昇給が少ない理由は3つに分かれる

今年の昇給が少ないと感じたとき、原因は会社の業績・自分の評価の位置・制度の設計のどれかに分かれる。額そのものを見ていても、どれなのかは分からない。厚生労働省の「賃金引上げ等の実態に関する調査」(2025年、有効回答1,847社)を物差しに使うと、自分の額が世の中のどのあたりにあるかと、次に何を確かめればいいかが同時に見えてくる。

平均は13,601円。ただし規模で6,500円ひらく

2025年中に1人平均賃金を引き上げた、または引き上げる企業は91.5%。改定額は13,601円、改定率は4.4%だった。前年の11,961円・4.1%からは上がっている。

この13,601円と自分の額を直接並べる前に、企業規模を見たほうがいい。5,000人以上が16,784円(5.1%)、1,000〜4,999人が15,859円(5.0%)、300〜999人が12,308円(4.0%)、100〜299人が10,264円(3.6%)。いちばん大きい規模といちばん小さい規模のあいだには6,520円の開きがある。

産業別の幅はさらに大きい。建設業の20,724円に対し、医療・福祉は5,589円、生活関連サービス業・娯楽業は7,744円。情報通信業は14,096円で全体平均を超えるが、改定率は3.9%と平均を下回る。額が大きくても、もとの賃金水準が高ければ率は伸びない。

調査対象は常用労働者100人以上の会社組織の民営企業で、調査対象3,643社のうち1,847社が答えている(有効回答率50.7%)。100人未満の会社は入っていない。参考値。

「昇給」という言葉が三つのものを指している

調査は賃金の改定を三つに分けている。ひとつは定期昇給で、労働協約や就業規則で定められた制度に従い、一定の時期に毎年増額するもの。年齢や勤続年数による自動昇給のほか、毎年時期を決めて査定を行う昇給も含む。

ふたつめがベースアップ。賃金表そのものを書き換えて水準を引き上げることを指す。三つめは諸手当の改定で、役付手当や家族手当、住宅手当などの見直し。

自分の明細で増えた分がどれなのかを知らないまま「昇給が少ない」と言うと、話が噛み合わない。定昇だけが動いた年と、賃金表を書き換えるベースアップが乗った年とでは、手取りの増え方が同じ3,000円でも、来年以降にその3,000円が積み上がっていくかどうかが変わってくる。前者は制度どおりの増え方で、後者は水準そのものの引き上げ。

会社がいちばん見ているのは、自分の評価ではない

賃金の改定を決めるときに最も重視した要素を聞くと、「企業の業績」が41.7%で最も多い。前年の35.2%から6.5ポイント上がった。次が「労働力の確保・定着」の17.0%、「雇用の維持」が11.9%。

つまり、4割の会社では、個人の評価より先に業績が額の天井を決めている。評価が標準より上だと言われたのに額がほとんど動かなかったなら、原因の一部は自分の評価の外側、つまり配分できる原資そのものの大きさにあるかもしれず、そこを確かめないまま評価の話だけを詰めても答えは出てこない。順番が逆になる。

制度があることと、実際に動いたことは別

「定昇制度あり」の企業は81.2%、「定昇制度なし」は17.7%。制度がある企業のうち「定昇を行った・行う」は76.8%で、「行わなかった・行わない」が2.6%、「延期した」が0.1%となっている。

見落とされやすいのが制度の中身だ。定期昇給制度の内容を聞くと、「自動昇給」は27.5%にとどまり、「その他(業績評価など)」が72.4%を占める。年齢や勤続で自動的に上がる仕組みを持つ会社は、いまや4社に1社ほど。残りは査定を通す。勤続年数が延びたのに額が変わらないのは、制度が壊れているからではなく、はじめから査定型だからという場合がある。

労働組合の有無でも差が出る。組合ありの改定額は15,229円(4.8%)、組合なしは11,980円(4.0%)。3,249円の差。

基準は就業規則か賃金規程に書いてある

昇給の基準が分からないとき、最初に開く場所は決まっている。労働基準法89条は、常時10人以上を使用する事業場について、賃金の決定・計算・支払の方法と昇給に関する事項を就業規則の必要記載事項と定めている。だから昇給の扱いは、どこかに文章で存在する。

ただし「昇給は会社の業績および本人の勤務成績により行うことがある」としか書かれていない会社も多い。額も時期も約束されていない書き方だが、それでも開く価値はある。評価の区分が何段階あるか、昇給が号俸表に紐づいているか、賞与と昇給のどちらに評価が効くのか、そして改定の時期が何月と定められているのか。ここまで読んでも書かれていないと分かること自体が収穫で、書かれていない項目はそのまま次の面談で聞く質問になる。

面談で聞く順番

昇給額そのものを交渉する前に、事実を三つ確かめたほうが話が進む。順番はこう。

  1. 今回の改定は定昇だけか、ベースアップを含んでいたか
  2. 評価が昇給額に変換される仕組みはあるか(評価と号俸・金額の対応表があるか)
  3. 自分の評価が全体のどのあたりに置かれたか

3番目は直接聞きにくいので、評価の理由を引き出す聞き方を先に見ておくといい。1番と2番は制度の話なので、感情の摩擦なしに聞ける。上司が答えられないときは、答えられないという事実が分かる。それも記録に残る材料。

聞いたあとに「では何が変われば次は上がるのか」まで踏み込めると、面談が一度きりの確認で終わらない。話す内容の組み立ては1on1で何を話すかにまとめてある。

何年か続いているなら、率で並べる

少ない年が一度あるだけなら、その年の業績で説明がつくこともある。続いているかどうかを見るには、過去3年の改定額を並べ、そのつど基本給で割って率に直す。額は基本給が上がれば自然に増えるので、率のほうが変化を映す。

全体の改定率は2020年と2021年の調査で下がり、2022年調査から上がり続けている。自分の率が3年続けて全体の動きと逆を向いているなら、会社の業績か、自分の評価の位置か、制度のどれかが固定されている。どれかまでは、上の三つの質問で切り分ける。

その先の判断材料としては、仕事を辞めた理由の統計で、給与への不満がどの順位にあるかを見ておくと、自分の感じ方の置きどころが分かる。

数字の代わりに、条件を記録する

昇給額は年に一度しか動かない。そのあいだに変わっているのは、任される仕事の範囲、評価の伝わり方、相談できる相手の数といった条件のほうだ。額が動かない理由は、たいていそちらに先に現れる。

自分の職場の条件を測って記録しておくと、次の昇給のときに「何が変わって、何が変わらなかったか」を並べて話せる。

出典

  1. 令和7年賃金引上げ等の実態に関する調査の概況/厚生労働省/2025年調査・有効回答企業1,847社(常用労働者100人以上)