満足度を項目ごとに聞いた公的調査では、正社員がいちばん満足しているのは「雇用の安定性」で、満足度D.I.は66.3ポイント。いちばん低いのは「教育訓練・能力開発のあり方」の20.3ポイントで、11項目のあいだに46.0ポイントの差があった。厚生労働省の令和6年就業形態の多様化に関する総合実態調査、個人調査の有効回答14,076人(2024年10月1日現在)の結果。
満足度D.I.は、「満足」または「やや満足」と答えた人の割合から、「不満」または「やや不満」と答えた人の割合を引いた値。プラスなら満足側が多い。
社内のES調査と、この調査が測っているもの
会社が回す従業員満足度調査(ES調査)は、設問も尺度も社内で作る。母集団はその会社の社員に限られ、5段階の評価が多い。全国の平均と社内のスコアを並べて上下を言えないのは、測っているものが同じだと確かめられないからで、満足度の全国平均という数字がそもそも公表されていない事情については従業員満足度の平均、近い数字は4.92点に書いた。
一方でこの調査は、11項目と職業生活全体について全国の労働者に同じ設問で聞いている。項目の並びは、社内のES調査でよく置かれる区分(仕事、職場、処遇、福利厚生、教育)とおおむね重なる。だから使えるのは、どの項目が全国では上に来てどれが下に来るかという順番のほう。
満足度と近い語で測られるワークエンゲージメントは別の変数で、定義と尺度はワークエンゲージメントとは何の状態かにまとめてある。
正社員の11項目を、満足度D.I.の高い順に
| 項目 |
満足計 |
どちらでもない |
不満計 |
D.I. |
2019年のD.I. |
| 雇用の安定性 |
71.7% |
21.9% |
5.4% |
66.3 |
61.4 |
| 仕事の内容・やりがい |
69.1% |
21.1% |
9.1% |
60.0 |
58.8 |
| 正社員との人間関係、コミュニケーション |
62.5% |
25.0% |
10.2% |
52.3 |
49.5 |
| 労働時間・休日等の労働条件 |
61.5% |
20.7% |
16.3% |
45.3 |
37.0 |
| 正社員以外の労働者との人間関係 |
50.7% |
28.0% |
6.1% |
44.6 |
50.5 |
| 福利厚生 |
57.1% |
27.2% |
15.3% |
41.8 |
37.9 |
| 職場の環境 |
58.2% |
23.2% |
17.0% |
41.2 |
41.4 |
| 職場での指揮命令系統の明確性 |
48.3% |
28.3% |
20.3% |
28.0 |
22.4 |
| 賃金 |
49.1% |
22.1% |
28.3% |
20.8 |
21.7 |
| 人事評価・処遇のあり方 |
42.5% |
34.8% |
22.0% |
20.5 |
16.2 |
| 教育訓練・能力開発のあり方 |
40.5% |
37.8% |
20.2% |
20.3 |
19.1 |
| (参考)職業生活全体 |
55.9% |
30.5% |
12.9% |
43.0 |
41.6 |
下の3つが接近している。賃金20.8、人事評価・処遇20.5、教育訓練・能力開発20.3。差は0.5ポイントで、どれが最下位かを言うより、3つが同じ水準にまとまっていることのほうが読める。
上の2つとの距離は大きい。雇用の安定性66.3と教育訓練20.3のあいだに46.0ポイント。同じ人たちが同じ調査票で答えているのに、項目によって満足の出方がこれだけ違う。
職業生活全体の43.0は、11項目の中央あたりに位置する。全体を1問で聞いた値は、項目ごとの高低を平らにした数字になる。
不満が多い項目と、保留が多い項目は別
D.I.だけを見ると、低い理由が2通りあることが隠れる。
賃金は不満計が28.3%で、11項目のなかで最も高い。はっきり不満と答えた人が3割近くいるぶん、満足計の49.1%が押し下げられて、D.I.が20.8ポイントまで落ちている。
教育訓練・能力開発のほうは違う。不満計は20.2%で賃金より8.1ポイント低いのに、D.I.はほぼ同じ20.3で、代わりに差を作っているのが「どちらでもない」と答えた37.8%という、11項目のなかで最も多い保留の割合。人事評価・処遇も34.8%が「どちらでもない」。
つまりこの2項目の低さは、不満が集まっているというより、満足とも不満とも答えにくい状態。評価や教育の仕組みが見えていないと、答えようがない。評価の周期と対象が何で決まるかは年次評価とは、1年で何を測るか、決まり方が納得できるかどうかを扱う変数は公正の知覚とは、職場の何を指すかにある。
なお、正社員の「正社員以外の労働者との人間関係」は、満足計50.7%・どちらでもない28.0%・不満計6.1%で合計84.8%。残りの15.2%は内訳に出てこない。職場に正社員以外の労働者がいない回答者などが含まれると考えられる(推定)。
正社員と正社員以外で、順番が入れ替わる
正社員以外の労働者(出向社員、契約社員、嘱託社員、パートタイム労働者、派遣労働者、臨時労働者など)では、最も高い項目が「仕事の内容・やりがい」の63.3ポイントになる。2番目は「正社員以外の労働者との人間関係、コミュニケーション」の56.9ポイント。
差が大きい項目を並べる。
| 項目 |
正社員 |
正社員以外 |
差 |
| 福利厚生 |
41.8 |
21.0 |
20.8 |
| 雇用の安定性 |
66.3 |
46.0 |
20.3 |
| 人事評価・処遇のあり方 |
20.5 |
28.5 |
−8.0 |
| 労働時間・休日等の労働条件 |
45.3 |
52.4 |
−7.1 |
| 職場での指揮命令系統の明確性 |
28.0 |
34.2 |
−6.2 |
| 賃金 |
20.8 |
18.4 |
2.4 |
| 職業生活全体 |
43.0 |
41.7 |
1.3 |
福利厚生と雇用の安定性は、正社員が20ポイント以上高い。制度の適用範囲と契約期間の違いがそのまま出ている形。
逆に人事評価・処遇、労働時間・休日等、指揮命令系統の明確性は、正社員以外のほうが高い。正社員以外の就業形態をさらに分けると、嘱託社員(再雇用者)の賃金はD.I.が−0.9ポイントで、不満計37.3%が満足計36.4%を上回る。就業形態を細かく割ると、項目ごとにマイナスが出る区分がある。
職業生活全体で見ると43.0と41.7で、差は1.3ポイントしかない。項目ごとに20ポイント開いていても、1問で全体を聞くと差が見えなくなる。
2019年からいちばん動いたのは労働時間
同じ表に前回調査(令和元年、2019年)の値が併記されている。正社員でいちばん上がったのは労働時間・休日等の労働条件で、37.0から45.3へ8.3ポイント動いた。次に大きいのが職場での指揮命令系統の明確性の22.4から28.0で、5.6ポイントぶん。雇用の安定性も61.4から66.3に上がっている。
下がったのは「正社員以外の労働者との人間関係」で、50.5から44.6へ5.9ポイント。賃金は21.7から20.8でほぼ横ばい、職場の環境も41.4から41.2で動いていない。5年のあいだに労働時間と休日の条件への満足がはっきり上がり、賃金への満足はその間ずっと同じ水準にとどまった、という並びになる。
正社員以外の労働者では、上がり幅がもっと大きい。賃金が6.7から18.4で11.7ポイント、教育訓練が4.2から15.7で11.5ポイント、職業生活全体が25.7から41.7で16.0ポイント上がっている。
この結果から言えないこと
D.I.は満足側と不満側の差。だから両方が同じだけ増えても値は動かず、満足計と不満計を別に見ないかぎり、職場のなかで答えが二つに割れているのか、真ん中にまとまっているのかは区別できない。
業種別や企業規模別の内訳も、この参考表には無い。業種で割った満足度は別の調査になり、従業員満足度、業種別に16ポイント差に若年労働者の集計を載せた。調査も対象も違うので、同じ表の数字としては並べられない。
調査の時点は2024年10月1日。賃金の改定や労働時間の制度変更があった職場では、現在の状態とずれている可能性がある。
社内の調査結果を読むときに置く軸
自分の勤め先のES調査の結果を見るときに使えるのは、項目間の順番のほう。全国では雇用の安定性と仕事の内容が上に来て、賃金・人事評価・教育訓練が下に来るので、この順番から外れている項目こそ、その職場に固有の条件として記録しておく価値がある。
「どちらでもない」の割合も一緒に見ておきたい。ここが3割を超えている項目は、不満があるというより、判断する材料が従業員に渡っていない。評価の基準、教育の機会、昇給の決まり方。どれも、数字の高低より先に「見えているか」を確かめる対象。