給与の決まり方を知りたいなら、上司に切り出す前に労働条件通知書と就業規則の賃金規程を読む。基本給の計算方法、手当の種類と支給条件、締日と支払日までは、この2つで分かる。分からないのは、評価の点数が金額に変わる部分と、その評価を誰がいつ付けているか。聞くのはそこだけでいい。
2025年に賃金の改定を実施した、または実施しなかった企業のうち、定期昇給制度がある企業は81.2%(厚生労働省「令和7年賃金引上げ等の実態に関する調査」、有効回答1,847社)。制度があることと、自分の給与の決まり方が説明されていることは別です。
手元の書類で読める範囲は、思っているより広い
労働基準法15条は、労働契約を結ぶときに賃金の決定・計算・支払の方法と、締切りや支払の時期を書面で明示するよう使用者に義務づけています。入社時に受け取った労働条件通知書か雇用契約書に、この項目が載っています。転職や異動のたびに更新されているはずなので、いちばん新しいものを探してください。
就業規則も同じ扱い。労基法106条は、作成した就業規則を労働者に周知することを使用者の義務としていて、その方法として掲示か備え付け、書面の交付、社内のシステムで常時閲覧できる状態にしておくこと、のいずれかを取るよう定めています。賃金規程が本体と別冊になっている会社もありますが、周知の対象に入る点は変わりません。どこにあるか分からなければ「賃金規程はどこで見られますか」と人事に聞けば済みます。事務的な質問。
読んで分かるのはここまでです。等級ごとの号俸表が載っていても、自分がいま何等級なのか、次の等級に上がる条件が何かは、規程に書いていないことがあります。ここから先が、聞かないと分からない範囲。
決まり方の中身は、自動で上がる部分と評価で動く部分に割れる
同じ調査で定期昇給制度の内容を見ると、「自動昇給」が27.5%、「その他(業績評価など)」が72.4%でした(複数回答)。年齢と勤続年数だけで給与が動く会社は、少数派です。
この割れ方が、聞く問いを二手に分けます。自動で上がる部分は、号俸表と昇給の時期を確かめれば足ります。評価で動く部分については、評価の対象期間、評価を付ける人、評価項目、点数と金額の対応という4つを順に聞くことになり、どれか1つでも欠けると自分の昇給額を説明できる材料が揃いません。4つのうち3つまでは制度の話。感情を挟まずに聞けます。
相手は、知りたいことで変わる
制度そのもの(等級の区分、評価の対象期間、昇給を反映する月)は人事の担当範囲です。自分の評価がどの項目でどう付いたかは、直属の上司しか答えられません。切り分けないまま上司に制度を尋ねると、上司自身が制度を正確に把握していないことがあり、答えが曖昧になって終わります。
決定の経路は会社によって違います。上司が原案を書いて部門長が調整する会社もあれば、人事が一括で計算する会社もある。経路そのものを聞くのも、質問として成立します。「昇給額はどの段階で決まりますか」。
交渉ではなく確認の形にすると、答えが返ってくる
金額を先に出すと、話は金額に閉じます。「いくら上がりますか」への答えは数字1つで、決まり方は出てきません。聞き方を確認の形にすると、相手は制度の説明として答えられます。
- 来期の目標を決めるときに使いたいので、評価がどの項目で付いているか教えてください
- 等級が上がる条件を、いま満たせていない部分から知りたいです
- 昇給には、いつからいつまでの評価が反映されますか
- 評価の点数は、金額にどう変換されますか
最後の1つは答えが返らないこともあります。変換表を社外に出さない運用の会社があるためで、その場合は「計算式は非公開」という事実が分かったことになります。それも記録の対象。
説明が無いことと、違法かどうかは分けて考える
使用者に課されている義務は、契約時の書面明示(労基法15条)と、就業規則の周知(106条)です。個々の評価結果について、なぜその点数にしたかを本人に説明する義務のほうは、労働基準法のどこにも書かれていないので、説明が無いまま昇給額だけが通知される運用も、それ自体では法律に触れません。納得できるかどうかは別の話。
逆に、労働条件通知書を受け取っていない、賃金規程を見せてもらえない、という状態は義務の履行に関わります。この2つだけは、聞いても出てこないときに労働基準監督署の相談窓口という行き先があります。
答えは4つの枠に記録する
聞いた内容を、その日のうちに4つに分けて書き留めてください。
- 決定者 — 誰が原案を書き、誰が決めるか
- 時期 — 評価の対象期間と、反映される月
- 根拠 — 評価項目と、点数から金額への変換の有無
- 反映先 — 基本給、手当、賞与のどれに乗るか
1回の面談で4つ埋まることは、まずありません。半年に1度の面談を2回ぶん使って埋まれば早いほうです。埋まらない枠が残ったとしても、「この会社では誰も答えられない項目」という札を付けて残しておけば、次に同じ質問をしたときに答えが変わったかどうかを比べる基準になります。1年後にもう一度聞く。
額への不満は、決まり方とは別の話
決まり方が分かった結果、額そのものに納得できないと感じることがあります。その場合の見方は昇給が少ない理由を分解する記事にまとめました。決まり方を知る作業と、額を動かそうとする交渉は、別の日に分けたほうが話が混ざりません。
これから入る会社の給与制度を知りたい場合は、面談の場が面接に変わります。聞ける範囲と聞き方が変わるので、面接で職場の条件を聞く質問のほうを見てください。
聞いて分かったことを4つの枠に入れていくと、自分の給与が何に連動しているかが形になります。連動先が自分の動かせるものかどうか。そこまで見えて、はじめて次の判断ができます。