ハラスメントとは、定義は5つある

「ハラスメント」という一語に、法律上の定義は無い。定義が置かれているのは、事業主に防止の措置を義務づけた5種類それぞれのほうで、パワーハラスメントは3つの要素がそろったときに当たるという形、セクシュアルハラスメントは労働条件で不利益を受けるか就業環境が害されるかの2つの型という形で、組み立てからして違う。2026年10月1日には、ここへカスタマーハラスメントと求職者等セクシュアルハラスメントが加わった。自分が受けている言動を調べるなら、どの定義を読むかを先に決めることになる。

定義が置かれているのは5種類

呼び方 根拠法 定義と措置を書いた指針
パワーハラスメント 労働施策総合推進法 令和2年厚生労働省告示第5号
セクシュアルハラスメント 男女雇用機会均等法 平成18年厚生労働省告示第615号
妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント 男女雇用機会均等法、育児・介護休業法 平成28年厚生労働省告示第312号
カスタマーハラスメント 労働施策総合推進法(令和7年法律第63号による改正) 令和8年厚生労働省告示第51号
求職者等に対するセクシュアルハラスメント 男女雇用機会均等法(同じ改正) 令和8年厚生労働省告示第52号

パワハラの措置義務が始まったのは、大企業で2020年6月1日、中小企業で2022年4月1日。表の指針はいずれも2026年10月1日から適用されている版で、厚生労働省のハラスメント防止のページにPDFが並んでいる。モラルハラスメント、時短ハラスメント、スメルハラスメント。名前が流通しているものの多くは、この表の外にある。

パワハラに当たるのは3つの要素がそろったとき

職場で行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるもの。指針は、この3つの要素を全部満たすものを職場におけるパワーハラスメントと定めている。1つでも欠ければ当たらない。

①の「優越的な関係を背景とした」は、言動を受ける側が行為者に抵抗または拒絶することができない蓋然性が高い関係を指す。上司からの言動だけに限らない。業務上必要な知識や豊富な経験を持つ同僚や部下で、その協力を得なければ業務の円滑な遂行が難しい相手からの言動、それに同僚や部下の集団による行為で抵抗や拒絶が困難なものも、指針は①に含めている。

②に入るのは、社会通念に照らして明らかに業務上の必要性がない言動、業務の目的を大きく逸脱した言動、手段として不適当な言動、回数や行為者の数といった態様が許容される範囲を超える言動。判断では、言動の目的、受けた側の問題行動の有無とその内容・程度、業種・業態、業務の内容や性質、言動の態様・頻度・継続性、労働者の属性や心身の状況、行為者との関係性を総合的に考慮するとされている。

③の「就業環境が害される」は、就業する上で看過できない程度の支障が生じること。ここの基準は**「平均的な労働者の感じ方」**で、同様の状況で同じ言動を受けた社会一般の労働者が、看過できない程度の支障が生じたと感じるような言動かどうかで見る。受けた本人の主観だけで決まる仕組みにはなっていない。

客観的にみて業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導は、パワハラに当たらない。遅刻のように社会的ルールを欠いた言動が再三の注意でも改善されない労働者に、一定程度強く注意すること。これも指針が「該当しないと考えられる例」に挙げている。

測り方は、6つの類型と例の対照

指針は代表的な言動を6つの類型に分け、類型ごとに「該当すると考えられる例」と「該当しないと考えられる例」を並べている。自分の状況を当てはめるなら、両側を読み比べるのが実際の測り方になる。

類型 該当すると考えられる例 該当しないと考えられる例
身体的な攻撃(暴行・傷害) 殴打や足蹴り、相手に物を投げつける 誤ってぶつかる
精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・暴言) 人格を否定する言動、必要以上に長時間にわたる厳しい叱責の繰り返し、他の労働者の面前での大声の威圧的な叱責 社会的ルールを欠いた言動が改善されない労働者への、一定程度強い注意
人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視) 仕事を外して長期間別室に隔離する、同僚が集団で無視して孤立させる 新規採用者を育成するため短期間集中的に別室で研修を実施する
過大な要求(明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制・仕事の妨害) 業務に直接関係のない過酷な作業を長期間命じる、業務と関係のない私的な雑用を強制する 育成のため現状より少し高いレベルの業務を任せる
過小な要求(能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じる、仕事を与えない) 管理職を退職させるために程度の低い業務を行わせる、嫌がらせのために仕事を与えない 能力に応じて業務内容や業務量を一定程度軽減する
個の侵害(私的なことへの過度の立ち入り) 職場外でも継続的に監視する、性的指向・ジェンダーアイデンティティや病歴を了解なく他の労働者に暴露する 了解を得て、必要な範囲で人事労務部門の担当者に伝えて配慮を促す

この6つは限定列挙ではない。指針は「次の例は限定列挙ではないことに十分留意し」と書き添えたうえで、広く相談に対応するよう求めている。自社の商品やサービスを労働者の自由な意思に反して購入させる行為、いわゆる商品の買い取り強要に関連する言動も、3つの要素を満たせばパワハラに当たると明記された。類型の名前を探して見つからないことは、当たらないことの証明にならない。

「職場」も「労働者」も、範囲が広くとられている

「職場」は、事業主が雇用する労働者が業務を遂行する場所。通常就業している場所以外でも、業務を遂行する場所であれば含まれる。セクハラの指針は、取引先の事務所、取引先と打合せをするための飲食店、顧客の自宅を例に挙げている。

「労働者」は正規雇用に限らない。パートタイム労働者、契約社員などの非正規雇用で働く人も、事業主が雇用する労働者の全てに入る。派遣で働いている場合は、派遣元だけでなく派遣先も、指揮命令の下で働かせる派遣労働者について同じ措置を講じる立場に置かれる(労働者派遣法第47条の4)。

2026年10月に定義が2つ増えた

カスタマーハラスメントは、①顧客等の言動であって、②労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるもの。やはり3要素を全部満たすものと定められ、電話やSNSなどインターネット上で行われるものも含む。

「顧客等」の範囲は広い。顧客、取引の相手方、駅・空港・病院・学校・福祉施設・公共施設などの利用者、その他その事業に関係を有する者が入り、今後商品の購入やサービスの利用をする可能性がある者まで含まれる。顧客等からの著しい迷惑行為について相談があった企業の割合は業種でかなり違っていて、業種別ハラスメント相談は53.9%に数値を並べた。

求職者等に対するセクシュアルハラスメントは、事業主が雇用する労働者による性的な言動により、求職者等の求職活動等が阻害されるもの。インターンシップで性的な冗談やからかいを意図的かつ継続的に行い、参加した人が苦痛を感じて活動が手につかなくなる、という例が指針の解説に挙がっている。

名前が付いていても、定義があるとは限らない

モラハラやジタハラのように通称が広まっている言動は、5つの定義のどこにも固有の名前では出てこない。言動の実態が3つの要素を満たせば、名前が無くてもパワハラとして扱われる。名前を探すより、優越的な関係があるか、業務上必要かつ相当な範囲を超えているか、就業環境に看過できない支障が出ているか。この3つを1つずつ確かめたほうが早い。

相談先の選び方と、相談した後に勤務先が実際にした対応の数値は、ハラスメントを誰に相談するかに分けてある。パワハラの相談があった企業の割合は、パワハラ相談、業種別で76.9%のほう。

自分の職場で起きていることを記録する

定義を読んでも、自分の職場の状態が数字になるわけではない。workprevu の診断では、上司とのやりとりの頻度、確認の入り方、自分で決められる範囲といった条件を設問に割って記録する。いつ何が起きたかを時系列で残しておけば、社内の窓口に出すときも、異動や転職を考えるときも、同じメモが土台になる。

出典

  1. 職場におけるハラスメントの防止のために(厚生労働省 雇用環境・均等局、5種類の根拠法と指針の一覧)
  2. 事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号、令和8年10月1日適用。パワハラの3要素と6類型)
  3. 事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(平成18年厚生労働省告示第615号、令和8年10月1日適用。対価型・環境型と「職場」の例示)
  4. 事業主が職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(平成28年厚生労働省告示第312号、令和8年10月1日適用)
  5. 令和8年10月1日からハラスメント対策が強化されます!(厚生労働省。カスタマーハラスメントと求職者等セクシュアルハラスメントの定義と措置)