カスハラ対策の措置義務は、2026年10月1日から、労働者を雇う全ての事業主にかかっている。根拠は改正労働施策総合推進法33条1項。規模による猶予は置かれなかった。ただし「義務」という一語の中身は、条項ごとに強さが違う。講じなければならない措置、やってはならないこと、努力すればよいこと。この3つが混ざったまま同じ「義務化」の語で語られている。
カスハラの義務は誰に課されたか
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義務の中身は「雇用管理上必要な措置を講ずること」
法33条1項が事業主に課したのは、職場におけるカスタマーハラスメントを防止するため、雇用する労働者からの相談に応じ適切に対応するために必要な体制の整備、対応の実効性を確保するために必要な抑止のための措置、その他の雇用管理上必要な措置を講ずること。厚生労働省の通達(令和8年10月1日適用)はこの3つを並べている。
具体的な中身は、法33条4項に基づいて厚生労働大臣が定める指針(令和8年厚生労働省告示第51号)が決める。10の措置。その並びはカスハラ対策、何が義務になったかにある。
何がカスハラに当たるかの3要素はカスハラとは、3つの要素で決まる、要求の内容と手段で分ける線引きはカスハラの例は、内容と手段で分かれるに書いた。
ここで通達が1文だけ、はっきりと断っている。法と指針は「個々のケースが厳密に職場におけるカスタマーハラスメントに該当するか否かを問題とするものではない」。義務がかかっているのは体制の側。個々の言動が該当するかどうかの判定は、義務の対象に入っていない。だから、自分が受けた言動がカスハラに当たるかを決めてから相談する、という順番で考える必要はない。
対象は全事業主。規模での線引きはない
厚生労働省は「令和8年10月1日から、カスタマーハラスメント及び求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策が全ての事業主の義務となりました」と告知している。労働者が1人でもいれば対象。業種による限定もない。
公務の職場は、条項ごとに扱いが分かれる。法48条2項により、法31条から34条までの規定は、一般職の国家公務員(特定独立行政法人等に勤務する者を除く)、裁判所職員、国会職員、自衛隊員には適用されない。地方公務員には適用される。市役所の窓口や公立学校の事務室は法33条の対象に入り、国の機関の窓口は入らない、という分かれ方。
また法48条1項により、紛争解決の援助や調停(法35条から39条まで)、助言・指導・勧告と公表(法42条)、報告の請求(法45条1項)は、国家公務員にも地方公務員にも適用されない。地方公務員の職場では措置義務はかかるが、その履行を労働局に申し立てる経路は閉じている。
「義務」は3つの強さに分かれている
| 条項 | 文言 | 強さ |
|---|---|---|
| 法33条1項 | 雇用管理上必要な措置を講じなければならない | 措置義務 |
| 法33条2項 | 相談したこと等を理由として解雇その他不利益な取扱いをしてはならない | 禁止 |
| 法33条3項 | 他の事業主から協力を求められたときは応ずるよう努めなければならない | 努力義務 |
2項の禁止には、通達が射程を1つ足している。言動を直接受けた労働者だけでなく、それを把握した周囲の労働者からの相談を理由とする解雇その他不利益な取扱いも、禁止の対象に含まれる。同僚が受けている言動を自分が窓口に出した場合も、2項で守られる側に入る。
「理由として」の意味も通達が定めている。相談を行ったことや、事業主の相談対応に協力して事実を述べたことと、不利益な取扱いとのあいだに因果関係があること。
3項だけが努力義務。取引先の担当者から受けた言動を自社の窓口に出したとき、相手の会社が事実確認に応じるかどうかは、応ずるよう努めるという水準にとどまる。
違反したときに動くのは、罰金ではなく勧告と公表
措置義務に違反しても、それ自体に罰則はない。代わりに置かれているのが行政の権限。法42条1項により、厚生労働大臣または都道府県労働局長は、事業主に対して助言、指導、勧告をすることができる。勧告に従わなかったときは、法42条2項により、その旨を公表することができる。
権限を使う端緒は限定されていない。通達は「労働者からの申立て、第三者からの情報、職権等その端緒を問わず、必要に応じて行使し得る」と書いている。働いている本人が都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)に申し立てることも、端緒のひとつ。
勧告の権限は原則として都道府県労働局長に委任されている。厚生労働大臣が自ら動く事案として通達が挙げるのは3つで、広範囲な都道府県にまたがる事案、社会的に広汎な影響力を持つ事案、そして都道府県労働局長が勧告を行ったにもかかわらず是正されない事案。
金銭の制裁は、報告をしなかったほうにかかる
法45条1項により、厚生労働大臣または都道府県労働局長は、措置義務の規定の施行に関し必要があると認めるとき、事業主に報告を求めることができる。この報告をせず、または虚偽の報告をした者は、20万円以下の過料(法51条)。
過料の手続は非訟事件手続法第4編によるもので、管轄の地方裁判所が裁判を行う。都道府県労働局長が、過料に処すべき旨を裁判所に通知する流れ。
金銭の制裁は、措置を講じなかったこと自体にはかからない。かかるのは、行政の問いに答えなかったとき。通達はその理由も書いていて、助言・指導・勧告を適切に行うには、その前提として報告の請求を適切に行う必要があるから、としている。
同じ日に、求職者等へのセクハラ対策も義務になった
改正男女雇用機会均等法と指針により、求職者等に対するセクシュアルハラスメントの防止措置も、同じ2026年10月1日から事業主の義務。措置は11項目。
求職者等の範囲は3つ。求人に応募する者、事業主の実施する労働者の採用に資する活動に参加する者、教育実習や看護実習その他の実習を受ける者。求職活動等にはSNS等のオンラインを介したものも含まれる。
働いている側がこの義務に関わるのは、面接や就職説明会、実習の受け入れを担当するとき。措置の3番目に「求職活動等に関するルールをあらかじめ明確化し、労働者及び求職者等に周知・啓発する」が入っている。面談時間と場所の指定、実施体制、やり取りに用いるSNSの種類の指定といったものが、担当者の判断に任されずに決まっているか。
果たされているかは、周知の有無で測る
カスハラの10の措置のうち6項目が、「労働者に周知する」または「周知・啓発する」を含む。方針の明確化と周知、対処の内容の周知、相談窓口の周知、悪質な行為への対処方針の周知、プライバシー保護の措置の周知、不利益取扱いの禁止の周知。
周知は会社から労働者に届けるものなので、受け取った覚えがあるかどうかで本人が確かめられる。6項目のどれについても心当たりがないなら、措置が講じられていないか、講じられていても届いていないかのどちらか。後者も措置を講じたことにはならない。指針が周知までを措置の内容に入れているため。
残る4項目は外から見えない。相談窓口担当者が適切に対応できるようにすること、事実関係の確認、被害者への配慮、再発防止。どれも事案が起きてから動くもので、起きていない時点では確かめようがない。確かめられるのは、窓口の場所と担当者が決まっていて、それが自分に伝わっているかまで。
自分の職場で、どこまで届いているか
6項目の周知を受けた覚えを、1つずつ思い出してみる。入社時の説明、社内ホームページ、顧客対応のマニュアル、就業規則。どこかに書かれていても、読んだ覚えがなければ届いていない。
顧客や利用者と接する量は、同じ会社でも部署と担当で変わる。接する量が多い側にいるかどうかと、会社の措置がどこまで届いているかは、別々に記録しておくと見比べやすい。義務の有無は法律で決まっていて、届き方は職場ごとに違う。





