ハラスメント対策、法が決めた10項目

ハラスメント対策という言葉が指しているのは、事業主が雇用管理上講じなければならない10の措置のこと。方針を決めて労働者に周知することから、相談したことを理由に不利益な取扱いをしない旨を定めることまで、指針が1つずつ列挙している。パワハラについての義務が始まったのは大企業で2020年6月1日、中小企業で2022年4月1日。働いている側から読むと、この10項目は「自分の職場に何が置かれているはずか」の一覧になる。

10の措置は4つのまとまりに分かれている

義務の中身を書いているのは法律の条文ではなく、法律が委ねた指針のほう。パワーハラスメントなら労働施策総合推進法第31条に対応する令和2年厚生労働省告示第5号で、そこに「講じなければならない」措置が4つのまとまり、合わせて10項目ぶん並んでいる。括弧の中は、指針が「認められる例」として挙げているもの。

# 講じなければならない措置 置かれ方として指針が挙げる例
1 パワハラの内容と、行ってはならない旨の方針を明確化し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発する 就業規則その他の服務規律を定めた文書に規定する/社内報・社内ホームページに記載して配布する/研修や講習を実施する
2 行為者を厳正に対処する旨の方針と対処の内容を、就業規則その他の文書に規定して周知・啓発する 懲戒規定を定める/既存の懲戒規定の適用対象になることを明確化する
3 相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知する 担当者をあらかじめ定める/制度を設ける/外部の機関に委託する
4 相談窓口の担当者が、内容や状況に応じて適切に対応できるようにする 担当者と人事部門が連携する仕組みにする/マニュアルに基づいて対応する/担当者に研修を行う
5 相談の申出があったら、事実関係を迅速かつ正確に確認する 相談者と行為者の双方から確認する/主張が一致せず確認が不十分なら第三者からも聴取する/確認が困難な場合は法第37条の調停を申請する
6 事実が確認できたら、被害を受けた人への配慮のための措置を行う 引き離すための配置転換/行為者の謝罪/労働条件上の不利益の回復/産業保健スタッフによるメンタルヘルス不調への相談対応
7 事実が確認できたら、行為者に対する措置を行う 懲戒規定に基づく措置/配置転換/謝罪
8 再発防止に向けた措置を講じる 方針を社内報などに改めて掲載して配布する/意識を啓発する研修を改めて実施する
9 相談者・行為者等のプライバシーを保護する措置を講じ、その旨を労働者に周知する マニュアルにあらかじめ定める/担当者に研修を行う/保護していることを社内報等に掲載する
10 相談したこと等を理由として解雇その他の不利益な取扱いをされない旨を定め、周知・啓発する 就業規則に規定する/社内報・社内ホームページに記載する

9番のプライバシーには、性的指向・ジェンダーアイデンティティや病歴、不妊治療といった機微な個人情報も含まれると指針に書かれている。10番が指しているのは、相談そのものだけではない。事実関係の確認に協力したこと、都道府県労働局に相談や紛争解決の援助を求めたこと、調停を申請したこと、調停の出頭の求めに応じたことも、不利益な取扱いの理由にしてはならない対象に入る。

8番には条件が付いていない。パワハラが生じた事実が確認できなかった場合も、同様の措置を講じるとされている。

相談窓口は、該当が微妙な段階でも使える

指針が窓口に求めているのは、現実に生じている場合への対応だけではない。発生のおそれがある場合、該当するか否か微妙な場合であっても広く相談に対応するよう書かれていて、放置すれば就業環境を害するおそれがある場合や、労働者同士のやりとりが薄くなっていることが背景にある場合が例に挙がる。

被害を受けた人が萎縮して相談を躊躇する例があることも、指針に明記された。担当者には、相談者の心身の状況や言動を受けた際の受け止めに配慮することが求められる。自分で判定を済ませてから窓口に行く、という手順にはなっていない。

相談先の選び方と、相談した後に勤務先が実際にした対応の割合は、ハラスメントを誰に相談するかに数値で並べてある。

2026年10月から、対策の対象が2つ増えた

改正労働施策総合推進法と改正男女雇用機会均等法が2026年10月1日に施行され、カスタマーハラスメントと求職者等に対するセクシュアルハラスメントにも措置義務がかかった。

カスハラの措置も10項目で、9項目は上の表と同じ組み立て。違うのは8番に当たる位置に入った「特に悪質と考えられるカスタマーハラスメントへの対処の方針をあらかじめ定め、労働者に周知し、当該対処を行うことができる体制を整備する」という抑止のための措置で、これは他のハラスメントの10項目には無い。自社の労働者が取引先など他社の労働者にカスハラを行った場合に、その取引先から事実確認等への協力を求められたら応じるよう努める、という規定も加わった。対策を講じるときには、消費者の権利や、障害者差別解消法における不当な差別的取扱いの禁止と合理的配慮の提供義務に留意する必要があるとも書かれている。

求職者等セクハラのほうは5項目。方針の明確化と周知・啓発が3つ、相談体制の整備が2つで、事後対応の4項目は入っていない。3つのうち1つは「求職活動等に関するルールをあらかじめ明確化し、労働者及び求職者等に周知・啓発する」こと。相談窓口を周知する相手も、労働者から求職者等に替わる。

顧客等からの著しい迷惑行為について相談があった企業の割合は業種でかなり違う。数値は業種別ハラスメント相談は53.9%、パワハラの相談があった企業の割合はパワハラ相談、業種別で76.9%に分けた。

自分の職場で確かめる場所は3つ

見る場所 そこに出るはずの措置
就業規則、または服務規律を定めた文書 1(禁止の方針の規定)、2(懲戒規定)、10(不利益な取扱いの禁止)
社内ポータル・社内報・配布された資料 1(方針の記載)、3(窓口の名前と連絡先)、9(プライバシー保護の説明)、8(再発防止として改めて掲載されたもの)
相談窓口の案内そのもの 3(担当者か制度か外部委託か)、4(マニュアルや研修の有無)

10項目のうちどれが見つからなかったかを、日付を付けて書き留めておく。見つからないこと自体が、どこに相談するかの順番を決める材料。社内の窓口が動かなかった場合には、都道府県労働局雇用環境・均等部(室)への相談、紛争解決の援助の求め、法第37条に基づく調停の申請という段がある。調停は、会社側が事実の確認が困難だと判断した場合に申請する先としても指針に書かれている。

対策が揃っているかと、自分に合うかは別に測る

workprevu の診断では、上司とのやりとりの頻度、確認の入り方、自分で決められる範囲といった条件を設問に割って記録する。10項目が揃っている職場でも、日々のやりとりの量や確認の密度が自分の必要とする条件から離れていることはある。制度の有無と、条件との距離。2つを並べて記録しておくと、異動や転職を考えるときに使える材料が増える。

出典

  1. 事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号、令和8年10月1日適用。4 講ずべき措置の内容)
  2. 職場におけるハラスメントの防止のために(厚生労働省 雇用環境・均等局。根拠法と指針の一覧、措置義務の開始時期)
  3. 令和8年10月1日からハラスメント対策が強化されます!(厚生労働省。カスタマーハラスメント10項目と求職者等セクシュアルハラスメント5項目の措置)
  4. 事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(平成18年厚生労働省告示第615号、令和8年10月1日適用)