ベースアップの平均、産業差は3.7倍

「ベースアップの平均」として公表されている数字は、ベア単独の額ではない。厚生労働省の賃金引上げ等の実態に関する調査が出しているのは1人平均賃金の改定額で、令和7(2025)年は13,601円、改定率は4.4%。定期昇給を含んだ値である。

産業別に割ると、建設業の20,724円から医療,福祉の5,589円まで3.7倍の幅がある。企業規模でも6,520円ひらく。平均という1つの数字の中身は、この2つの軸で大きく動く。

13,601円が何を数えた額か

改定率は、1人平均賃金の改定額を改定前の1人平均賃金で割った割合。分母の1人平均賃金は所定内賃金の1か月1人当たりの平均額で、諸手当は含むが、時間外・休日・深夜の割増手当と慶弔手当のような特別手当は含まない。残業代を除いた部分に対する4.4%ということになる。

前年は11,961円で4.1%だった。1,640円、0.3ポイントの増加。

この13,601円には定期昇給の分が入っている。賃金表そのものを書き換えたぶんだけを取り出した額は、この調査からは出てこない。ベアと定昇の切り分け、連合の春闘集計での分解はベースアップとは、賃金表の書き換えに書いた。

企業規模で6,520円ひらく

企業規模 改定額 改定率
5,000人以上 16,784円 5.1%
1,000〜4,999人 15,859円 5.0%
300〜999人 12,308円 4.0%
100〜299人 10,264円 3.6%

上の区分と下の区分で6,520円、率で1.5ポイントの差。1,000人を境にして、上の2区分が5%台、下の2区分が4%を割っている形になっている。

100〜299人の区分は、前年の10,228円からほぼ動いていない。36円の増。率のほうは3.7%から3.6%へ下がった。全体の平均が1,640円上がった年に、5,000人以上の区分が15,121円から16,784円へ1,663円上積みする一方で、この区分だけが前年の水準で止まっている。

産業では3.7倍の幅

額の大きい側から並べると、建設業20,724円、電気・ガス・熱供給・水道業19,611円、鉱業,採石業,砂利採取業18,020円、金融業,保険業17,567円、製造業15,952円。

小さい側は、医療,福祉5,589円、生活関連サービス業,娯楽業7,744円、サービス業(他に分類されないもの)8,621円、教育,学習支援業9,300円の順。

建設業と医療,福祉の比は3.7倍。率で見ても5.9%と2.3%で、3.6ポイント離れている。同じ年の同じ調査の中にある差である。

全体が1,640円上がった年でも、額が前年を下回った産業が3つある。情報通信業は14,989円から14,096円、生活関連サービス業,娯楽業は8,543円から7,744円、医療,福祉は6,876円から5,589円。平均が上がったことと、自分のいる産業で上がったことは別に起きている。

額で上位の産業が、率では上位に来ないことがある

金融業,保険業の改定額は17,567円で5番目に大きいが、改定率は4.1%で全体の4.4%を下回る。改定率の分母が改定前の所定内賃金だからで、元の水準が高い産業では、同じ額を足しても率が小さく出る。

逆に鉱業,採石業,砂利採取業は改定率6.1%で産業のなかで最も高く、額は18,020円で建設業と電気・ガス・熱供給・水道業の下に来る。

だから自分の職場を産業の行と比べるときは、額と率のどちらで比べているかを決めておく。手取りの変化に直結するのは額のほう。賃金水準の動き方を見たいなら率。

自分の額を、同じ形の数字にする

明細から出せる。去年の同じ月の基本給と諸手当の合計から、残業代と特別な手当を除いた額を分母に置き、今年との差額を分子にして100を掛ける。これで産業の行の改定率と同じ形になる。月30万円の所定内賃金が1万円上がったなら3.3%。

ただし比べる相手は定期昇給を含んだ値なので、自分の側も定昇を含めたまま計算する。賃金表の改定だけを取り出して比べると、分子の中身がずれる。

勤め先の常用労働者が100人未満なら、この調査の母集団の外にいる。調査対象は常用労働者100人以上の会社組織の民営企業で、令和7年は3,643社に聞いて1,847社から回答があった。有効回答率50.7%。

この平均が答えていないこと

企業ごとの平均を集めた値なので、個人がいくら上がったかは入っていない。同じ会社の中でも、賃金表のどこにいるかで額は変わる。

改定を実施しない企業も分母に入っている。実施した企業だけを取ると「うち引上げ」の13,914円、4.5%になり、引き下げた企業では額が8,909円のマイナス、率で3.5%のマイナス。

産業の区分は大分類なので、同じ区分に異なる仕事が同居している。医療,福祉の5,589円は、医療機関と介護事業所の両方を含んだ値である。

昇給が少ない理由の切り分けは昇給が少ない理由は3つに分かれるに、賞与の側の数値は賞与の平均は42万円台、産業差10倍に置いた。

平均との距離より先に決まるもの

4.4%という平均と自分の率を並べても、残るのは差の数字だけである。評価と処遇のどこを見て額が決まったのかは、平均の側からは分からない。

自分の側で先に決まるのは、どの条件なら続けられるかという線。評価の頻度、基準の開示の仕方、裁量の幅。この3つは職場ごとに値が違い、同じ会社でも部署で変わる。記録が4週ぶん貯まると、昇給額の話とは別に、自分の条件との距離が並べられる。

出典

  1. 令和7年賃金引上げ等の実態に関する調査の概況(第2表 賃金改定区分・企業規模・産業・労働組合の有無別1人平均賃金の改定額及び改定率、調査対象3,643社・有効回答1,847社・有効回答率50.7%)/厚生労働省/2025年
  2. 令和7年賃金引上げ等の実態に関する調査 結果の概要・統計表一覧/厚生労働省