異動の本人希望、反映は約1割

本人が手を挙げて決まる異動は、1年間に行われる異動のうち1割程度。手挙げの仕組みを持っている企業に限った、平均1.1割という値である。パーソル総合研究所が2021年に行った調査の数値。希望を申告する仕組みそのものは、キャリア自己申告制度が63.0%、社内公募制度が55.7%の企業にある。制度の数と、実際に希望が通る数のあいだが開いている。

誰に聞いた数字か

調査は2021年7月21日から8月1日にかけて、インターネットで行われた。対象は従業員300人以上の企業で、異動配置を把握している経営層・人事が652人、正社員の一般社員層が3,000人。ここに、直近の異動が会社主導だった人900人と、直近の異動が個人希望だった人200人を足した4つのサンプルで、企業がどう運用しているかと、動かされた本人がどう受け取ったかを別々に聞く形になっている。管理職は入っていない。

一般社員層のうち、1年間に異動する人は2.1割。定期異動の仕組みがある企業は70.1%で、従業員5,000人以上に限ると80.7%まで上がる。

制度はあっても、半分は動いていない

個人の希望を反映する仕組み 制度がある 活用されている
キャリア自己申告制度 63.0% 42.0%
社内公募制度 55.7% 33.1%
フリーエージェント制度 34.8% 20.7%

「活用されている」は、制度があると答えた企業のうち、実際に動いていると人事が答えた割合である。社内公募制度では、制度のある55.7%に対して活用されているのは33.1%。差は22.6ポイント。

申告する箱はあるのに、そこから異動が生まれているとは限らない。この差が、冒頭の「1割程度」を生んでいる。

1.1割は、394社の平均を均した値

手挙げ制に含まれるのは、社内公募制度・社内FA制度・キャリア自己申告制度の3つ。このどれかを持っている企業394社に対して、1年間に行われた一般社員層の異動のうち手挙げで決まったものがどのくらいを占めるかを聞き、その回答を加重平均した結果が1.1割だった。

手挙げによる異動の割合 企業の割合
ほとんどない 39.1%
1割程度 36.8%
2割程度 15.7%
3割以上 8.4%

平均より、分布のほうが事情を語る。手挙げから生まれる異動が「ほとんどない」と答えた企業が4割近くを占めていて、1.1割というひとつの数字は、この山をならしたあとに残った値でしかない。母数も限られる。仕組み自体を持たない会社まで含めた全体の割合は、この調査からは出てこない。

公募のかかり方も一定ではない。タイミングは「決まったタイミングはなく、随時公募している」が43.5%で最も多く、募集ポジションのほうは「ごく限られたポジション」と答えた企業が48.2%で、公募という言葉から受ける印象ほど広い入口にはなっていない。

異動の7.5割は、事業の都合でその都度決まる

定期異動のある企業で、1年に行われた一般社員層の異動のうち、定期異動によるものは平均2.5割。残りの7.5割は、事業の必要性に応じて随時決まった異動である。

希望を出す側から見ると、この比率の意味は小さくない。決まった時期に一斉に行われる2.5割のほうは、申告のタイミングを合わせられる。7.5割のほうは、いつ枠ができるかが事業の側で決まるので、申告を出した時点では読めない。申告が通らなかったのか、そもそも枠が立たなかったのか。本人には見分けがつかない。

応募の前に、上司の許可がいる

社内公募制の応募条件として「所属部門の上司の許可や推薦を得る必要がある」と答えた企業は45.2%あった。応募先は人事でも、その前に、いま自分を使っている部署から承認をもらう設計になっているので、部署の人手が足りない時期に希望を出した人は、公募の入口に立つ前のところで止まる。承認を出す側との関係が詰まっているなら、何が噛み合っていないのかを先に分けておくと話が早い。上司と合わない原因を4つに分けるに分け方を書いた。

異動配置について「明確な方針がある」と答えた企業は35.0%。残りの企業では、方針が言語化されないまま、事業の都合に合わせて人が動かされている。社内公募制度の廃止や縮小を検討している企業がその理由に挙げたのは、1位が要員計画に沿った配置が困難、2位が部門間の調整が困難で45.7%だった。

会社主導か本人希望かで、異動後が変わる

異動した後に職務に満足していると答えた人は、会社主導の異動では38.7%、個人希望の異動では55.5%。16.8ポイントの差がついた。

異動の前後で「不満足」から「満足」に変わった人に絞ると、会社主導が12.0%、個人希望が23.0%。こちらは1.9倍。ただし個人希望で異動した人の回答は200人ぶんしかなく、そもそも希望を出せる状況にいた人が答えているので、希望どおりに動けば満足が上がるという向きに読むと、順序が入れ替わる余地が残る。

異動理由について十分な説明を受けたと答えた異動者は4割程度だった。説明があった人ほど異動後の適合が進んでいた、という分析も同じ報告書に載っている。説明が返ってこなかったとき、面談で何を聞くかは1on1で上司に何を話すか、3行で決めるにまとめた。

動きたい人は35.8%、命令を断りたい人は21.6%

異動したいと考えている一般社員は35.8%だった。20代男性で40.1%、20代女性で47.5%。所属部門の在籍年数が5年を超えると、この割合は下がっていく。動きたい人が多いのは、まだ動いていない期間が短いうち。

反対向きの質問もある。会社が指示する異動をどう受け止めるかを聞いた結果が、次の表。

職種の変更を伴う異動命令への受け止め 割合
会社の指示なので従う 43.2%
希望条件に合えば従う 35.2%
希望条件に合わなければ拒否する 14.4%
拒否できないのであれば、退職や転職を検討する 7.2%

下の2つを足した21.6%が、拒否の意向を持つ層になる。事業部門の変更を伴う異動では21.3%、転勤を伴う異動では30.6%。転勤だけ1割ほど高い。

聞いているのは意向であって、実際に断った件数ではない。命令が出たあとに何人が断ったかは、この調査に出てこない。退職や転職を検討すると答えた7.2%が、その後どう動いたかも同じ。人が会社を辞める理由の並びは転職理由ランキング、男女で1位が違うにある。

この「1割」で言えないこと

調査は2021年夏の状況を写したもので、その後に社内公募を広げた企業の動きは入っていない。5年前の数字である。

対象は従業員300人以上の企業に限られる。300人未満で働く人の異動がどう決まっているかは、この調査の外。

制度の有無も活用状況も、答えているのは経営層と人事であって、申告した本人ではない。申告したのに反映されなかった件数は、どちらの側にも集計されていない。

「1割程度」は報告書のサマリの書き方で、本文の該当ページには加重平均1.1割と出ている。ただし母数は手挙げ制の仕組みがある企業394社。仕組みの無い企業を含めた全体の割合は、この調査からは出せない。

自分の申告が、どこで止まったか

希望を出したのに動かなかったとき、どこで止まったのかは制度の名前を見ても分からない。申告書を出した日付。上司との面談で希望を口にした回数と、そのときの返答。公募に応募した件数と、結果が返ってきた日数。

3つとも自分で数えられる。集計された55.7%や33.1%は、この記録の代わりにはならない。

異動の希望を次に出すとき、材料になるのは自分の記録のほうである。何を希望し、いつ誰に伝え、何が返ってきたか。書き留めたものが4週ぶん貯まると、面談の場で話せることが変わる。

出典

  1. 一般社員層(非管理職層)における異動配置に関する定量調査/パーソル総合研究所/2021年7月21日〜8月1日実施(従業員300人以上企業の経営層・人事652人、一般社員3,000人、会社主導の異動経験者900人、個人希望の異動経験者200人)
  2. 同 調査報告書(PDF)
  3. 同 調査結果のニュースリリース(2021年12月9日)