カスハラの例として公的な資料に載っているのは、2つの束に分かれている。言動の内容が社会通念上許容される範囲を超えるものが4区分、手段や態様が範囲を超えるものが5類型。前者は要求の中身の話で、後者は言い方や拘束の仕方の話。2026年10月1日から適用された指針(令和8年厚生労働省告示第51号)が、それぞれに具体例を添えている。どちらか一方だけが範囲を超える場合でも該当し得る、というのが指針の立場。
カスハラの例は、内容と手段で分かれる
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内容が範囲を超える例は4つの区分
要求そのものに無理がある側。指針の2(5)イ。
| 区分 | 指針が挙げる例 |
|---|---|
| そもそも要求に理由がない又は商品・サービス等と全く関係のない要求 | 性的な要求や、労働者のプライバシーに関わる要求をすること |
| 契約等により想定しているサービスを著しく超える要求 | 契約内容を著しく超えたサービスの提供を要求すること |
| 対応が著しく困難な又は対応が不可能な要求 | 契約金額の著しい減額の要求をすること |
| 不当な損害賠償要求 | 商品やサービス等の内容と無関係である不当な損害賠償要求をすること |
手段や態様が範囲を超える例は5つの類型
言い方、回数、拘束の仕方の側。指針の2(5)ロ。こちらのほうが例が細かい。
| 類型 | 指針が挙げる例 |
|---|---|
| 身体的な攻撃(暴行、傷害等) | 殴る、蹴る、叩く等の暴行を行うこと/物を投げつけること/わざとぶつかること/つばを吐きかけること |
| 精神的な攻撃(脅迫、中傷、名誉毀損、侮辱、暴言、土下座の強要等) | 店舗の物を壊すことをほのめかす発言やインターネット上へ悪評を投稿することをほのめかす発言によって労働者を脅すこと/インターネット上へ労働者のプライバシーに係る情報の投稿等をすること/労働者の人格を否定するような言動を行うこと(性的指向・ジェンダーアイデンティティに関する侮辱的な言動を含む)/土下座を強要すること/盗撮や無断での撮影をすること/性的指向・ジェンダーアイデンティティ等の機微な個人情報を、本人の了解を得ずに他の者に暴露すること、または開示することを強要する若しくは禁止すること |
| 威圧的な言動 | 大きな声をあげて労働者や周囲を威圧すること/反社会的な言動を行うこと |
| 継続的、執拗な言動 | 同様の質問を執拗に繰り返すこと/当初の話からのすり替え、揚げ足取り、執拗な責め立てをすること/同様の電子メール等を執拗に繰り返し送りつけること |
| 拘束的な言動(不退去、居座り、監禁) | 長時間に渡る居座りや電話で労働者を拘束すること |
盗撮と無断での撮影が精神的な攻撃に入っているのは、この指針で明示された部分。SNSへの投稿をほのめかす発言も、投稿そのものではなく「ほのめかす」段で例に挙がっている。
一覧に無い言動が、該当しないとは書かれていない
指針は例の前後に2つの注記を置いている。個別の事案の状況等によって判断が異なる場合もあり得ること。そして、イ及びロに掲げるものは限定列挙ではないこと。
続けて、該当するか否か微妙な場合であっても広く相談に対応するよう、と相談窓口の措置のほうへつないでいる。一覧と見比べて近い項目が無いから相談できない、という読み方にはならない。
実際に多いのは「継続的な、執拗な言動」
厚生労働省の委託調査(2023年12月〜2024年1月実施)では、顧客等からの著しい迷惑行為に該当すると判断した事案があった企業(n=1,880、複数回答)で、事案の内容として最も多かったのは「継続的な、執拗な言動」の72.1%だった。
受けた側に聞いた数値もある。顧客等からの著しい迷惑行為を受けたと答えた人(n=861、複数回答)では、「継続的な(繰り返される)、執拗な(しつこい)言動(頻繁なクレーム、同じ質問を繰り返す等)」が57.3%で最多、次が「威圧的な言動(大声で責める、反社会的な者とのつながりをほのめかす等)」の50.2%。
身体的な攻撃より、繰り返しと大声のほうが多い。指針の5類型のうち、現場で数が出ているのは後ろの2つ。
行為者は顧客等が82.3%、場所は電話とメールが38.1%
同じ調査で、顧客等からの著しい迷惑行為の行為者は「顧客等(患者またはその家族等を含む)」が82.3%。残りは取引先や、施設の利用者の家族などに分かれる。
受けた場所は、通常就業している場所が60.7%で最も多く、2番目が「顧客等との電話やメール等での応対時」の38.1%。店頭に立っていない職種でも、応対の経路があれば起きる。指針も、電話やSNS等のインターネット上で行われるものを含むと書いている。
業種ごとの企業の相談割合は業種別ハラスメント相談は53.9%に数値を並べた。
例ごとに、触れ得る罪名が対応している
厚生労働省の企業マニュアル(令和8年度改訂版)は、類型ごとに刑法の条文を対応させている。相手を特定できる言動なら、社内の判断とは別の経路がある。
| 類型 | マニュアルが挙げる条文 |
|---|---|
| 言動の内容が範囲を超えるもの | 不同意わいせつ罪(刑法176条) |
| 身体的な攻撃 | 傷害罪(204条)/暴行罪(208条) |
| 精神的な攻撃 | 脅迫罪(222条)/強要罪(223条)/名誉毀損罪(230条)/侮辱罪(231条)/信用毀損及び業務妨害(233条)/恐喝罪(249条)/未遂罪(250条) |
| 威圧的な言動 | 威力業務妨害罪(234条) |
| 拘束的な言動 | 不退去罪(130条)/逮捕・監禁罪(220条) |
土下座の強要は強要罪の条文に、居座って退去を求めても出ていかない行為は不退去罪の条文に、それぞれ対応する。軽犯罪法でも、日常生活の道徳規範に反する軽微なものが処罰の対象とされている、とマニュアルは付け足している。
指針も、暴行、傷害、脅迫などの犯罪に該当し得る言動については警察へ通報することを、会社が定める対処の例に挙げている。
要求を取り下げたら、該当しない場合がある
例に当てはまっても3つ目の要素に届かないことがある。マニュアルの書き方はこうだ。顧客等の要求内容に妥当性がないと考えられる場合であっても、企業が要求を拒否した際にすぐに顧客等が要求を取り下げた等の場合は、従業員の就業環境が害されたと言えず、カスハラには該当しない可能性がある。
逆に、強い身体的又は精神的苦痛を与える態様の言動なら、1回でも就業環境を害する場合があり得ると指針は書いている。回数の多さだけで線が引かれているわけではない。
正当な申入れの側に残る例もある。商品の不具合を指摘して交換を求める行為。障害者差別解消法で禁止されている不当な差別的取扱いをしないよう求めることや、社会的障壁の除去を必要としている旨の意思を表明すること。どちらも指針が、カスハラには当たらないと明記している。
自分の例を、2つの束のどちらかに置く
受けた言動を書き出すときは、内容と手段のどちらが度を越えていたのかを分けて書く。要求の中身は筋が通っていたが、声の大きさと拘束の長さが度を越していた。あるいは、言い方は穏やかだったが、要求そのものが契約の外にあった。
そのうえで、日付、言われた言葉そのまま、同席者、月ごとの回数。この4つがそろうと、社内の相談窓口でも労働基準監督署でも同じメモが使える。事業主に義務づけられた措置の一覧はハラスメント対策、法が決めた10項目、カスハラ以外の4種類との定義の並びはハラスメントとは、定義は5つあるのほう。
接客や応対の量そのものは、職種で最初から違う。どれくらいの接触量なら続けられるのかは、受けた言動の記録とは別に測ったほうが見やすい。
出典
- 事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和8年厚生労働省告示第51号、令和8年10月1日適用。2(5) 社会通念上許容される範囲を超えた言動の典型的な例)
- カスタマーハラスメント対策企業マニュアル(令和8年度改訂版、厚生労働省委託事業。抵触する法律の条文、就業環境が害されるの判断)
- 令和5年度「職場のハラスメントに関する実態調査」報告書(概要版)(厚生労働省委託事業、2023年12月〜2024年1月実施、企業 n=7,780・一般労働者 n=8,000)
- 2026年(令和8年)10月1日から、カスタマーハラスメント対策、求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策が義務化されます!(厚生労働省リーフレット簡易版)





