役割葛藤とは、同時には満たせない要求を同時に受けている状態を指す。上司は今日中に出せと言い、取引先は仕様の作り直しを求め、どちらに合わせても片方の約束が割れる。そういう場面。
この語に名前が付いて測られているのは、職場のストレスを測る調査票が「仕事の負担」の一要素として項目を立てているからで、厚生労働省のこころの耳が公開している新職業性ストレス簡易調査票(80項目版)では、役割葛藤は項目59のたった1問で測られる。
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役割葛藤とは、同時には満たせない要求を同時に受けている状態を指す。上司は今日中に出せと言い、取引先は仕様の作り直しを求め、どちらに合わせても片方の約束が割れる。そういう場面。
この語に名前が付いて測られているのは、職場のストレスを測る調査票が「仕事の負担」の一要素として項目を立てているからで、厚生労働省のこころの耳が公開している新職業性ストレス簡易調査票(80項目版)では、役割葛藤は項目59のたった1問で測られる。
言い換えると、どれか1つを選ぶと残りが果たせなくなる要求が、複数そろって自分に向いている状態。要求の中身が難しいかどうかは関係がない。やさしい作業でも、2人から逆のことを言われれば葛藤になる。
量が多すぎる状態とも違う。残業が長いのは要求の総量の問題で、葛藤は要求どうしの向きの問題。似た語の「役割の曖昧さ」は、何を期待されているかの情報が足りない状態を指すので、こちらとも切れ目がある。曖昧さのほうは役割の曖昧さとは、何が決まっていない状態かに書いた。指示が無いのか、指示が2つあるのか。困り方の出発点が違う。
80項目版の項目59は「複数の人からお互いに矛盾したことを要求される」。あてはまるほうから順に1点、2点、3点、4点が付き、点が高いほど葛藤が強いと読む。尺度としてはこの1項目だけ。
この問いは57項目の職業性ストレス簡易調査票には入っていない。あとから23項目を足して80項目版にしたとき、情緒的負担や役割明確さと一緒に追加された尺度のひとつ。だから、勤め先のストレスチェックが57項目版なら、役割葛藤は測られていない。
採点では、役割葛藤は単独で見るより束で見るように作られている。量的負担・質的負担・身体的負担・対人関係・職場環境・情緒的負担・役割葛藤・ワーク・セルフ・バランス(ネガティブ)の8つを平均したものが、仕事の負担の合計点になる。
研究で使われてきた尺度は別系統のものが主流で、役割葛藤と役割曖昧性を扱った研究のおよそ85%が、1970年に作られた同じ尺度を使っていた(Jackson & Schuler 1985)。項目数も語り口も違うが、測ろうとしている中身は変わらない。
同じ「板挟み」でも、出どころが違う。別々の相手から逆の要求が来るものを intersender role conflict と呼び、担っている役割どうしがぶつかるものを interrole conflict と呼ぶ(Jackson & Schuler 1985)。
前者は、たとえば品質を求める上司と納期を求める部署のあいだに立つとき。後者は、現場の担当者であり同時に新人の指導役でもある、というように自分が2つの役割を持っているとき。対処の向きが変わるので、自分のがどちらかは先に見分けておきたい。相手の調整が要るのか、役割の切り分けが要るのか。
仕事と家庭の両立も広い意味では役割のぶつかり合いだけれど、この調査票では役割葛藤に入れていない。項目75「仕事のことを考えているため自分の生活を充実させられない」がワーク・セルフ・バランス(ネガティブ)として独立している。
つまり、公開されている尺度での役割葛藤は、職場の中で受け取る要求どうしの矛盾に絞られている。家に持ち帰った疲れを役割葛藤の点数で説明しようとすると、尺度の範囲からはみ出す。
役割葛藤の点が低い職場には、2通りある。要求を出す側が先に調整している職場と、そもそも要求が自分まで届いていない職場。後者は、裁量の小ささや人と接する量の少なさとして別の尺度に出る。
どちらなのかは、役割葛藤の点だけでは判別できない。仕事の量、人からの反応の多さ、決定に関われる範囲。同じ調査票の他の項目と並べたとき、はじめて自分の職場の形が見えてくる。葛藤が少ない状態を目標に置くと、要求が来ない場所を選んでしまうことがある。
4週間、矛盾した要求を受けた回数を記録してみる。日付、誰からと誰からか、どちらを選んだか。3列だけでいい。
回数が出たら、相手の組み合わせを見る。同じ2人のあいだで繰り返しているなら、その2人の調整が付いていないという事実が残る。相手が毎回違うなら、役割の切り分けのほうを疑う。どちらも、自分の性格ではなく職場の条件として記録できる。
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