パワハラ相談、業種別で76.9%

過去3年間にパワハラの相談があったと答えた企業は、金融業・保険業で76.9%、教育・学習支援業で75.2%、宿泊業・飲食サービス業で74.5%。全体は64.2%だった。厚生労働省の委託で2023年12月から翌年1月にかけて実施された実態調査の値で、全国2万5,000社に郵送して7,780社が答え、同じ時期に働く人8,000人にもインターネットで聞いている。ただし業種別に公表されているのは相談の件数ではない。相談があったと答えた企業の割合のほう。

業種別に出ているのは、相談の有無

企業への質問は、過去3年間に従業員からパワハラの相談があったかどうか。「相談があった」「相談はない」「相談の有無を把握していない」から1つを選ぶ形式で、何件あったかは聞かれていない。件数について聞かれているのは推移の方向だけ。

だから業種ごとの相談件数を並べた表は、この調査のどこにも無い。労働局に寄せられた相談のほうは件数で数えられていて、年度別の推移はパワハラ相談件数の推移にある。ただしそちらは全国の労働局に届いた相談を相談内容で分類した集計で、相談した人の勤め先の業種は記録されていないため、件数と業種を同時に並べられる公的な集計は、いまのところ見当たらない。

何をパワハラとして数えたか、調査票に書いてある

質問の前に、企業にも働く人にも同じ定義が示されている。職場において行われる、①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるもの。3つを全部満たす行為だけを指す。

①の優越的な関係は、職務上の地位に限らない。人間関係や専門知識、経験の差も入るので、上司から部下への言動だけでなく、先輩と後輩のあいだ、同僚どうしのあいだで起きたものも数えられる。職場の範囲も、通常働いている場所の外まで広げてある。取引先の事務所、打ち合わせをした飲食店、職務の延長とみなせる就業時間外の宴会や休日の連絡。労働者のほうも、正社員だけでなくパートタイム労働者・契約社員・派遣労働者を含む。

そのうえで企業への質問は、最終的にパワハラに該当しないと判断したものも含めて答えるよう求めている。76.9%も64.2%も、会社が該当と認めた割合ではない。相談があった企業のうち、該当する事例があったと答えたのは73.0%。残りの27.0%では、相談は届いたが該当しないと判断されている。

企業側は、上位3業種が7割台に並ぶ

業種 相談があった企業の割合
金融業、保険業 76.9%
教育、学習支援業 75.2%
宿泊業、飲食サービス業 74.5%
全体 64.2%

報告書の本文に数値が書かれているのは、この3業種まで。ほかの業種は図表21のグラフに入っているものの、目盛りから読み取る形になるので、ここには載せない。集計の対象は全企業7,774社。

差は10ポイントほど。金融業・保険業はセクハラでも68.6%で最も高く、妊娠・出産・育児休業等ハラスメントでも19.2%で最も高い。ハラスメントの種類を入れ替えても、同じ業種が上に来る。

働く人に聞くと、建設業が先頭に来る

同じ調査は、企業とは別に労働者8,000人にも聞いている。過去3年にパワハラを受けたと答えた人は、全体で19.3%。

業種 受けたと答えた人の割合
建設業 26.8%
複合サービス事業 22.5%
教育、学習支援業 20.6%
医療、福祉 20.6%
全体 19.3%

企業側で首位だった金融業・保険業は、労働者側の上位4業種に顔を出さない。労働者側で先頭の建設業も、企業側の上位3業種には入っていない。重なるのは教育・学習支援業だけ。

2つの表は別のことを数えている。企業側が示すのは、相談窓口に相談が届いたかどうか。労働者側は、本人が受けたかどうか。あいだに、窓口があるか、あることを知っているか、使う気になるか、という3つの関門が挟まる。だから76.9%という値を被害の多さとしてそのまま読むと、窓口が動いている職場ほど数字が高く見えることになる。同じねじれは業種別ハラスメント相談は53.9%で見た顧客等からの迷惑行為でも起きていた。

相談が増えているのは、1,000人以上の企業

相談件数の推移を従業員規模で切ると、999人以下の企業では「件数は減少している」が「件数が増加している」を上回る。1,000人以上だけが逆向きで、増加29.9%、減少16.2%。差は13.7ポイント。

該当すると判断した事例の有無も、規模で動く。1,000人以上で84.7%、100〜299人で67.3%。規模の大きい企業ほど、相談も事例も多く数え上げている。

業種別の推移で増加が減少を上回ったのは、学術研究・専門技術サービス業、教育・学習支援業、医療・福祉、複合サービス業の4つだった。電気・ガス・熱供給・水道業は回答企業が30社に満たず、推移の集計から外れている。

相談があったと答えた割合そのものも、規模で開く。1,000人以上94.4%、300〜999人79.1%、100〜299人54.2%、99人以下30.0%。業種でついた差が10ポイントほどだったのに対して、規模では64.4ポイント。業種別の並びを見るとき、この規模の効き方のほうが大きいことは頭に置いておきたい。

窓口を置くことは、法律で決まっている

パワハラを防ぐ措置は、労働施策総合推進法で事業主の義務になっている。大企業は2020年6月1日から、中小企業は2022年4月1日から。中身は4つで、方針を明確にして労働者に周知すること、相談に応じるための体制を整えること、相談があったら事実関係を確かめて双方に対処し再発を防ぐこと、相談者のプライバシーを守り、相談したことを理由に不利益な扱いをしないこと。

この調査が行われたのは2023年12月から翌年1月。全面施行から1年半以上たっている。それでも「相談の有無を把握していない」と答えた企業が全体で2.7%、99人以下では4.0%あった。相談があったと答えた割合が規模で64.4ポイント開くのも、起きている量の差だけでは説明がつかない。

自分の勤め先に窓口があるかどうかは、就業規則かハラスメント防止規程、社内の周知文書で確かめられる。届け先の名前と、相談したことが誰まで伝わる設計になっているかは、そこに書いてある。

この業種別で言えないこと

企業側の割合は、窓口の運用に左右される。窓口の無い職場では、何が起きていても相談は0件と答えられるので、76.9%と64.2%の差のうち、どこまでが起きた量の差で、どこまでが相談の届き方の差なのかは、この集計から分けられない。割合の低い業種が、起きている量の少ない業種だとは限らない。

業種ごとに何社が答えたのかも、報告書からは読み取れない。企業調査は2万5,000社に郵送して7,780社が答えた回答率31.1%の調査なので、ハラスメント対策に関心を持つ企業ほど回答しやすかったとすれば、相談があったと答える割合は上振れしやすい。ここは推定。

区分は勤め先の業種であって、職種ではない。建設業の26.8%には、現場に出る人も、本社で経理をしている人も、同じ業種として数えられている。

労働者調査はインターネットで行われ、対象は20歳から64歳の男女。経営者・役員・公務員は入っていない。報告書には2025年8月15日付の正誤表が別ファイルで出ているので、個別の数値を引くときはそちらを先に。

19.3%と、自分が数えられる回数

男女で見ると、男性19.4%、女性19.2%。管理職に絞ると男性24.0%、女性23.6%まで上がる。パワハラを受けたと答えた1,546人のうち、その後に「何もしなかった」人は36.9%だった。

業種の平均には出てこない値が、手元にある。この3か月で、上司や同僚とのやりとりで対応に困った場面が何回あったか。そのうち誰かに伝えたのは何回か。伝えたあと、勤め先が何をしたか、あるいは何もしなかったか。

どれも数えれば出る。書き留めておくと、次に相談するとき、業種の平均から離れたところで話を始められる。

出典

  1. 令和5年度「職場のハラスメントに関する実態調査」報告書/厚生労働省委託事業/2023年12月〜2024年1月実施(企業7,780社・労働者8,000人)/2024年5月17日公表
  2. 同 報告書本体(PDF。図表9 過去3年間のパワハラの相談有無(従業員規模別)、図表21 過去3年間のパワハラに関する相談の有無(業種別)、図表37 過去3年間のハラスメント該当事例の有無、図表117 パワハラ経験率(業種別)、企業調査票のパワハラの定義)
  3. 同 正誤表(2025年8月15日掲載)
  4. 職場におけるハラスメントの防止のために/厚生労働省/労働施策総合推進法にもとづくパワハラ防止措置の義務化(大企業は令和2年6月1日、中小企業は令和4年4月1日)と講ずべき措置の内容