役割が曖昧とは、自分の仕事の内容と責任の範囲について、判断に足る情報が手元にない状態を指す。研究では役割曖昧性と呼ばれ、役割の明確さはその裏返し。似た言葉の役割葛藤は別の状態で、こちらは複数の相手から矛盾した要求が来ていることを指す。情報が足りないのか、情報が互いにぶつかっているのか。この2つは混ざりやすいので、先に分けておきたい。
役割の曖昧さとは、何が決まっていない状態か
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定義は「情報が足りない」と「情報が多義的」の2つに分かれる
役割の曖昧さと呼ばれる状態には、成り立ちが2通りある。ひとつは情報の不足。担当範囲がどこまでか、何をもって完了とするか、誰が決めるかが示されていない場合。もうひとつは情報が多義的であること。示されてはいるが、読み方が複数あって一つに定まらない場合で、「適宜判断して」「必要に応じて」といった言葉で渡された指示がこれに当たる。
困り方は同じでも、打ち手は反対を向く。足りていないなら不足を埋めてもらうしかないが、多義的なほうは自分でどの読み方を採るかを一つ決めて、それで合っているかを手を動かす前に確認したほうが、あとの作り直しが小さくなる。
役割の明確さは、この曖昧さが小さい状態を指す。自分の職務と責任が何であるか分かっている、と言い換えられる。用語としては、明確さのほうを測る尺度と曖昧さのほうを測る尺度が両方ある。
役割葛藤は、矛盾した要求のこと
役割葛藤は、要求そのものが互いに食い違っている状態。直属の上司は品質を優先せよと言い、その上の立場からは納期を守れと言われる。片方を満たすともう片方が満たせない。情報は足りているのに進めない、という形になる。
研究の尺度でも、この2つは別の下位尺度として分けて測られる。実際の職場では同時に起きる。判断に関わる人が3人4人といる職場では、そのぶん要求が食い違いやすく、同時に「最後に誰が決めるのか」も書かれていないことが多いので、2つの状態が重なって現れる。
ほかに、役割超過(担える量を超えた要求)や役割のミスマッチ(求められることと持っている技能が合っていない)という言い方もある。役割超過は量の問題で、曖昧さは情報の問題。混ぜて数えると、どこに手を打てばいいかが分からなくなる。
測り方
研究で使われている代表的な尺度が、役割葛藤と役割の曖昧さを分けて測るRCAS(Role Conflict and Ambiguity Scale)。日本語版のRCAS4は役割葛藤15項目、役割の曖昧さ14項目で、1〜7点の7段階評定で答える形になっている(東北文化学園大学 看護学科紀要、日本語版RCAS4を用いた調査)。項目数が多いので、日常で自分に当てるには重い。
もっと短い形なら、厚生労働省が公開している職業性ストレス簡易調査票(80項目版)に該当する項目がある。
| 項目 | 設問 |
|---|---|
| 60 | 自分の職務や責任が何であるか分かっている |
| 59 | 複数の人からお互いに矛盾したことを要求される |
答え方は4段階で、「そうだ」「まあそうだ」「ややちがう」「ちがう」。項目60が役割の明確さ、項目59が役割葛藤に対応する尺度として整理されている(新職業性ストレス簡易調査票の尺度構成)。1項目ずつなので、1分もかからない。
自分に当てるときは、2つの答えを並べる。60が「ちがう」寄りで59も「ちがう」寄りなら情報が足りていない側の話で、60が「そうだ」寄りなのに59が「そうだ」寄りに振れているなら、範囲は分かっていて要求だけが食い違っているということになる。手を打つ先が変わる。
役割が曖昧なとき、職場で何が起きているか
研究で報告されているのは、仕事への満足度の低さ、組織への関与の弱まり、不安の高まりとの結びつき。因果の向きを一方に決められるものではないので、曖昧さを減らせば満足度が上がると読むのは行き過ぎになる。並んで観測される、という範囲で受け取るのが正確。
手元で先に現れるのは、たいてい作り直しの回数。完了の条件が決まっていないまま提出すると、1回目で直した内容が別の相手の基準と合わず、同じ工程を何周もする。この回数を記録する形はやり直しが多い仕事の原因を分けるに書いた。
もうひとつ、責任の所在が決まらないので、誰も拾わない仕事が残る。それを拾い続ける人が出ると、その人の担当範囲は際限なく広がっていく。範囲が広がった事実は記録に残らないことが多い。
どこまで明確だと合うかは、人によって違う
明確さは、多ければ多いほど合うという性質のものではない。職務記述書に書かれたことだけを手順どおりに進める形が合う人もいるし、範囲が決まりきっていない領域を自分で切り取って進めるほうが力の出る人もいる。前者にとっての曖昧さは負荷で、後者にとっての明確さの高さは窮屈さになる。
仮説: 役割の曖昧さと裁量の広さは、同じ状態を別の側から見ている場合がある。決まっていないから自分で決められる、という形。ただしこの2つが重なるのは、決める権限が自分にあるときだけ。権限がないまま範囲が決まっていないなら、それは裁量ではなく、判断の空白を埋める作業が増えているだけ。裁量そのものの定義は裁量権とはに分けてある。
だから「役割が明確な職場を探す」よりも、自分にとってどの粒度で決まっていればいいのかを言葉にしておくほうが早い。ゴールだけ決まっていればいいのか、手順まで決まっていてほしいのか。求める粒度は人によって違う。
自分の職場を数える
曖昧さの程度は、回数の比で見当がつく。直近10件の依頼を思い出して、完了の条件(何を、いつまでに、どの品質で、誰の承認で)が言葉で示されていたものが何件あったかを数えるだけでいい。3件以下なら、確認の一手は毎回自分から出す前提で組むことになる。
もう1つ数えられるのは、決める人の数。1件の仕事について承認や判断に関わる人が3人以上いるなら、役割葛藤の側の条件が揃っている。人数と、その人たちの要求が食い違った回数を並べて書いておく。
面談で渡すときは、印象より記録が通る。確認の型と、上司から条件を引き出す聞き方は1on1で上司と何を話すかとフィードバックのもらい方にまとめた。
用語の整理
| 用語 | 指す状態 |
|---|---|
| 役割の曖昧さ(役割曖昧性) | 仕事内容と責任の範囲についての情報が足りない、または多義的 |
| 役割の明確さ | 自分の職務と責任が何であるか分かっている |
| 役割葛藤 | 複数の相手から矛盾した要求を受けている |
| 役割超過 | 担える量を超えた要求を受けている |
4つのうち自分がどれに当たるのかが決まれば、次に確かめる場所も決まる。範囲の話なら完了の条件、要求の食い違いなら決める人の順番、量の話なら件数と時間。





