ハラスメントを誰に相談するか、数値で見る

厚生労働省の委託調査(2023年度、一般労働者 n=8,000)では、過去3年間にパワハラを受けた人の行動で最も多かったのは「何もしなかった」で36.9%だった。相談した先として最も割合が高かったのは家族や社外の友人(19.3%)で、社内の上司や相談窓口はその下に並ぶ。相談先を決める前に、社内と社外にどういう経路があるか、そして相談したあと勤務先が実際に何をしたかの割合を見ておく。

相談先の分かれ目は、勤務先に話が渡るかどうか

同じ調査の選択肢が、そのまま職場のハラスメントの相談先の一覧になっている。社内には、同僚、上司、社内の相談窓口、人事部などの担当部署、産業保健スタッフ(産業医・保健師・看護師)、労働組合。社外には、会社が設置している社外の相談窓口、会社とは無関係の医師やカウンセラー、会社とは無関係の弁護士や社会保険労務士、公的な機関(労働基準監督署や都道府県労働局)、家族や社外の友人がある。

区別すべきなのは、社内か社外かという置き場所より、その相談が勤務先に渡るかどうかだ。会社が設置している社外窓口は、電話の相手が社外の事業者でも、報告の経路は勤務先につながっている。匿名で出せるかどうか、誰の名前が行為者に伝わるかは窓口ごとに決められていて、就業規則やハラスメント防止規程に書いてある。

公的な機関は、勤務先と切り離して動かせる相談先。都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)には、事業主への助言・指導と、紛争調整委員会による調停の仕組みがある。労働基準監督署の中にある総合労働相談コーナーは、どの法律の話なのか整理されていない段階でも受け付ける。厚生労働省の「ハラスメント悩み相談室」は無料の電話とメールで、勤務先に連絡は行かない。社内に出すと行為者に伝わるのが怖い、それでも一度誰かに整理してもらいたい、という順番になっているなら、勤務先へ情報が渡らない社外の相談先を先に使っておくと、社内窓口に出す段になって話が短くまとまる。

パワハラの相談が業種によってどれくらい違うかは、ハラスメントの業種別の割合とパワハラの相談件数の推移で扱っている。

半分近くの人が、どこにも相談していない

パワハラを受けた人のうち36.9%、セクハラを受けた人のうち51.7%が「何もしなかった」と答えている(複数回答)。セクハラでは、相談先として最も割合が高かったのが社内の同僚で14.7%。窓口でも上司でもなく、隣の席の人だった。

顧客等からの著しい迷惑行為(カスハラ)だけは並びが逆になる。1位が「社内の上司に相談した」38.2%で、「何もしなかった」35.2%がその次。加害者が社外にいると、上司に言うことが自分の立場を危うくしない。逆に言えば、パワハラとセクハラで上司や窓口の割合が下がるのは、行為者が社内にいることと関係している可能性がある(この調査は因果を確かめていないので、ここは推定)。

もう1つ、勤務先の予防・解決の取組をどう評価しているかで割合が動く。取組への評価が高い人は「社内の同僚に相談した」「社内の上司に相談した」の割合が高く、「何もしなかった」の割合が低い。研修があったか、窓口の連絡先を見たことがあるか、相談しても不利益な扱いをしない旨の定めが規程にあるか。これは自分の職場について今日確かめられる事実で、社内に出すか社外に出すかを決める材料になる。

相談したあと、勤務先の半数は何もしていない

相談した後どうなるかも、同じ調査に数値がある。まず、自分がハラスメントを受けていることを勤務先が認識していたと答えた人は、パワハラで37.1%、セクハラで23.9%、カスハラで59.2%。パワハラとセクハラでは、認識自体が半分に届かない。

勤務先が認識していたと答えた人に限ると、そのあとの対応はこうなる(パワハラ n=573、複数回答)。

  • 特に何もしなかった 53.2%
  • あなたの要望を聞いたり、問題を解決するために相談にのってくれた 24.4%
  • あなたに事実確認のためのヒアリングを行った 18.0%
  • あなたの上司、同僚や部下に事実確認を行った 14.0%
  • 行為者に事実確認を行った 12.2%
  • 相談したことを理由として不利益な取扱い(解雇・降格・減給・不利益な配置転換など)をした 6.1%

半分以上が動いていない。

セクハラ(n=120)では「特に何もしなかった」が42.5%、「相談にのってくれた」が25.8%、不利益な取扱いが10.0%。ただし n=120 は小さく、区分ごとの割合を1ポイント単位で読む数字ではない。カスハラでは「相談にのってくれた」39.2%が1位で、「特に何もしなかった」を上から抜く。

不利益な取扱いは、労働施策総合推進法とセクハラの指針で禁止されている。それでもパワハラで6.1%、セクハラで10.0%が起きたと答えた。つまり、相談は自動的に止まる仕組みではない。この6.1%を見て社内をやめるか、53.2%を見て最初から公的機関を並走させるかは、読者が決めること。

記録に残すのは、回数と言葉

窓口でも労働局でも、最初に聞かれるのは同じ形の事実。いつ、どこで、誰が、何と言ったか。そして誰がそこにいたか。この5つが揃っていれば、社内の担当部署に出すときも、都道府県労働局の窓口で話すときも、同じメモをそのまま使える。

覚えている範囲で構わないので、次の5つを1行ずつ残す。日時(日付と時刻。おおよそでよい)、場所(会議室、オンライン会議、チャット)、言われた言葉(要約せず、そのままの語で)、同席していた人の有無、自分がそのあとにしたこと。チャットやメールなら、スクリーンショットの日時が入るように撮る。

頻度を数えることも効く。「よく言われる」と書くかわりに「8月は4回、9月は2回」と書けると、読む側の受け取り方に左右されない。1回だけの出来事か、3か月続いているのか。継続しているかどうかで、社内窓口が動かせる範囲も変わってくる。

上司との関係そのものを切り分けたい場合は、上司と合わない原因の分け方のほうが近い。ハラスメントに当たるかどうかの判断とは別の話として分けておくと、記録の使い道が混ざらない。

今週やること

  1. 就業規則か社内ポータルで、相談窓口の名前・連絡先・匿名で出せるかどうかを探す。見つからなければ、見つからなかったことも記録に残す
  2. 過去3か月について、上の5項目を覚えている範囲で書き出す。回数を月ごとに数える
  3. 社内に出す前に、社外で一度話す先を1つ決める。会社と無関係のカウンセラー、都道府県労働局、厚生労働省のハラスメント悩み相談室のどれか

3か月ぶん書き出して回数が数えられたら、社内窓口に出すかどうかの材料は揃う。相談したあとに勤務先がどう動いたか、ヒアリングがあったか、行為者に事実確認が行われたか、何日待って返事が来たかまで同じ形で記録に足していくと、次の相談先へ移るときに説明をやり直さなくて済む。そこまでが記録の仕事。

出典

  1. 職場のハラスメントに関する実態調査 報告書(概要版)(厚生労働省委託事業、2023年度/令和5年度、一般労働者 n=8,000)
  2. ハラスメント悩み相談室(厚生労働省委託事業)