実労働時間とは何を数える時間か

実労働時間は、休憩を抜いて実際に働いた時間の合計を指す。何を「働いた」と数えるかは、厚生労働省のガイドラインが決めている。労働時間とは使用者の指揮命令下に置かれている時間のことをいい、使用者の明示または黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は労働時間に当たる——これが線引きの基準になっている。

指揮命令下かどうか。判定はここ一点で、就業規則にどう書いてあるかは決め手にならない。

法定・所定・実労働の3つは、決めている人が違う

似た語が3つ並ぶので、何が数字を決めているかで分けると早い。

語 決めているもの 例
法定労働時間 労働基準法32条 1日8時間、1週40時間
所定労働時間 就業規則や労働契約 9時始業18時終業、休憩1時間なら1日8時間
実労働時間 その日に実際に指揮命令下にあった時間 日によって変わる

法定は上限で、所定はその範囲内で会社が決める。実労働時間だけが、毎日動く。所定7時間の職場で6時間で帰った日は実労働6時間、22時まで残った日は実労働11時間。契約に書かれた数字と、その日の数字は別物。

数えるかどうかは、契約書の記載ではなく実態で決まる

ガイドラインははっきり書いている。労働時間に該当するか否かは、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんによらず、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まる。

そのうえで、労働時間として扱わなければならない時間を3つ挙げている。

  • 使用者の指示により、就業を命じられた業務に必要な準備行為(着用を義務付けられた所定の服装への着替え等)や業務終了後の業務に関連した後始末(清掃等)を事業場内において行った時間
  • 使用者の指示があった場合には即時に業務に従事することを求められており、労働から離れることが保障されていない状態で待機等している時間(いわゆる「手待時間」)
  • 参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講や、使用者の指示により業務に必要な学習等を行っていた時間

3つ目が効いてくる場面は多い。参加が義務づけられた研修は、土曜に行われても、社外の会場であっても労働時間。逆に、参加が本人の選択に委ねられている勉強会は、同じ会議室で同じ時間に開かれていても扱いが変わる。ガイドラインはこれら以外でも、指揮命令下にあると評価される時間は労働時間として扱うこと、と付け加えている。

含まれない側も、同じ基準の裏返しで決まる。通勤は使用者の指揮命令下に入らないので、片道1時間かかっても実労働時間には乗らない。休憩も、労働から完全に離れていられるなら乗らない。ただし電話番を頼まれた昼休みは、労働から離れることが保障されていない状態——ガイドラインが手待時間として労働時間に数える側に寄る。

判断が分かれるのは、誰も指示していないように見える早出と居残りだ。線を引くのは明示の指示だけとは限らない。黙示の指示も、この基準に含まれる。始業20分前の朝礼が事実上の出席前提で回っていたり、終業後の片づけを誰かがやらないと翌朝の作業が始まらないなら、指示が言葉になっていなくても指揮命令下にあったと評価される余地は残る(推定)。

計算は、拘束時間から休憩を引くだけ

始業から終業までの時間から、休憩を引く。それが1日の実労働時間で、ここまでは単純。

分かれるのはその先だ。所定を超えた分のうち、法定労働時間の枠に収まっている部分(法内残業)と、はみ出した部分(法定時間外労働)で扱いが違う。所定7時間の職場で9時間働いた日を例にすると、実労働9時間、うち1時間が法内残業、もう1時間が法定時間外。法定時間外の1時間には、労働基準法37条の定める割増賃金がつく。法内残業の1時間にも賃金は発生するが、割増の義務はない。

週の側も見る。1日8時間を超えていなくても、週の合計が40時間を超えた部分は法定時間外。

上限も、この法定時間外の側に掛かっている。会社が法定時間外を命じるには、労使協定(労働基準法36条、いわゆる36協定)を結んで行政官庁に届け出る必要があり、協定で定められる時間にも限度がある。原則は1か月45時間、1年360時間。臨時の事情があるときの特別条項を付けた場合でも、1年720時間以内、休日労働を含めて1か月100時間未満、2〜6か月の平均で80時間以内、45時間を超えられる月は年6か月までという枠が法律に書かれている。

数え方そのものが変わる制度もある

始業と終業が毎日同じ枠で動いているなら、引き算は前の節の形で足りる。就業規則がどの制度を採っているかによって、枠の側が動く。

変形労働時間制は、1か月以内または1年以内の期間を平均して週40時間を超えなければ、特定の日に8時間、特定の週に40時間を超えて働かせられる仕組み(労働基準法32条の2、32条の4)。繁忙期に10時間の日を置き、閑散期を短くする形。この制度の下では、8時間を超えた日がそのまま法定時間外になるとは限らない。フレックスタイム制(32条の3)は始業と終業の時刻を本人の決定に委ねる制度で、3か月以内の清算期間を平均して週40時間の枠を見る。

事業場外で働いて労働時間を算定し難いときは、所定労働時間働いたものとみなす扱いがある(38条の2)。その業務にふだん所定を超える時間がかかるなら、みなすのは通常必要とされる時間のほう。どちらにしても、その日に何時間働いたかとは別に、みなした時間が賃金計算の土台になる。自分で数えた時間と給与明細の根拠がずれる場面の代表。

把握する義務は会社の側にある

ガイドラインは、使用者に労働日ごとの始業・終業時刻を確認して記録することを求めている。方法は原則として2つ。使用者が自ら現認して記録するか、タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し記録するか。

自己申告制でやらざるを得ない場合の縛りも書かれている。申告した時間と入退場記録やパソコンの使用時間との間に著しい乖離があるときは実態調査をして補正すること、申告できる時間外労働の時間数に上限を設けて上限を超える申告を認めない等、適正な申告を阻害する措置を講じてはならないこと。時間外労働の削減を求める社内通達や、手当の定額払いが申告を妨げる要因になっていないかの確認まで含まれている。

対象から外れる人もいる。労働基準法41条に定める者、いわゆる管理監督者などと、みなし労働時間制が適用される労働者は、このガイドラインが労働時間の適正な把握を求める対象に入っていない。ただしガイドラインは、適用されない労働者についても健康確保を図る必要があることから、使用者において適正な労働時間管理を行う責務があること、と書き添えている。

法律の側では、2019年4月から労働安全衛生法66条の8の3が、医師による面接指導を行うために、労働時間の状況を把握することを事業者に義務づけている。こちらは管理監督者も、みなし労働時間制で働く人も対象に含む(高度プロフェッショナル制度の対象者は、健康管理時間という別の仕組みで扱う)。管理職になった時点で自分の時間を数えなくてよくなる、という話にはならない。

何時間が自分に合うかは、上限とは別の問題

法と労使協定が決めるのは上限で、適量ではない。同じ週45時間でも、通勤に往復2時間かかる人と徒歩10分の人では、手元に残る時間が3時間以上違う。回復に必要な睡眠の長さにも個人差があるし、収入の必要額も、経験を積みたい時期かどうかも人によって違う(推定)。

短ければ短いほど合う、とも限らない。所定労働時間を減らした結果、任される仕事の範囲が変わることもある。

だから実労働時間は、上限を守っているかどうかの確認と、自分に合う長さを探す作業の、2つの使い方がある。前者は会社の記録で足りる。後者には、日ごとの数字と、その日に何をしていたかの対応がいる。世の中の所定外労働時間が実際に何時間あたりに落ちているかは残業時間の平均は月9.8時間に、業種で割った幅は業種別の残業時間、最長20.6時間に置いた。

会社の記録と、自分の記録を突き合わせる

4週間、始業・終業・休憩の実際を自分でも書いてみる。会社の記録と並べて、ずれている日を探す。ずれの原因は、始業前の準備、終業後の片づけ、休憩中にかかってきた電話のどれかに集まることが多い。

差が数字で出ていれば、面談で持ち出せる。感覚の話にならずに済む。

出典

  1. 労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン/厚生労働省/平成29年(2017年)1月20日策定
  2. 同ガイドライン本文(厚生労働省、PDF)
  3. 労働基準法(昭和22年法律第49号)第32条・第32条の2から第32条の4・第36条・第37条・第38条の2/e-Gov法令検索
  4. 労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)第66条の8の3/e-Gov法令検索