カスハラかどうかを決める基準は、3つの観点を順に当てはめる形で公表されている。言動の内容が社会通念上許容される範囲を超えているか。手段や態様が超えているか。そして、従業員の就業環境が害されていないか。厚生労働省の企業マニュアル(令和8年度改訂版)が、この順で確認することを挙げている。1つ目と2つ目は、一方だけが範囲を超える場合でも該当し得る。つまり要求の中身に筋が通っていても、言い方や拘束の長さだけで当たることがある。
カスハラの判断基準は3つの観点
公開 約 6 分

観点1は、根拠のある要求かどうか
マニュアルは最初に、顧客等の主張について事実関係と因果関係を確認し、根拠のある要求がなされているかを見る、と書いている。
購入した商品に瑕疵があった場合に、謝罪とともに交換や返金に応じることは妥当な対応。一方、商品の内容と無関係である不当な損害賠償請求は、社会通念上許容される範囲を超えており、カスハラに該当し得る。この2つが同じマニュアルの中で並べられている。
範囲を超える要求として指針が挙げる区分は4つ。そもそも要求に理由がない又は商品・サービス等と全く関係のない要求、契約等により想定しているサービスを著しく超える要求、対応が著しく困難な又は対応が不可能な要求、不当な損害賠償要求。
観点2は、要求を実現する手段の相当性
要求を実現するための手段・態様が社会通念に照らして相当な範囲であるかを確認する。マニュアルの説明で目を引くのは、ここに置かれた一文。顧客等の要求内容に妥当性がない場合はもとより、妥当性がある場合であっても、その言動が暴力的・威圧的・継続的・拘束的である場合は社会通念上許容される範囲を超えると考えられ、カスハラに該当し得る。
要求が正しいかどうかと、言い方が許されるかどうかは、別々に判定される。長時間に及ぶ苦情により労働者を拘束することについては、業務の遂行に支障が生じるという観点から範囲を超える場合が多いと考えられる、とも書かれている。
指針が手段や態様の類型として挙げるのは5つ。身体的な攻撃、精神的な攻撃、威圧的な言動、継続的・執拗な言動、拘束的な言動。
殴る・蹴るは、直ちに該当すると書かれている
総合的な考慮を経ないと明記されているのは、この1つだけ。マニュアルは、殴る・蹴るといった暴力行為は直ちにカスハラに該当すると判断され、犯罪にも該当し得る、としている。
それ以外は、頻度や継続性が考慮される。ただし強い身体的または精神的苦痛を与える態様の言動なら、1回の言動でも就業する上で看過できない程度の支障が生じ、就業環境を害する場合もあり得る。回数が足りないから当たらない、という線は引かれていない。
観点3は、平均的な労働者の感じ方
3つ目は、顧客等の言動により身体的または精神的に苦痛を与えられ、就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等、就業する上で看過できない程度の支障が生じていないか。
判断の基準は「平均的な労働者の感じ方」。同様の状況で同じ言動を受けた場合に、社会一般の従業員が看過できない程度の支障が生じたと感じるような言動であるかを見る。本人がどれだけ傷ついたかだけでも、上司がどう受け取ったかだけでも決まらない。
要求を取り下げたら、該当しない場合がある
ここに例外が1つ置かれている。顧客等の要求内容に妥当性がないと考えられる場合であっても、企業が要求を拒否した際にすぐに顧客等が要求を取り下げた等の場合は、従業員の就業環境が害されたと言えず、カスハラには該当しない可能性がある。
無理な要求を受けた事実があっても、断ってそこで終わったなら3つ目の観点に届かない。逆に言えば、断ったあとに何が続いたかが分かれ目になる。
総合的に考慮される要素は7つ
2つ目の観点について、指針は考慮する要素を具体的に並べている。
- 当該言動の目的
- 当該言動が行われた経緯や状況(言動を受けた労働者の問題行動の有無や内容・程度を含む)
- 業種・業態
- 業務の内容・性質
- 当該言動の態様・頻度・継続性
- 労働者の属性や心身の状況
- 行為者とされる者との関係性
「業種・業態」と「業務の内容・性質」が入っているため、同じ言動でも職場によって結論が変わる。接客を主たる業務とする現場と、顧客対応が例外的に発生する現場では、同じ大声の意味が違う、という含みがある。
指針は、事業主または労働者の側の不適切な対応が言動の原因や背景となっている場合もあることにも留意が必要、と続けている。自分の側の対応が発端だったとしても、それで判断が終わるわけではない。考慮される要素の1つという位置づけ。
判断基準は、会社ごとに違いが出る
マニュアルは、業種や業態などの違いからカスハラの判断基準は企業ごとに違いが出てくる可能性がある、と書く。そのうえで、自社であらかじめ判断基準を明確にし、企業内の考え方と対応方針を統一して現場と共有しておくことが重要と考えられる、と続ける。
つまり、法令が1本の線を引いているわけではない。線を引く作業は各社に委ねられていて、働く側から見れば、自分の職場の線がどこにあるかを確かめる必要がある。顧客等への対応に関するマニュアル、就業規則、社内ポータルの3か所。
社内の判断と、労災として認めるかどうかの判断は別の文書で動く。心理的負荷評価表が「弱」「中」「強」の例を公表している話は、ハラスメントの基準は場ごとに違うにまとめた。会社が講じるべき措置の一覧はハラスメント対策、法が決めた10項目のほう。
該当しないと判断されても、会社の措置は残る
マニュアルにはもう1つ、読み落としやすい一文がある。カスハラとして取り扱うかどうかに関わらず、顧客等からの行為で従業員の就業環境が害され、就業に支障が生じるおそれがある場合には、企業として従業員からの相談に応じる、複数名で対応する等の措置が必要となる。
指針の側も、現実に生じている場合だけでなく、発生のおそれがある場合や該当するか否か微妙な場合であっても広く相談に対応するよう求めている。基準に当てはまるかどうかを自分で先に判定する必要はない。
対応が不十分な場合には、都道府県労働局による助言・指導・勧告の対象となり得る、とマニュアルは書いている。使用者には労働契約法5条に基づき、労働者が生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう必要な配慮をする義務がある、という記述もある。
3つの観点の形で記録を残す
基準が3つに分かれているなら、記録も3つに分けて残すと当てはめやすい。要求の中身は何だったか。それをどんな手段と態様で、何回、どれだけの時間にわたって受けたか。そのあと業務にどんな支障が出たか。
日付、言われた言葉そのまま、同席していた人、月ごとの回数、断ったあとに何が続いたか。断った時点で終わったのか、続いたのかは、3つ目の観点に直接効く。
自分がどれくらいの接客量や顧客との距離なら続けられるのかは、受けた言動の記録とは別の話。そちらは条件として測っておくと、異動や配置の相談で使える。





