公正の知覚とは、職場の何を指すか

公正の知覚とは、職場の決定について「公正かどうか」を働く人の側が感じ取った判断を指す。研究では組織的公正(organizational justice)と呼ばれ、分配的公正・手続き的公正・相互作用的公正という3方向に分けて扱われてきた。測っているのは決定そのものの性質ではなく、それを受け取った人の知覚のほう。

同じ昇給額を受け取っても、決め方の説明を聞いた人と聞いていない人では、公正かどうかの判断が分かれる。額は同じ。分かれ目を研究の単位に載せるために、この語は置かれている。

3方向に分かれている

分配的公正(distributive justice) は、報酬・昇進・配置といった資源の配分、つまり決定の結果についての知覚。自分の投入と得たものの比が、比べる相手のそれと釣り合っているかで判断される、という衡平理論(equity theory)が出発点になっている。

手続き的公正(procedural justice) は、その結果に至る手順についての知覚。1975年のThibautとWalkerの研究を起点に広がり、組織的公正の研究における関心は、配られたものが釣り合っているかという問いから、そこへ至る決め方が妥当だったかという問いのほうへ移っていった。移った先が、いまの主戦場。

相互作用的公正(interactional justice) は、結果に至るまでにどれだけ個人的な配慮や誠意が示され、偏った対応をされなかったかについての知覚。組織の代理人である上司とのやりとりが、ここに入る。

相互作用的公正には、さらに2つの下位次元が置かれることがある。部下を丁寧に扱っているかを見る対人的公正と、対人的な扱いのなかで適切な情報が開示されているかを見る情報的公正。前者は丁寧さ、品位、尊敬に関わり、後者は説明の有無に関わる。

「組織的公正とは」で調べたときに出てくるのは、この3つ(または4つ)を束ねた総称のほう。個別の1つを指すときは、分配的・手続き的・相互作用的のどれかを前に付けて呼ぶ。

手続きの公正さを判断する6つの基準

手続き的公正が何によって決まるかについては、Leventhalが1980年に示した6つの基準が古典として引かれる。

  1. 一貫性 — 手続きが適用される人や時期が違っても、同じように運用されている
  2. 偏見抑制 — 決める側の私心や先入観が入っていない
  3. 正確性 — 決定の根拠になる情報が正確である
  4. 修正可能性 — 決定を見直す道が用意されている
  5. 代表性 — 影響を受ける人たちの関心や価値、見解が反映されている
  6. 倫理性 — その人の道徳的・倫理的な価値観に反していない

このうち代表性は、決定の過程で意見を言う機会があるかどうかに当たる。発言の機会は voice とも呼ばれ、ThibautとWalkerのいう過程のコントロールにつながる論点。評価面談で自分の言い分を先に聞かれるかどうかが、結果が同じでも知覚を変える、という形で効いてくる。

測り方は質問票

産業保健の領域では、組織的公正質問票(OJQ)の日本語版が使われている。北里大学公衆衛生学が公開している版では、下位尺度は手続き的公正が7項目、相互作用的公正が6項目。回答は「1=全く当てはまらない」から「5=非常に当てはまる」までの5件法になっている。

原版はElovainioらが2002年に開発したもので、日本語版は井上らが訳し、信頼性と妥当性を検討して2009年に『Journal of Occupational Health』誌で報告した。分配的公正はこの尺度に含まれていない。産業保健の研究が、手続きと相互作用の2つに絞って健康との関連を追ってきたため。

手続き的公正の項目が聞くのは制度と運用、相互作用的公正の項目が聞くのは直属の上司の接し方。答える人が頭に思い浮かべる対象そのものが、7項目と6項目のあいだで切り替わるので、合計点を1つにまとめてしまうと、制度への評価と上司への評価が同じ袋に入る。対象が違う。

高いほどいい、とは書かれていない

公正の知覚は、値が上がれば上がるほど何かが良くなる指標として置かれているわけではない。研究の多くは、低い状態が何と結びついているかを追う形を取ってきた。組織的公正が低いと感じられている職場で働く人の健康を追跡した調査が、産業保健の側から重ねられている。

配分の原理そのものが複数ある。成果に比例させる配り方、全員に等しく配る配り方、必要の大きい人へ多く配る配り方。どれを公正と感じるかは、その人が職場に何を求めているかで変わる(推定)。同じ制度のもとで、若手と管理職が反対の判断を出すことは珍しくない。逆も起きる。

分配・手続き・相互作用の3つは、同じ方向を向くとも限らない。結果に納得していなくても手順は妥当だと感じることはあるし、手順が形式的でも上司の説明が丁寧であれば知覚は持ち直す。3つを1つの「公正感」に潰してしまうと、どこが欠けているのかが見えなくなる。

自分の職場で数えられる形に割る

13項目の尺度を職場に配れる人は多くない。手元だけで数えられるものに割る。

  • 直近の評価や配置の決定について、基準の説明を受けた回数
  • 決定の前に、自分の言い分を聞かれた回数
  • 決定から説明までにかかった日数
  • 見直しを申し出る先が示されているかどうか(示されていない場合は0)

上の4つは、Leventhalの基準でいえば正確性・代表性・修正可能性に対応する。感覚を数と日付に置き換えておくと、面談で持ち出す形になる。

給与や賞与の決め方そのものを聞きたいなら、給与の決まり方の聞き方に切り出し方をまとめてある。上司からの説明が少ないと感じているなら、フィードバックのもらい方のほうが近い。

出典

  1. 組織的公正理論の課題と理論的展望 ―公正な人事管理に向けて―/余合淳/岡山大学経済学会雑誌 47(2), 187-203/2016年(分配的公正・手続き的公正・相互作用的公正の定義と下位次元)
  2. 政策と公正さ ―分配的公正研究と手続き的公正研究のレビュー―/柳至/立命館法学 2021年(Leventhal 1980 の6基準、Thibaut and Walker 1975 の過程のコントロール)
  3. 組織的公正質問票(OJQ)日本語版/北里大学医学部公衆衛生学(手続き的公正7項目・相互作用的公正6項目・5件法、Inoue et al. J Occup Health 2009;51:74-83、原版 Elovainio et al. 2002)
  4. 職業性ストレスと組織的公正/井上彰臣/ストレス科学研究 25巻/日本ストレス学会