カスハラ対策として事業主に義務づけられたのは、方針の明確化から不利益取扱いの禁止まで10の措置である。2026年10月1日、改正労働施策総合推進法33条と告示第51号の指針が適用された。それまで「望ましい取組」の位置にあったものが、講じなければならない措置に変わった。働いている側から読むと、この10項目は自分の職場に何が置かれているはずかの一覧になる。置かれていない項目があれば、それは会社側の措置が足りていない。
カスハラ対策、何が義務になったか
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10の措置は4つのまとまりと、併せて講ずべきものに分かれる
| まとまり | 指針が列挙する措置 |
|---|---|
| 事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発 | 1 カスハラには毅然とした態度で対応し労働者を保護する旨の方針を明確化し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発する/2 カスハラの内容及びあらかじめ定めた対処の内容を、管理監督者を含む労働者に周知する |
| 相談に応じ適切に対応するために必要な体制の整備 | 3 相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知する/4 相談窓口の担当者が、内容や状況に応じ適切に対応できるようにする |
| 事後の迅速かつ適切な対応 | 5 事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認する/6 被害者に対する配慮のための措置を適正に行う/7 再発防止に向けた措置を講ずる |
| 対応の実効性を確保するために必要な抑止のための措置 | 8 特に悪質と考えられるものへの対処の方針をあらかじめ定め、労働者に周知し、その対処を行うことができる体制を整備する |
| 併せて講ずべき措置 | 9 相談者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、労働者に周知する/10 相談等を理由として不利益な取扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発する |
8の抑止の措置は、他の4種類のハラスメントには無い。行為者が社内にいるパワハラやセクハラなら就業規則で懲戒の対象にできるのに対し、顧客等は雇用関係の外にいるため、会社が行為者そのものに働きかける経路をあらかじめ用意しておかないと現場の対応が続かない、という事情がここに出ている。この1項目がカスハラ特有。
5種類のハラスメントに共通する10項目の並びはハラスメント対策、法が決めた10項目にある。
その場でどう動くかは、あらかじめ決めておくものとされた
2の「あらかじめ定めた対処の内容」について、指針は例を挙げている。限定列挙ではない、と注記つき。
- 労働者から管理監督者等に直ちに報告し、その場の対応の方針について指示を仰ぐこと
- 可能な限り労働者を一人で対応させないこと。必要に応じて管理監督者等が代わって対応すること
- 顧客等とのやり取りを録音・録画すること(個人情報保護法等を遵守し、顧客等の個人情報を適切に取り扱う)
- 労働者から十分な説明を行った上で、なお繰り返しの要求が続く場合には、一定の時間の経過をもって退店を求めたり、電話を切ったりすること
- 暴行、傷害、脅迫などの犯罪に該当し得る言動については、警察へ通報すること
- 現場対応が困難な場合には、本社・本部等へ情報共有を行い、指示を仰ぐこと
- 法的な手続が必要な場合には、法務部門等と連携し、弁護士へ相談すること
電話を切る、退店を求める、という判断を現場に任せきりにしない。それが「あらかじめ定める」の中身。十分な説明を行ったうえでなお繰り返しの要求が続くなら一定の時間の経過をもって電話を切ってよい、という線を会社が先に引いて管理監督者を含む労働者に周知していれば、実際に切った人の判断が後から個人の裁量として責められる筋はなくなる。自分の職場にその線が引かれているかは、顧客対応のマニュアルを見れば分かる。
録音は、対処の内容として指針に書かれている
録音・録画は上の対処例の3番目に入っている。会社が方針として定めていれば、現場で録ることは指針の想定どおり。条件は個人情報保護法等の遵守と、顧客等の個人情報の適切な取扱い。
事実関係の確認の段でも、録音・録画等の客観的な証拠を確認する措置が例として挙がる。相談窓口の担当者、関係部門、または専門の委員会等が相談者から事実関係を確認し、その際には相談者の心身の状況や言動が行われた際の受け止めなどの認識にも適切に配慮しながら、必要に応じて周囲の労働者からも聴取したり客観的な証拠を確認したりする、という組み立て。確認が困難なときは、法37条に基づく調停の申請や中立な第三者機関への委ねも例に入る。
特に悪質な場合の対処は、方針として先に決めておく
8の抑止の措置について、指針が挙げる対処の例。
- 暴行、傷害、脅迫などの犯罪に該当し得る言動については、警察へ通報すること
- 行為者に対して警告文を発出すること
- 法令の制限内において行為者に対して商品の販売、サービスの提供等をしないこと
- 行為者に対して店舗及び施設等への出入りを禁止すること
- 民事保全法に基づく仮処分命令を申し立てること
業法でサービス提供の義務が定められている業種では、販売を断る選択が取れない場合がある。指針はその点に留意して、それぞれの状況に応じた方針を定めるのが効果的だと書いている。
取引先から受けたときは、相手の会社にも協力の義務がある
法33条3項により、自社の労働者が他社の労働者にカスハラを行った場合、他社の事業主から事実関係の確認等への協力を求められた事業主は、応ずるよう努めなければならない。努力義務。
加えて指針は、協力を求められたことを理由に契約を解除するなどの不利益な取扱いは望ましくないと書いている。協力して事実関係を話した労働者に対しても、解雇その他不利益な取扱いを行わない旨を定めて周知・啓発することが望ましいとされる。行為者に懲戒その他の措置を講ずることが望ましい、という記述もある。
発注元の担当者から受けた言動を自社の窓口に出したとき、相手の会社に話が渡る経路は、ここに根拠がある。
対策を講じる側にも、歯止めが置かれている
指針4の冒頭には、対策を講ずる際の留意事項が並ぶ。消費者法制により定められている消費者の権利。障害者差別解消法の、障害を理由とする不当な差別的取扱いの禁止と合理的配慮の提供義務。顧客等との建設的対話を重ねるなど、事案に応じて適切に対応する必要があると書かれている。
各業法等によりサービス提供の義務等が定められている場合、サービスが途絶すると顧客等の生命や心身の健康に重大な影響が及ぶ場合。この2つも留意事項として明記されている。病院や交通のように、断ることが別の被害を生む現場がある。
研修は義務ではなく、望ましい取組の側
指針6は、義務の10項目とは別に「行うことが望ましい取組」を置いている。労働者が自社の商品やサービスをよく理解し、顧客等への対応力の向上を図るための研修等。消費者の心理や障害特性等についての資料配布や研修。
運用状況の把握も望ましい取組。労働者や労働組合等の参画を得つつ、アンケート調査や意見交換等を実施して、見直しの検討に努めることが重要だとされる。方法として、労働安全衛生法18条1項の衛生委員会の活用も挙がっている。
つまり、研修が無いことは義務違反には直結しない。10項目のほうに穴があるかを先に見る。
義務化の前年、取組が無い企業は35.5%だった
厚生労働省の委託調査(2023年12月〜2024年1月実施、企業 n=7,780)では、顧客等からの著しい迷惑行為の予防・解決の取組を実施している企業は64.5%。何も実施していない企業が35.5%あった。
| 従業員規模 | 取組を実施している | 何も実施していない |
|---|---|---|
| 全体(n=7,780) | 64.5% | 35.5% |
| 99人以下(n=2,066) | 57.5% | 42.5% |
| 100〜299人(n=1,300) | 62.9% | 37.1% |
| 300〜999人(n=3,263) | 67.8% | 32.2% |
| 1,000人以上(n=1,146) | 69.8% | 30.2% |
規模による差は12.3ポイント。義務化の前なので、この数値がそのまま現在の実施率を示すわけではない。業種ごとの差は業種別ハラスメント相談は53.9%に並べた。
職場で確かめる場所は3つ
就業規則その他の服務規律を定めた文書。ここに、カスハラの相談等を理由として解雇等の不利益な取扱いをされない旨の規定があるか。指針は10の措置の例として、この書き方を挙げている。
社内報、パンフレット、社内ホームページ。毅然とした態度で対応し労働者を保護する旨の方針が載っているか。
顧客等への対応に関するマニュアル。カスハラの内容と、あらかじめ定めた対処の内容が書かれているか。退店を求める基準、電話を切る基準、警察へ通報する基準。
3つのどこにも無ければ、措置が講じられていない状態。相談窓口の場所と、一人で対応させない運用があるかどうかは、同じ職場でも部署ごとに違うことがある。自分が置かれている接客の量と、受けている言動の頻度は、別々に記録しておくと見比べやすい。
出典
- 事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和8年厚生労働省告示第51号、令和8年10月1日適用。4 講ずべき措置の内容、5 他の事業主への協力、6 望ましい取組)
- 2026年(令和8年)10月1日から、カスタマーハラスメント対策、求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策が義務化されます!(厚生労働省リーフレット簡易版。10項目の措置の一覧)
- 令和5年度「職場のハラスメントに関する実態調査」報告書(概要版)(厚生労働省委託事業、2023年12月〜2024年1月実施、企業 n=7,780。図表11 顧客等からの著しい迷惑行為予防・解決の取組の実施有無)
- 職場におけるハラスメントの防止のために(厚生労働省 雇用環境・均等局。指針と措置義務の開始時期)





