保育士の離職率、分母で変わる

保育士の離職率として流通している「約10%」は、分母に常勤の勤務者数を置いて計算された値で、元は10年以上前の社会福祉施設等調査にさかのぼる。最新回(令和6年)の同じ調査が公表しているのは率ではなく人数で、保育所等の常勤保育士の退職者数は22,895人、採用者数は28,825人だった。期間は令和5年10月1日から令和6年9月30日までの1年間。率にしたいなら、分母に何を置くかを自分で決める必要がある。

公表されているのは、人数のほう

令和6年社会福祉施設等調査の第16表は、保育所等と地域型保育事業所の保育士について、過去1年間の採用者数と退職者数を都道府県別・常勤非常勤別・公営私営別に並べている。ここに率の列はない。

区分 採用者数 退職者数
常勤・総数 28,825人 22,895人
常勤・公営 4,277人 3,271人
常勤・私営 24,548人 19,625人
非常勤・総数 15,506人 12,669人
非常勤・公営 2,400人 2,216人
非常勤・私営 13,106人 10,453人

常勤と非常勤を足すと、1年間に保育所等を辞めた保育士は35,564人。入ってきたのは44,331人。

ここでいう保育所等は、保育所型認定こども園と保育所を指す。幼保連携型認定こども園で働く保育教諭は別の表で集計されているため、この22,895人には含まれておらず、自分の園が幼保連携型であれば、ここに並ぶ人数は自分の職場を含まない集計を見ていることになる。確かめるのは園の種別。

率にするなら、分母を自分で選ぶ

同じ調査の報道発表によると、保育所等における保育士の従事者数は353,943人。ただしこれは常勤換算の数値で、週の労働時間に応じて非常勤を按分したあとの人数である。いっぽう退職者数22,895人は常勤の実人数。按分した分母で実人数の分子を割ると、意味のずれた率が出る。

平成27年の保育士等確保対策検討会に出された資料では、平成25年の同じ調査から離職率10.3%という値が計算されている。このときの分母は常勤の勤務者320,196人、分子は退職者32,823人。公営は7.1%、私営は12.0%だった。分子と分母の種類がそろっていたので、率として成り立っていた。

最新回で同じ形の率を作るには、常勤保育士の実人数が要る。第16表にはそれがない。だから、ここでは率を1つに決めずに、人数のまま読む。

新卒で入った人の、1年目

第16表には、採用者と退職者のうち「令和5年度に学校を卒業した者」の内訳がある。

区分 新卒採用者数 うち退職者数
常勤・総数 10,277人 835人
常勤・公営 2,144人 48人
常勤・私営 8,133人 787人

835を10,277で割ると8.1%。新卒で常勤の保育士として入った人のうち、同じ1年の間に辞めた人の割合である。公営は48人を2,144人で割って2.2%、私営は787人を8,133人で割って9.7%となるので、新卒で入った人が1年目に辞める割合は、公営と私営で4倍以上ひらいていることになる。差はここが最も大きい。

ただし分子と分母の期間は完全には重ならない。10月1日に始まる調査期間に対して、新卒の入職は4月なので、3月に辞めた人は次の期間に入る。8.1%は「1年目の離職率」の近い値であって、同じものではない。

退職者数が採用者数を上回った13の県

都道府県別の常勤の行を見ていくと、採用者数より退職者数が多い県が13ある。秋田、山形、滋賀、奈良、和歌山、島根、香川、高知、長崎、熊本、宮崎、鹿児島、沖縄。富山は61人と61人で同数だった。

差が大きいのは沖縄県で、採用594人に対して退職691人。高知県は182人と263人。人数そのものは小さいので、数十人の動きで順位が入れ替わる規模であることは押さえておきたい。

逆に採用が退職を大きく上回るのは都市部で、埼玉県は採用1,543人・退職847人、千葉県は2,637人・1,632人、東京都は5,475人・3,836人。常勤保育士の採用が退職の1.4倍から1.8倍にのぼる。園が増えて人を採っている地域で辞めることと、園の数が動かない地域で辞めることは、次の勤め先の見つかり方がまるで違うので、同じ全国の人数を自分に当てはめるときは、住んでいる県の行を先に見たほうが近い。

この数字が答えていないこと

4つある。

第一に、辞めた人がどこへ行ったかが分からない。同じ市内の別の園に移った人も、保育の仕事から離れた人も、退職者1人として数えられている。保育士資格を持つ人がどれだけ現場から離れているかは、この表からは出てこない。

第二に、理由を聞いていない。22,895人の中に、結婚や出産、家族の転勤、体調、処遇への不満がどの割合で混ざっているかは、この調査の対象外である。

第三に、全産業や他の職種と比べられない。厚生労働省の雇用動向調査は事業所の常用労働者を分母に取る別の調査で、算出方法が違う。全産業の水準は離職率の平均、勤続年数で切った数字は3年以内の離職率にまとめてある。

第四に、年ごとの率の推移が作れない。採用者数と退職者数は毎年公表されているが、分母にそろえられる常勤保育士の実人数が同じ形で出ていないので、年をまたいだ率の比較はこの表の上では成り立たない。

自分の園の数字で置き換える

全国の人数は、自分の園で何人辞めるかを示さない。使えるのは、同じ形で自分の園を数えてみること。

数えるもの 例
この1年に辞めた常勤の人数 3人
この1年に入った常勤の人数 2人
1年前の常勤の在籍人数 18人

入った人数より辞めた人数が多ければ、園は13の県と同じ形になっている。1年前の在籍人数で割れば、全国で流通している10.3%と同じ式の値が出る。3人を18人で割れば16.7%。

数えたあとに残るのは、自分が続けるかどうかの判断。人が抜ける園でも続く人はいて、人が抜けない園でも合わない人はいる。全国の人数は、そこを決めてくれない。

このサイトの診断は、職場の環境を12の軸に割って記録する。人と接する量、手順の明確さ、確認の頻度、裁量の広さ。自分が集中できた場面の値といまの職場の値を並べると、どの軸がどれだけ離れているかが見える。辞めるかどうかの前に、何がずれているのかを言葉にするほうが先になる。

出典

  1. 令和6年社会福祉施設等調査 第16表 保育所等・地域型保育事業所の保育士・保育士資格ありの者の採用・退職者数,都道府県、常勤-非常勤、経営主体の公営-私営別/厚生労働省/令和5年10月1日〜令和6年9月30日の1年間/2025年12月17日公表
  2. 令和6年社会福祉施設等調査の概況 報道発表資料(2 従事者数 保育所等における保育士353,943人)/厚生労働省/155,806施設・事業所を対象に調査し活動中の128,241施設・事業所を集計/2025年12月17日公表
  3. 保育士等における現状(保育士等確保対策検討会 第1回 資料4、平成25年社会福祉施設等調査にもとづく保育所保育士の採用者と離職者)/厚生労働省/平成27年11月9日