上司と合わない原因を4つに分ける

「上司と合わない」の中身は4つに割れる。指示の粒度、決定の経路、フィードバックの頻度、時間の使い方。どれがどれくらいずれているかを書き出せれば、我慢を続けるか動くかの判断に、人柄への印象ではなく日付と回数の入った記録を使える。厚生労働省の令和6年労働安全衛生調査(実態調査)で、現在の仕事や職業生活に強い不安や悩み、ストレスとなっている事柄があると答えた労働者は68.3%、その内容として「対人関係(セクハラ・パワハラを含む)」を挙げた人は26.1%にとどまり、最も多い「仕事の量」の43.2%には届かない。上司との関係だけが原因に見えているとき、隣に量の問題が並んでいることもある。

合っていないものを4つに割る

先週の1週間で「合わない」と思った瞬間を思い出して、次のどれに当たるか振り分けてほしい。1つの出来事が2つにまたがってもかまわない。

  • 指示の粒度 — 手順まで指定されるのか、目的だけ渡されて進め方は任されるのか
  • 決定の経路 — どこまで自分で決めてよく、どこから承認が要るのか。誰を飛ばすと角が立つのか
  • フィードバックの頻度と場 — いつ、どこで、どれくらいの粒度で返ってくるのか(返ってこない側から動かすならフィードバックのもらい方を分解する)
  • 時間の使い方 — 依頼が来る時刻、締切の決め方、会議に取られる時間

振り分けてみると、たいてい偏る。4つ全部が同じくらいずれている人は少なくて、手順を細かく指定されるのが苦しい人が締切の決め方には何も感じていない、というように1つか2つの変数に集まることのほうが多い。逆もある。

偏りが見えると、話す相手と中身が決まる。指示の粒度なら、直属の上司と個別に詰める話。決定の経路は上司ひとりの裁量で動かないことが多く、部署の決裁ルールや前任者から続く慣習まで含めた話になるので、持ち出す場所も相手も変わってくる。

上司の癖なのか、自分の最適点との距離なのか

同じ上司の下で、平気そうにしている同僚がいる。我慢強さの差とは限らない。

裁量の広さや連絡の頻度には、人によって具合のいい水準がある。細かく確認が来るほうが安心して進む人もいれば、確認のたびに手が止まって、その日の残りの集中が戻ってこない人もいる。どちらも間違っていない。上司が出す量が一定でも、受け取る側の最適点が違えば、片方だけがずれを感じる。

だから「上司に問題があるのか、自分に問題があるのか」という問いは、途中で行き止まりになる。問題の所在より、自分の最適点がどこにあるかを先に書く。 そのうえで、いまの上司から来る量との差を測る。異動や転職を考えるときに持っていけるのは、この差のほうです。相手への評価は持っていけない。

裁量や安全性のように、測り方が研究で定まっている変数もある。定義と尺度は心理的安全性の記事に書いた。

記録に残せるもの、残せないもの

事実として残せるのは、頻度・時刻・経路・人数。残せないのは「威圧的だった」「見下された」といった印象です。

印象を書いた記録は、あとで自分でも使えない。読み返したときに、そのときの気分だけが戻ってきて、何が起きていたかまでは思い出せないからだ。代わりに、出来事を書く。

  • 火曜 18:40、翌朝締切の差し替え依頼。事前の共有なし
  • 木曜の定例で、自分の担当分の判断が保留。3週連続
  • 金曜、部長への報告資料を上司が書き直した。修正箇所の共有なし

この形なら、面談でそのまま読める。日付と回数が入っているぶん、聞く側も「どの話か」を特定できるし、上司が覚えていない出来事でも、記録が残っていれば事実の確認から会話を始められる。1on1で何を持ち込むかに迷うなら、1on1の目的と頻度の記事も参照してください。

ただし、暴言や人格否定、就業環境を害する言動が含まれるなら、記録の使い道が変わる。相性の問題として扱わず、社内の相談窓口か、都道府県労働局の総合労働相談コーナーへ。業種ごとの広がりはハラスメントの業種別の記事にまとめてある。

4週間ためると、原因の候補が絞れる

1週間の記録では、その週が特別だった可能性を消せない。必要なのは4週間分。

期間を取る理由は、交ざっているものを外すためです。次の3つは、上司との相性とは別に「合わなさ」を作る。

異動や着任の直後は、決定の経路がまだ共有されていない時期にあたるので、3か月ほどで薄れていくずれなら、原因は相性より引き継ぎの不足という線が濃くなる。繁忙期も同じ。依頼の時刻が遅くなるのは季節の問題という可能性が残る。上司自身の担当範囲が広がった直後も、フィードバックの頻度は落ちる。

4週間分を並べて、ずれが毎週出ているのか、特定の週に固まっているのかを見る。ここで分かれる。毎週同じ変数がずれているなら、時間が解決する見込みは薄い。特定の週に集まっているなら、繁忙の山を先に共有するところから動かせる。

今週やること

  1. 先週の出来事を3つ、日付と時刻を入れて書く。評価語を使わずに書けるかどうかを確かめる
  2. その3つを4つの変数に振り分け、どこに偏ったかを見る
  3. 偏った変数について、自分の最適点を1文で書く(「進め方は任せてほしい。締切だけ先に決めたい」など)
  4. 4週間続ける。2週目で飽きたら、頻度だけ数える形に落としてよい

記録が4週間ぶん貯まってから、異動希望や転職の話に進んでも遅くない。異動の希望がどれくらい通っているかは、異動の本人希望の反映割合の記事に公的統計の数値を載せた。

我慢の期限は、最初に決めておく。決めずに続けると、記録のほうが先に止まる。

出典

  1. 令和6年 労働安全衛生調査(実態調査)/厚生労働省/2024年10月31日現在・個人調査の有効回答8,596人/2025年8月7日公表
  2. 同 結果の概況(PDF)第17表「仕事や職業生活に関する強い不安、悩み、ストレスの有無及び内容別労働者割合」