幅が平均より情報を持つことがある
- 12か月を並べて真ん中の値を取る。平均と離れていれば、特定の月が全体を押し上げている
勤怠記録から拾えるのは、記録された時間だけ。打刻のあとに残って片付けた作業や、自宅で開いた資料の時間は、手元のメモや予定表と突き合わせない限り数字に出てこないので、12か月ぶんを並べる作業のついでに、記録に乗っていない時間があるかどうかも確かめておきたい。手間は30分ほど。
比べる相手を選ぶ
全体の平均9.8時間は、産業も規模も職種も混ぜたあとの数字。自分と同じ条件の人を探すなら、業種別や規模別の数字のほうが近い。それでも職場ごとの差は残る。
12か月ぶんの自分の数字を記録しておくと、転職や異動のときに同じ式で条件を並べられる。残業の長さだけでなく、月ごとの振れ幅も一緒に残しておきたい。診断では、働く時間の決まり方を含めて職場の条件を記録に残せる。





