定着率、業種別で17.1ポイント差

金融業・保険業で93.4%、宿泊業・飲食サービス業で76.3%。1年あたりの定着率を産業で切ると、上と下に17.1ポイントの開きが出る。厚生労働省の令和7年雇用動向調査が公表した離職率を、100から引いた値である。調査は常用労働者5人以上の事業所から14,840事業所を抽出して行われ、有効回答は上半期9,277事業所、下半期8,807事業所だった。公表は2026年8月31日。

定着率という指標は、そもそも集計されていない

出ているのは離職率のほうで、定着率のほうは表に無い。100から引けば出る値なので、以下は両方を並べる。

産業 離職率 定着率
金融業,保険業 6.6% 93.4%
複合サービス事業 8.6% 91.4%
建設業 8.7% 91.3%
電気・ガス・熱供給・水道業 8.8% 91.2%
運輸業,郵便業 9.0% 91.0%
製造業 9.8% 90.2%
鉱業,採石業,砂利採取業 10.2% 89.8%
情報通信業 10.4% 89.6%
学術研究,専門・技術サービス業 11.7% 88.3%
卸売業,小売業 11.9% 88.1%
不動産業,物品賃貸業 12.1% 87.9%
産業計 13.7% 86.3%
医療,福祉 14.3% 85.7%
教育,学習支援業 15.1% 84.9%
生活関連サービス業,娯楽業 20.1% 79.9%
サービス業(他に分類されないもの) 21.2% 78.8%
宿泊業,飲食サービス業 23.7% 76.3%

産業計の86.3%を下回ったのは5産業だけ。残る11産業は上に来た。

17.1ポイントの幅は、半分が下の3産業ぶん

上から8つ、金融業・保険業の93.4%から情報通信業の89.6%までは3.8ポイントの中に収まっていて、複合サービス事業も建設業も電気・ガスも製造業も、産業をまたいだところで定着率のほうはほとんど動かない。

そこから学術研究・専門・技術サービス業88.3%、卸売業・小売業88.1%、不動産業・物品賃貸業87.9%、医療・福祉85.7%、教育・学習支援業84.9%と、ゆるやかに5つ続く。

離れているのは残りの3つ。生活関連サービス業・娯楽業79.9%、サービス業(他に分類されないもの)78.8%、宿泊業・飲食サービス業76.3%。上から13番目の教育・学習支援業と14番目の生活関連サービス業・娯楽業のあいだだけ5.0ポイント空いていて、この段差と下の3産業がお互いに開いたぶんを足すと8.6ポイント、17.1ポイントという全体の幅の半分になる。「産業によって定着率が違う」という言い方は、実際には16産業のうち3つが下に落ちている、という形をしている。

定着率がいちばん低い産業に、いちばん人が入ってきた

同じ調査は入職率も出している。入職率から離職率を引いた入職超過率を見ると、定着率76.3%で最下位だった宿泊業・飲食サービス業がプラス4.1ポイントで最も大きく、辞めた人より入ってきた人のほうが多かった産業の先頭に、定着率のいちばん低い産業が来る。

逆に、入職超過率がいちばん小さいのは複合サービス事業のマイナス2.3ポイント。定着率では91.4%で2番目に高いのに、出ていった人のほうが多かった。定着率でいちばん上の金融業・保険業はプラス2.1、製造業はマイナス0.2、卸売業・小売業はプラス0.7。

定着率の高さと、働く人が増えているかどうかは別々に動くので、定着率だけを手がかりに産業を選ぶと、出入りの少ないまま縮んでいる産業にたどり着くこともある。

率で見るか、人数で見るか

離職者数の実数を並べると、順位が入れ替わる。いちばん多いのは医療・福祉の1,200.2千人で、次が卸売業・小売業の1,120.8千人、宿泊業・飲食サービス業は1,042.7千人だった。

定着率85.7%の医療・福祉のほうが、76.3%の宿泊業・飲食サービス業より、1年に辞めた人の数では多い。母数が違うから。率で並べた表と、人数で並べた表は、別のことを言っている。

就業形態で分けると、産業ごとに開き方が違う

一般労働者とパートタイム労働者を分けると、産業のなかにもう一段の差が出てくる。

産業 一般労働者の定着率 パートタイム労働者の定着率 差
医療,福祉 86.4% 84.1% 2.3ポイント
宿泊業,飲食サービス業 78.5% 75.0% 3.5ポイント
金融業,保険業 93.7% 89.4% 4.3ポイント
複合サービス事業 92.3% 87.4% 4.9ポイント
製造業 90.8% 85.8% 5.0ポイント
教育,学習支援業 90.2% 73.4% 16.8ポイント

医療・福祉の2.3ポイントと、教育・学習支援業の16.8ポイント。同じ「産業の定着率」という一つの数字でも、就業形態で割ったときに開くのか開かないのかは産業ごとに違っていて、医療・福祉では常勤かパートかで定着の様子がほとんど変わらない。教育・学習支援業では、16.8ポイントぶん変わる。

開き方そのものも年で動く。宿泊業・飲食サービス業は令和6年に一般81.9%・パート70.1%で11.8ポイント開いていたが、令和7年は3.5ポイントまで縮んだ。一般労働者の定着率が下がり、パートタイム労働者のほうが上がって、両側から寄った形になる。

全体の就業形態別の値と、産業をまたいだ比較は定着率の平均は86.3%、1年あたりに置いてある。

この17.1ポイントで言えないこと

産業ごとに何事業所が答えたのかは概況からは読み取れず、抽出が14,840事業所、有効回答が上半期9,277事業所・下半期8,807事業所、平均有効回答率が60.9%だったと分かるだけで、その内訳は産業別に示されていない。回答数の少ない産業で値が振れている可能性は残る。ここは推定。

5人未満の事業所は、最初から抽出の枠に入っていない。

離職率の中身も分けられない。定年で辞めた人、契約期間が満了した人、自分の都合で辞めた人、会社の都合で辞めた人が同じ離職者として数えられているので、宿泊業・飲食サービス業の23.7%のうちどれだけが本人の意思によるものだったのかは、この表からは出てこない。

産業の区分は、勤め先の事業所が何をしているかで決まる。職種ではない。製造業の90.2%には、工場のラインにいる人も、本社で経理をしている人も、同じ1つの値として入っている。

そして100から引いた定着率は、1年ぶんの数字である。3年後に何%が残っているかを聞いた値とは別のもので、新卒3年目の定着率を扱った規模別の定着率は42%から73%の数値とは、そのまま比べられない。

平均の外側にある、自分の職場の数

76.3%も93.4%も、産業を全国でならした値である。自分の職場がどちら側にあるかは、この表を見ても分からない。

手元で数えられるものなら、いくつかある。この1年で、同じ部署から何人が辞めたか。その人たちの勤続年数はどれくらいだったか。辞めた席に人が入るまで何か月かかったか。

3つとも産業の平均には出てこない値で、書き留めておくと、次に異動や転職を考えるときに、率ではなく自分の周りで起きたこととして材料になる。

出典

  1. 令和7年 雇用動向調査結果の概況/厚生労働省/2025年(年計)・常用労働者5人以上の事業所から14,840事業所を抽出、有効回答は上半期9,277事業所・下半期8,807事業所/2026年8月31日公表
  2. 同 概況全体版「2 産業別の入職と離職」(表4-1 産業、就業形態別入職者・離職者状況/表4-2 産業、就業形態別入職率・離職率・入職超過率/付属統計表2-2)および「調査の概要」
  3. 雇用動向調査の調査設計(対象・抽出・実施時期)/労働政策研究・研修機構 労働統計所在案内