転勤の理由は辞令には書かれない

企業が挙げる転勤の理由で最も多いのは「社員の人材育成」で66.4%。次が「社員の処遇・適材適所」57.1%、「組織運営上の人事ローテーションの結果」53.4%と続く。労働政策研究・研修機構が転勤のある企業1,133社に複数回答で聞いた結果だ。

それでいて、転勤に関するルールを「定めていない」企業は76.4%ある。理由は人事の側にはあるのに、本人が読める形では置かれていない。辞令の紙に目的が書かれないのは、書く決まりがないから。

「転勤の理由」は、2つの向きで使われる

1つは会社の側の目的、つまり誰をどこへ動かすかを決めた根拠。もう1つは本人の側の事情で、転勤を断る理由や、転勤のある会社を離れる理由を指す。検索の言葉としては同じでも、答えのある場所が違う。前者は人事制度と調査の数字に、後者は就業規則と自分の契約書にある。

この記事で整理するのは前者だ。配転命令権や就業規則の読み方は転勤とはにまとめた。

どう測った数字か

ここで使うのは、労働政策研究・研修機構が2016年8月19日から9月9日に実施した「企業の転勤の実態に関する調査」。常用労働者300人以上の企業1万社に調査票を送り、1,852社から回答を得ている(有効回収率18.5%)。このうち転勤のある企業、つまり「正社員(総合職)のほとんどが転勤の可能性がある」「転勤をする者の範囲は限られている」と答えた1,133社が、目的を聞かれる対象になった。

答えるのは人事部門で、複数回答。建前として選べるものが並ぶ設問なので、個々の辞令の本当の動機とは別物だと思っておく。調査でいう転勤は、転居を伴う異動に限られる。

目的は上から3つで頭打ちになる

転勤の目的(複数回答、n=1,133) 割合
社員の人材育成 66.4%
社員の処遇・適材適所 57.1%
組織運営上の人事ローテーションの結果 53.4%
組織の活性化・社員への刺激 50.6%
事業拡大・新規拠点立ち上げに伴う欠員補充 42.9%
幹部の選抜・育成 41.2%
組織としての一体化・連携の強化 32.5%
事業活動の変化への対応 26.7%
社員のモチベーションの維持・向上 24.1%
転勤先の従業員の教育・指導 18.4%
特定の事業所に発生した問題解決のため 12.2%
顧客・社内の人脈形成 10.5%
顧客との癒着・不正防止 10.3%
雇用調整・事業所閉鎖 9.1%

上位4つは、特定の誰かを動かす必要から出ていない。人材育成も、処遇・適材適所も、ローテーションの結果も、人事制度の運用として毎年発生するもの。これに対して「事業拡大・新規拠点立ち上げに伴う欠員補充」の42.9%や「特定の事業所に発生した問題解決のため」の12.2%は、誰かが抜けた、あるいは何かが起きたという個別の事情から出ていて、同じ辞令でも背景の緊急度が違う。前者なら自分が選ばれた理由を考えても答えは出にくい。制度が動いただけ。

よく言われる左遷の類は、この分類には出てこない。近いのは「雇用調整・事業所閉鎖」の9.1%と「顧客との癒着・不正防止」の10.3%で、どちらも1割前後。制度の運用として出る辞令のほうが、はるかに多い。

ルールを定めていない会社が4社に3社

転勤に関するルールの規定について、「定めていない」が76.4%、「明文化して定めている」が11.6%、「明文化していないが運用上ルールがある」が10.1%。

ルールがあると答えた企業に中身を聞くと、「転勤の期間(長さ)」53.2%、「転勤する地域・ブロック」28.4%、「転勤の時期(年齢、勤続年数、役職など)」25.1%。つまり、明文化されているか運用上の決まりがある2割強の会社でも、何年で戻るかは半分の会社で決まっている一方、どこへ行くのかと何歳で当たるのかは4分の1程度の会社でしか決まっていない。期間が最も決まりやすい。

定期的な人事異動(ジョブ・ローテーション)が「ある」企業は53.1%、人事異動の頻度は「3年」が27.9%で最多だった。この周期そのものの話はジョブローテーションとはと体制が変わる間隔にある。

自分の番が回ってくる確率を測るなら、見るのは制度のほう。ルールが明文化されている2割強の会社なら、期間と地域を就業規則で読める。残りでは、過去の異動の実績を数えるしかない。

目的と、本人の事情がぶつかるところ

育児・介護休業法第26条は、就業場所の変更を伴う配置の変更をしようとする場合に、それにより育児や介護が困難になる労働者がいるときは、その状況に配慮することを企業に求めている。人材育成という目的と、介護という事情が同じ辞令の上で突き合わされる場面で、効いてくる条文。

結果として辞める人もいる。過去3年間に本人の転勤を理由に離職した社員が「いた」と答えた企業は、男性で20.7%、女性で7.9%。5社に1社は、転勤を理由にした男性社員の離職を経験している。人材育成を目的に出した辞令が、育成する相手を失う形で終わることがある、という数字でもある。

勤務地の制約を外す方向の制度としては、テレワークもある。導入の状況はテレワークの導入にまとめた。

自分の職場で確かめる

自分に出た辞令の理由を推し量る材料は4つ。就業規則に転勤のルールの条文があるか、過去3年に自分の部署から出た転勤が定期異動の時期に集中しているか、赴任先のポストが空いていたのか新設なのか、転勤後の担当が今と同じか違うか。4つ目は能力の変化に直結する項目で、打診の場で聞ける。

本人の希望がどれくらい反映されているかの全国の数字は、異動の本人希望の反映割合にある。

workprevu の診断は、職場の条件を12の項目に割って記録する。働く時間と場所の自由度は、そのうちの1つ。自分の答えと同じ職場の人の答えを並べて、どこがずれているかを見る形にしてある。

出典

  1. 企業の転勤の実態に関する調査(調査シリーズNo.174。図表2-2-2 転勤の目的、図表2-2-3 ジョブ・ローテーションの有無、図表2-2-4 人事異動の頻度、図表2-2-5 転勤に関するルールの規定の有無、図表2-2-6 転勤のルールの内容、図表2-5-2 本人の転勤を理由に離職をした社員)/労働政策研究・研修機構/2016年8月19日〜9月9日実施・企業1,852社(回収率18.5%)、うち転勤がある企業1,133社/2017年公表
  2. 調査シリーズNo.174『企業の転勤の実態に関する調査』概要/労働政策研究・研修機構/2017年公表