転勤を断れるかどうかは、2枚の書面で決まる。就業規則の配転に関する条文と、雇用契約書に書かれた就業場所の「変更の範囲」。勤務地を限る定めがどちらにもなければ、企業が配置の変更を命じる権限は広く認められている、というのが厚生労働省の資料にある整理だ。
ただし現場は、断れる・断れないの二択では動いていない。転勤を経験した正社員5,827人に聞いた労働政策研究・研修機構の調査では、自身や家族の事情を理由に転勤免除の配慮を求めたことが「ある」人は12.2%。そのうち30.6%は配慮を受けられずに転勤し、29.0%は転勤の対象から外されている。同じ申し出が、会社と事情によって別の結果になっている。
可否の根拠は、就業規則と契約書に書いてある
転勤を含む配置の変更は、労働契約上の勤務地の決定権限(配転命令権)に基づいて行われる。厚生労働省が2017年に出した「転勤に関する雇用管理のヒントと手法」は、就業規則に定めがあり勤務地を限定する合意がない場合、企業が労働者の同意なしに勤務地の変更を伴う配置転換を命じることが広く認められている、と裁判例の現状を要約している。だから最初に開く書面は、法律の条文より先に自分の会社の就業規則になる。
もう1枚が雇用契約書だ。2024年4月以降に契約を結んだか更新した人は、雇入れ直後の就業場所に加えて、就業場所の「変更の範囲」が書面で示されている。改正労基則第5条第1項第1号の3による明示義務で、パートやアルバイト、契約社員、定年後の再雇用も対象に入る。「会社の定める営業所」と書いてあれば範囲は全事業所、「愛知県内」なら県内まで、「変更なし」なら動かない。この一行が、自分に起こり得る勤務地の変更の上限になっている。
転勤という語がどこまでを指すかは転勤とはに、契約書のどの欄に何が書かれるかは雇用契約書の書き方にまとめた。
命令が無効になるのは、3つの場合
就業規則に定めがあっても、命令が無制限に通るわけではない。厚生労働省の同じ資料は、権利の濫用になる場合を3つに整理している。業務上の必要性が存しない場合。業務上の必要性があっても、他の不当な動機・目的をもってなされたとき。労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき。
言い換えると、生活上の負担が重いというだけでは足りず、「通常甘受すべき程度を著しく超える」かどうかが分かれ目になる。資料が挙げる例では、子が重い疾患に罹患していて異動により家族が相当な不利益を被る事案で、配転命令が権利の濫用にあたり無効とされている。一方、家族と離れて暮らすことになる程度の不利益は、転勤に伴い通常甘受すべき範囲とされた例もある。ここは事案ごとの判断で、自分で線を引けるものではない。
退職させることを目的とした配転命令が違法とされた例も、資料には載っている。
配慮を求めた人は12.2%、結果は割れている
労働政策研究・研修機構が2016年8月19日から9月9日に実施した「企業の転勤の実態に関する調査」は、常用労働者300人以上の企業1万社と、そこで働く転勤経験のある正社員8万人に調査票を配った。有効回収は企業1,852社(回収率18.5%)、正社員5,827人(同7.3%)。正社員の側は転勤を経験した人に配られているので、転勤のない職場の人は入っていない。この調査でいう転勤は、転居を伴う異動に限られる。
その5,827人のうち、転勤免除の配慮を求めたことが「ある」人は12.2%。男性11.6%、女性14.6%で、正社員規模が小さい企業ほど割合が高くなる。求めた人(710人)の事情は、親等の介護が28.2%で最も多く、子の就学・受験19.3%、出産・育児16.9%、結婚11.7%、持ち家の購入11.3%、配偶者の勤務(共働き)11.1%と続く。
結果は次のように割れた。
| 申し出のあと何が起きたか |
割合(n=710、複数回答) |
| 配慮はなく、転勤した |
30.6% |
| 転勤対象から外された |
29.0% |
| 転勤時期をずらすなどの配慮があった |
22.4% |
| 勤務地限定正社員の雇用区分に転換した |
1.8% |
| 一般職の雇用区分に転換した |
0.6% |
「配慮はなく、転勤した」は男性32.3%、女性23.9%。求めた事情別では、持ち家の購入と子の就学・受験でこの割合が高い。介護や本人の病気に比べ、住居や教育は後回しにされやすい、と読める分布になっている。
会社の側は「あらかじめ外す」が最多
同じ調査の企業側。家族的事情に十分な理由があり本人が転勤に応じられない場合の措置を、転勤のある企業1,133社に複数回答で聞いている。最も多いのは「転勤対象からあらかじめ外す」で64.7%。「転勤時期をずらした上で、転勤させる」が40.9%、「転勤が不要な近隣の事業所へ異動させる」が22.9%、「転勤が不要な同一事業所内で類似のポストに異動させる」が13.5%、「勤務地限定制度を適用し、総合職から勤務地限定正社員に変更する」が11.7%と続く。
「いずれの措置もとらず、予定どおり転勤をしてもらう」は3.2%。
規模が小さい企業ほど「あらかじめ外す」が多く、規模が大きい企業ほど「時期をずらす」「近隣の事業所へ異動させる」が多い。拠点の数が効いている。動かせる先が多い会社は、転勤そのものをやめるのではなく、行き先か時期を変えて辻褄を合わせている。
過去3年間に企業が実際に考慮した事情は、親等の介護56.7%、本人の病気42.1%、出産・育児28.2%、結婚23.8%、子の就学・受験22.2%、配偶者の勤務20.3%。「家族的事情等は考慮しない」は7.9%だった。
言うなら、辞令より前
社員本人や家族の事情を踏まえて転勤に関する配慮を申し出る制度・機会(自己申告制度や目標管理制度の面接機会など)が「ある」と答えた企業は83.7%にのぼる。制度の名前が「転勤免除申請」である必要はなく、年に1度の自己申告書がその窓口になっていることが多い。
打診の時期について、正社員の側の希望も出ている。国内転勤では「1ヵ月超〜2ヵ月前」が43.4%で最多、「2週間超〜1ヵ月前」が22.5%、「2ヵ月超〜3ヵ月前」が16.6%。海外転勤では「3ヵ月より前」が38.3%と最も高い。実際の打診がこれより遅いなら、事情を伝える機会は辞令の前にしかない。
申し出の根拠になる条文もある。育児・介護休業法第26条は、就業場所の変更を伴う配置の変更により育児や介護が困難になる労働者がいるときは、その状況に配慮することを企業に求めている。配慮の義務であって、転勤を禁じる規定ではない。それでも、伝えていない事情は配慮のしようがない。
勤務地を限る雇用区分という別の道
1回ごとに断る以外に、契約の側を変える道もある。正社員(総合職)のなかに勤務地限定正社員の雇用区分が「ある」企業は15.8%、「ない」が82.3%(1,524社)。「ない」と答えた企業のうち、今後導入する予定が「ある」は7.7%にとどまる。
8割の職場にはこの区分がない。自分の会社にあるかどうかは、就業規則の雇用区分の章か、人事制度の説明資料で確かめられる。
自分の職場で確かめる
転勤の可否を自分の材料として持つなら、集めるのは4つ。雇用契約書の「変更の範囲」の文言、就業規則の配転に関する条文と雇用区分の章、自己申告制度の提出時期、それに自分の部署で過去3年に出た転勤の件数。4つ目は社内の異動発表を数えれば出る。
本人の希望がどれくらい反映されているかの全国の数字は、異動の本人希望の反映割合にある。
workprevu の診断は、職場の条件を12の項目に割って記録する。働く時間と場所の自由度は、そのうちの1つ。自分の答えと同じ職場の人の答えを並べて、どこがずれているかを見る形にしてある。