カスハラを受けた人が実際に相談した先は、社内の上司が38.2%で最も多い。社内の相談窓口は3.8%、公的な機関は2.3%。何もしなかった人が35.2%いる。厚生労働省の委託調査(2023年12月〜2024年1月実施、顧客等からの著しい迷惑行為を受けた人 n=861、複数回答)の数値である。
2026年10月1日から、相談窓口を定めて労働者に周知することは事業主の義務になった。ただし義務として置かれる窓口と、現に使われている経路は、いまのところ一致していない。どこへ出すかを決める前に、経路ごとに何が起きるのかを並べておく。
相談先として選ばれている割合
| 相談先・行動 |
割合(n=861、複数回答) |
| 社内の上司に相談した |
38.2% |
| 社内の同僚に相談した |
26.8% |
| 家族や社外の友人に相談した |
11.3% |
| 社内の相談窓口に相談した |
3.8% |
| 会社とは無関係の医師やカウンセラーなどに相談した |
3.6% |
| 人事部等の社内の担当部署(相談窓口を除く)に相談した |
3.0% |
| 社内の産業保健スタッフに相談した |
3.0% |
| 公的な機関(労働基準監督署や都道府県労働局など)に相談した |
2.3% |
| 会社が設置している社外の相談窓口に相談した |
1.7% |
| 労働組合に相談した |
1.5% |
| 会社とは無関係の弁護士や社会保険労務士に相談した |
1.5% |
| しばらく会社を休んだ |
3.7% |
| 会社を退職した |
4.5% |
| 何もしなかった |
35.2% |
上の3つで経路のほとんどを占める。制度として用意されている窓口、人事部、産業保健スタッフ、労働組合はいずれも1桁。顧客等からの言動は目の前で起きるので、その場にいる人へ渡るのが先になる。
社内の窓口は、義務として置かれている
指針(令和8年厚生労働省告示第51号)が事業主に義務づけた10の措置のうち、2つが相談体制の整備に当たる。相談窓口をあらかじめ定めて労働者に周知すること。窓口の担当者が、相談の内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること。
窓口の形は3通りが例に挙がっている。相談に対応する担当者をあらかじめ定める。相談に対応するための制度を設ける。外部の機関に相談への対応を委託する。パワハラなど他のハラスメントの窓口と一体的に設置することも考えられる、と書かれているので、既にある窓口がそのままカスハラの窓口になっている職場もある。
担当者として、上司に当たる管理監督者等を定めることも考えられる、という記述もある。38.2%が上司に相談しているという数値は、窓口の設計としても想定の中にある。
該当が微妙な段階でも、相談の対象になる
指針は相談体制の措置に条件を添えている。被害を受けた労働者が萎縮するなどして相談を躊躇する例もあることを踏まえ、心身の状況や言動が行われた際の受け止めなどの認識にも配慮しながら、カスハラが現実に生じている場合だけでなく、その発生のおそれがある場合や、該当するか否か微妙な場合であっても、広く相談に対応し適切な対応を行うようにすること。
基準に当てはまるかを自分で先に判定する必要はない。放置すれば就業環境を害するおそれがある場合も、例として挙げられている。
相談したあとに動くのは3つの措置
出したあとに何が起きるかも、指針が決めている。事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認すること。確認できた場合は、速やかに被害者に対する配慮のための措置を適正に行うこと。そして再発防止に向けた措置を講ずること。
配慮の措置の例として並ぶのは、管理監督者等が被害者に代わって対応すること、被害者と行為者を引き離すこと、行為者に対応する担当者の変更または複数人での対応、配置転換、産業保健スタッフ等によるメンタルヘルス不調への相談対応。犯罪に該当し得る言動については警察へ通報することも、あわせて挙げられている。
事実関係の確認が困難な場合には、法37条に基づく調停の申請や、中立な第三者機関に紛争処理を委ねることが例に入る。再発防止の措置は、カスハラが生じた事実が確認できなかった場合にも同様に講ずること、と書かれている。確認が取れなければ何も起きない、という組み立てにはなっていない。
その場の経路は、先に決まっているはず
指針の措置の2つ目は、あらかじめ定めた対処の内容を管理監督者を含む労働者に周知することを求めている。その対処の例に、労働者から管理監督者等に直ちに報告して指示を仰ぐこと、可能な限り労働者を一人で対応させないこと、必要に応じて管理監督者等が代わって対応することが並ぶ。
実際の行動でも、顧客等からの著しい迷惑行為への対応として最も多いのは「上司に引き継いだ」の37.4%。次が「謝り続けた」の32.1%(複数回答)。引き継ぐ先と、引き継いだあとに誰が対応するかが決まっていれば、謝り続ける時間は短くなる。自分の職場でその線がどこに書かれているかは、顧客対応のマニュアルを見れば分かる。
相談したことを理由に、不利益な取扱いはできない
10の措置の最後は、相談等を理由として解雇その他不利益な取扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発すること。指針は法33条2項、36条2項、37条2項を挙げ、対象になる行為を具体的に書いている。カスハラに関し相談をしたこと、事実関係の確認等の措置に協力したこと、都道府県労働局に対して相談や紛争解決の援助の求め若しくは調停の申請を行ったこと、調停の出頭の求めに応じたこと。この4つが並ぶ。
派遣で働いている場合も同じ。労働者派遣法47条の4により派遣先も雇用する事業主とみなされるため、派遣労働者が相談したことを理由に派遣の役務の提供を拒むといった取扱いは、派遣元と派遣先の両方に禁じられている。
プライバシーの保護も措置の1つ。相談者等の情報は本人のプライバシーに属するものであり、性的指向・ジェンダーアイデンティティ等の機微な個人情報も含むと明記されている。
社外へ出す経路は、都道府県労働局
公的な機関に相談した人は2.3%にとどまるが、経路そのものは法律に書かれている。都道府県労働局に対する相談、紛争解決の援助の求め、調停の申請。どれも、それを理由とする不利益な取扱いが禁じられている行為として指針に列挙されている。
企業マニュアル(令和8年度改訂版)は、事業主の対応が不十分な場合には都道府県労働局による助言・指導・勧告の対象となり得る、と書いている。使用者には労働契約法5条に基づき、労働者が生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう必要な配慮をする義務がある、という記述もある。
社内と社外で、勤務先に話が渡るかどうかの分かれ目が変わる。ハラスメント全般の相談先をその軸で並べたものはハラスメントを誰に相談するかにある。社内の判断と労災の判断が別の文書で動く話はハラスメントの基準は場ごとに違うのほう。
相談する人は、前回の調査より減っている
同じ調査の3年前との比較で、動きが出ている。顧客等からの著しい迷惑行為を受けた後の行動について、令和2年度調査と比べると「何もしなかった」が10.9ポイント増加。「社内の上司に相談した」が10.2ポイント、「社内の同僚に相談した」が7.2ポイント減少した。
カスハラという語が広まり、対策が義務化へ向かった3年間に、相談行動そのものは減っている。何もしなかった理由で最も多いのは「何をしても解決にならないと思ったから」の56.1%。
経験頻度別に見ると向きが逆になる。顧客等からの著しい迷惑行為を受けた経験頻度が高いほど「何もしなかった」の割合は低い。頻度が上がると、どこかに出すほうへ動く人が増える。
相談の前に残すもの
録音・録画は、指針が会社の対処の内容の例に挙げている。条件は個人情報保護法等の遵守と、顧客等の個人情報の適切な取扱い。事実関係の確認の段でも、録音・録画等の客観的な証拠を確認する措置が例に入っている。
残すのは4つ。日付。言われた言葉そのまま。そのとき同席していた人。月ごとの回数。これに、断ったあとに何が続いたかを足す。要求を拒否した時点で相手が取り下げたのか、そこから続いたのかは、就業環境が害されたかどうかの判定に直接効く。
今週やること
- 顧客対応のマニュアルか社内ポータルで、相談窓口の名前と連絡先を確認する。見つからなければ、それ自体が措置の不足
- 直近1か月に受けた言動を、日付・言葉・同席者・回数の形で書き出す
- その場の対処として「一人で対応させない」「一定の時間で電話を切る」の線が決まっているかを、上司に1つだけ聞く
- 受けた言動の記録とは別に、自分がどれくらいの接客量と顧客との距離なら続けられるのかを言葉にしておく。異動や配置の相談で使う条件になる