ハラスメントに当たるかどうかの基準は、判断する場ごとに別の文書に書かれている。会社が社内で判断するときに使うのは厚生労働省の指針の3つの要素。労災として認めるかどうかを決めるのは「業務による心理的負荷評価表」で、こちらは出来事ごとに「弱」「中」「強」の例が公表されている。同じ言動が、社内の判断では該当しないとされ、労災の評価表では「中」に当たることもある。
ハラスメントの基準は場ごとに違う
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基準は2つの文書に分かれている
| 判断する場 | 基準が書かれた文書 | 判断の形 |
|---|---|---|
| 会社の社内判断(相談窓口と事実確認) | 事業主が講ずべき措置等についての指針(パワハラは令和2年厚生労働省告示第5号) | 3つの要素を全部満たすかどうか |
| 労災(労働基準監督署の認定) | 心理的負荷による精神障害の認定基準 別表1「業務による心理的負荷評価表」(令和5年9月1日付 基発0901第2号) | 具体的出来事に当てはめ、総合評価が「強」かどうか |
労災の認定要件は3つある。対象疾病を発病していること、発病前おおむね6か月の間に業務による強い心理的負荷が認められること、業務以外の心理的負荷や個体側要因で発病したとは認められないこと。2つめの「強い心理的負荷」を評価表の段で判定するので、「強」かどうかがそのまま結論に効く。
社内の判断は3つの要素がそろうかどうか
指針が定めるのは、①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるもの、という3つの要素。全部そろって初めて該当する。
線が引かれるのは②。社会通念に照らして業務上の必要性が明らかにない言動、業務の目的を大きく逸脱した言動、手段として不適当な言動、回数や行為者の数などの態様が許容される範囲を超える言動が②に入る。指針は、この判断で次の要素を総合的に考慮するとしている。
- 言動の目的
- 言動を受けた労働者の問題行動の有無や内容・程度を含む、言動が行われた経緯や状況
- 業種・業態
- 業務の内容・性質
- 言動の態様・頻度・継続性
- 労働者の属性や心身の状況
- 行為者との関係性
③の判断基準は「平均的な労働者の感じ方」。同様の状況で同じ言動を受けた社会一般の労働者が、就業する上で看過できない程度の支障が生じたと感じるような言動かどうかで見る。受け取った本人が不快に感じたという一点では決まらないし、行為者に害意が無かったという一点でも決まらない。
労災の基準は、段ごとに例が公表されている
評価表は、パワハラを「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」という具体的出来事として置き、平均的な心理的負荷の強度を3段階のうち最も高いⅢとしている。そのうえで、個別の事案を「弱」「中」「強」のどこに置くかを総合評価で決める。
| 段 | 評価表が挙げる例 |
|---|---|
| 弱 | 上司等による「中」に至らない程度の身体的攻撃、精神的攻撃等が行われた |
| 中 | 行為が反復・継続していない範囲での、治療を要さない程度の暴行/人格や人間性を否定するような、業務上明らかに必要性がない又は業務の目的を逸脱した精神的攻撃/必要以上に長時間にわたる叱責、他の労働者の面前における威圧的な叱責/無視等の人間関係からの切り離し/業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことを強制する過大な要求/業務上の合理性なく仕事を与えない過小な要求/私的なことに過度に立ち入る個の侵害 |
| 強 | 治療を要する程度の暴行等の身体的攻撃を受けた/暴行等の身体的攻撃を反復・継続するなどして執拗に受けた/人格や人間性を否定するような、業務上明らかに必要性がない又は業務の目的を大きく逸脱した精神的攻撃を反復・継続するなどして執拗に受けた/「中」程度の身体的攻撃、精神的攻撃等を受けた場合であって、会社に相談しても、または会社がパワーハラスメントがあると把握していても適切な対応がなく、改善がなされなかった |
「中」と「強」を分けているのは、言動の内容だけではない。同じ内容でも、反復・継続していれば「強」に上がり、1回で収まっていれば「中」にとどまる。そして「中」程度の段にいる場合でも、会社に相談したのに適切な対応がなく改善されなければ「強」になる。会社の対応の有無と内容、改善の状況は、評価表が総合評価の視点として明記している項目。
精神的攻撃には、性的指向・性自認に関するものも含むと注記されている。
評価表の「上司等」には、職務上の地位が上位の者だけでなく、業務上必要な知識や豊富な経験を持ちその協力なしに業務の円滑な遂行が難しい同僚や部下、それに抵抗や拒絶が困難な同僚・部下の集団による行為も入る。
「執拗」は回数だけで決まらない
認定基準は、「反復・継続するなどして執拗に受けた」という書き方について、わざわざ補足を置いている。執拗と評価される事案は、ある行動が何度も繰り返されている状況にある場合が多い。ただし一度の言動であっても、それが比較的長時間に及び、行為態様も強烈で悪質性を有する等の状況がみられるときには執拗と評価すべき場合がある、という趣旨だと書かれている。
評価の期間は発病前おおむね6か月。ここに例外がある。パワハラやいじめ、セクシュアルハラスメントのように繰り返される出来事は、6か月より前に始まっていても、発病前6か月以内の期間にも続いているなら、開始時からの行為をまとめて評価する。いつ始まったかを覚えている範囲で書き残しておく意味は、ここにある。
セクハラは身体接触の有無と継続で段が分かれる
| 段 | 評価表が挙げる例 |
|---|---|
| 中 | 胸や腰等への身体接触を含むが、行為が継続しておらず、会社が適切かつ迅速に対応して発病前に解決した/身体接触のない性的な発言のみで、発言が継続していない/身体接触のない性的な発言のみが複数回行われたが、会社が適切かつ迅速に対応して発病前に解決した |
| 強 | 胸や腰等への身体接触を含み、継続して行われた/身体接触を含み継続はしていないが、会社に相談しても適切な対応がなく改善がなされなかった/身体接触のない性的な発言のみだが、発言が継続してなされ、会社に相談しても、または会社が把握していても適切な対応がなく改善がなされなかった |
強姦や、本人の意思を抑圧して行われたわいせつ行為などは「特別な出来事」に入り、この段の判定を経ずに総合評価が「強」になる。
認定基準には、評価を下げる理由にならないことが3つ書かれている。被害を受けた人が、勤務を継続したいなどの心理からやむを得ず行為者に迎合するようなメールを送ること。被害を受けてからすぐに相談行動をとらないこと。医療機関の初診時に事実を申し立てられないこと。どれも心理的負荷が弱いと単純に判断する理由にはならない、と明記されている。
顧客からの迷惑行為にも同じ形の段がある
顧客等からの著しい迷惑行為も、2023年の改正で評価表の具体的出来事に入った。「強」になる例は、治療を要する程度の暴行等を受けた、暴行等を反復・継続するなどして執拗に受けた、人格や人間性を否定するような言動を執拗に受けた、威圧的な言動などその態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える著しい迷惑行為を執拗に受けた、そして「中」程度の迷惑行為であっても会社に相談しても適切な対応がなく改善がなされなかった場合。
総合評価の視点には、迷惑行為の内容と程度、顧客等との職務上の関係、反復・継続など執拗性の状況、その後の業務への支障、会社の対応の有無と内容が並ぶ。業種によって相談があった企業の割合がどれだけ違うかは、業種別ハラスメント相談は53.9%に数値がある。
請求が通る割合は高くない。令和7年度に業務災害として決定された精神障害の事案3,839件のうち、支給決定は1,082件で28.2%。業種別の内訳は精神障害の労災、業種別の件数と認定率に並べた。社内の窓口に出す場合の相談先の選び方は、ハラスメントを誰に相談するかのほう。
基準が見ている4つを、そのまま記録に残す
評価表が総合評価の視点として挙げているのは、内容と程度、反復・継続など執拗性の状況、就業環境を害する程度、会社の対応の有無と内容および改善の状況。記録もこの4つの形で残すと、社内の窓口でも労働基準監督署でも同じメモが使える。日付と、言われた言葉そのまま、同席者、月ごとの回数、相談した日と返ってきた答え。
workprevu の診断では、上司とのやりとりの頻度や確認の入り方、自分で決められる範囲を設問に割って記録する。基準に当てはまるかどうかの判断とは別に、いまの職場の条件が自分の必要とするものからどれだけ離れているかを見るための道具。2つを混ぜずに並べておくと、相談するときにも、異動や転職を考えるときにも使える。
出典
- 心理的負荷による精神障害の認定基準について(令和5年9月1日付 基発0901第2号、厚生労働省労働基準局長通達。別表1 業務による心理的負荷評価表の項目22・24、認定要件、「執拗」の解釈)
- 心理的負荷による精神障害の労災認定基準の改正概要(令和5年9月1日付け基発0901第2号/厚生労働省)
- 事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号、令和8年10月1日適用。3要素と総合考慮する要素)
- 心理的負荷による精神障害の労災認定基準を改正しました(厚生労働省)
- 令和7年度「過労死等の労災補償状況」別添資料 精神障害に関する事案の労災補償状況(厚生労働省、2026年7月15日公表)





