1on1で話すことがない、の正体

「話すことがない」のは、材料が無いからではない。報告の形になる材料が無いだけだ。数字が動いた、締め切りが近い、誰かと揉めた。そういう報告になる出来事が1つも無かった月に、面談の枠だけが先に決まっていて、15分をどう使うかという問いが残る。

探し方を変えると、材料は出てくる。見るのは出来事ではない。職場の条件のほう。

ネタの一覧を見ても、自分の1か月は出てこない

面談の話題を並べた一覧は、どれも似た作りをしている。最近の業務状況、業務上の課題、キャリアや将来の方向性、スキルアップのニーズ、職場環境への意見、コンディションといった項目が7つから10ほど並び、どれを選んでもいいという形になっている。

項目はラベルだ。「最近の業務状況」というラベルを見て、先月の自分の仕事に何が起きたかを順に思い出せる人なら、そもそも前日になって話題を探して困ることはない。一覧が効くのは話題を選ぶ段で、材料を作る段には効かない。

職種別の例も同じ。営業なら数字、エンジニアなら技術、事務なら手続き。自分の職種の欄を読んでも、今月の自分の欄は埋まらない。

材料の棚は、職場の条件12項目

出来事の代わりに、条件を棚にする。workprevu の診断で測っている職場の条件は12ある。

  • 変化の速さ
  • 裁量
  • 手順の明確さ
  • 人と接する量
  • 暗黙の型の強さ
  • 人からの反応
  • 結果が見えるまでの長さ
  • 仕事の完結性
  • 学ぶことの量
  • 仕事が誰に届くか
  • 時間と場所の自由度
  • 確認の頻度

この1か月で、どれか1つでも動いていないかを見る。たとえば裁量。先月まで自分で決めていた発注先の選定に今月から事前確認が入ったなら、条件が1つ動いたことになり、いつから誰の確認が入るようになったかを書くだけで材料になる。確認の頻度でもいい。週1回の報告が日次に変わったなら、同じく動いている。

動いた項目が1つ見つかれば、面談の15分は埋まる。出来事として語れないことが、条件の変化としては語れる。報告するほどではないと自分で捨てていた変化が、面談の側ではいちばん聞きたかったことだったりする。

4週間変わらなかったことも、材料になる

12項目を見て、どれも動いていないとき。これも持っていける。

「4週間、どの条件も変わっていません」は報告として成立する。面談で確かめられているのは変化の有無で、変化が無いという答えは答えの1つ。むしろ、動いていないことを言わないと、上司の側は何も起きていないのか、言えないことが起きているのかを区別できない。

安定している、と言い切れる月は貴重だ。どの条件も動いていないと言える月が半年ぶん続いた記録は、そのあとで条件が崩れたときに、いつから何が変わったのかを示す基準になる。

相手はいても、持ち出さない人が3割いる

材料の問題でないこともある。相手の側の条件だ。

厚生労働省の令和7年労働安全衛生調査(実態調査)によると、仕事や職業生活の不安、悩み、ストレスについて相談できる人がいる労働者は94.8%。ところが、相談できる人がいる労働者のうち実際に相談したことがある人は71.2%にとどまる。相手はいるのに持ち出していない人が、3割近くいる。

相談できる相手として上司を挙げた割合は、就業形態で開く。正社員66.6%に対して、契約社員49.8%、派遣労働者50.7%、パートタイム労働者61.7%。正社員と契約社員で16.8ポイントの差。

雇用の形が違うだけで、同じ職場の同じ上司が相談先として挙がるかどうかが変わり、面談の枠が同じように設定されていても、持ち出せる話の範囲は人によって違ってくる。「話すことがない」の中には、「この人に話せることが無い」が混ざっている。どちらなのかは、12項目を見て材料が出たかどうかで分かれる。材料は出たのに持っていく気にならないなら、問題は材料の側ではない。

材料が貯まらないのは、間隔の問題かもしれない

毎回空になるなら、面談の間隔と仕事の変わる速さが合っていないのかもしれない。1か月で条件が1つも動かない仕事はあるし、それ自体は何の問題でもない。

部下が受ける1on1はひと月0.8回という間隔で、変化の速い仕事を基準に設計されている。自分の仕事の変化の速さがそれより遅いなら、枠のほうが多い。面談の頻度や長さを動かす話は、1on1をやめてほしいと感じたらに手順を書いた。

面談そのものの目的と、調査が定義に入れた要素は1on1とは何をする面談かにある。

今週やること

次の面談の前に、12項目を上から見る。動いた項目があれば、その項目名と動いた日付、動く前と後の状態を1行で書き、どれも動いていなければ「4週間変化なし」の1行で足りる。

それだけで、面談の前日に話題を探す時間は消える。やることが、探す作業から記録を読み上げる作業に変わるからだ。

診断の設問に答えておくと、12項目について自分が合うと感じる水準も残る。いまの職場の条件と、自分の水準の差。面談で持ち出す材料は、たいていその差の中にある。

出典

  1. 令和7年 労働安全衛生調査(実態調査)結果の概況(厚生労働省、2025年10月31日現在。個人調査 有効回答8,393人。ストレスの相談状況はp.18、第18表)