有給が取りづらいとき、何から動くか

「有給が取りづらい」と感じている理由は、回答の分布としては1つにまとまらない。労働政策研究・研修機構が2020年に実施した労働者調査(有効回答15,297人)では、年次有給休暇を取り残すことがある人が85.3%を占めた。その人たちに理由を尋ねると、「休むと職場の他の人に迷惑になるから」に肯定した人は51.7%、「休みの間仕事を引き継いでくれる人がいないから」は39.7%、「仕事の量が多すぎて休んでいる余裕がないから」は38.5%。人への気遣いと、仕事の量と、代わりの人の不在。三つは別の項目として集計されている。自分の取りづらさがどれに寄っているかを決めてから動くと、申請の出し方も、誰に何を言うかも変わる。

取り残す理由は、同じ大きさではない

この調査で「年休を取り残すことがある」と答えた13,047人に、14の理由を1つずつ提示して「そう思う」かを聞いている。肯定(「そう思う」+「どちらかといえばそう思う」)の割合が高い順に並べると、こうなる。

  • 急な用事のために残しておく必要があるから — 74.1%
  • 病気のために残しておく必要があるから — 70.5%
  • 休むと職場の他の人に迷惑になるから — 51.7%
  • 休みの間仕事を引き継いでくれる人がいないから — 39.7%
  • 仕事の量が多すぎて休んでいる余裕がないから — 38.5%
  • 現在の休暇日数で十分だから — 28.2%
  • 職場の周囲の人が取らないので年休を取りにくいから — 25.6%
  • 勤務評価等への影響が心配だから — 16.1%
  • 上司がいい顔をしないから — 15.3%
  • 休むと仕事から取り残されるような気がするから — 13.4%

上の2つは、取りづらさというより備えである。急な用事と病気のために手元に残しておく、という使い方。残す理由の上位がここで埋まっていることは、年休が事実上の傷病手当のように扱われている状態を示している。

そして3位から下が、職場の条件に関わる項目。「上司がいい顔をしない」は15.3%で、「迷惑になる」の51.7%とは3倍以上の差がある。上司の反応そのものより、同僚に仕事が寄ることへの気遣いのほうが、はるかに多くの人に共有されている。

就業形態で分けると差が出る。正社員では「迷惑になるから」52.4%、「引き継いでくれる人がいない」41.0%、「仕事の量が多すぎる」39.8%。非正社員では同じ項目が44.3%、26.4%、24.6%と下がり、代わりに「現在の休暇日数で十分だから」が35.6%まで上がる。持ち場が自分ひとりに固定されているほど、取りづらさは大きくなる。

同じ「取りづらい」でも、原因の在り処が違う

調査は、理由の分布が属性で変わることも書いている。年休の取得率が低い人ほど、また週の実労働時間が長い人ほど、「休むと職場の他の人に迷惑になるから」「引き継いでくれる人がいないから」「仕事の量が多すぎて休んでいる余裕がないから」「職場の周囲の人が取らないので取りにくいから」「上司がいい顔をしないから」を挙げる割合が高まる。逆に労働時間が短い人では、急な用事と病気への備えが理由の上位に来る。

上司の年休の取り方でも変わった。上司がほとんど年休を取らないタイプであるほど、迷惑・引き継ぎ・仕事量・周囲を理由に挙げる割合が高い。部下に取得を勧める度合いが消極的な上司のもとでは、そこに「勤務評価等への影響が心配だから」「上司がいい顔をしないから」「休むと仕事から取り残されるような気がするから」も加わる。

ここから切り分けができる。自分の取りづらさが仕事量と引き継ぎに寄っているなら、動かす先は業務の割り振りで、話す相手は仕事の配分を決めている人。周囲や上司の取り方に寄っているなら、自分の段取りを直しても手応えは出にくい。残業時間が長い月に取りづらさが強まっているなら、休みの問題と時間の問題が同じ根を持っている可能性がある(残業時間の平均は月9.8時間)。

会社が断れるのは、時季をずらすところまで

年次有給休暇は、雇入れの日から6か月継続して勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者に10労働日が与えられる。原則は「労働者の請求する時季」に与えること。会社が時季を変更できるのは「事業の正常な運営を妨げる」場合に限られ、これは取得そのものを断る権利ではない。

2019年4月からは、年10日以上の年休が付与される労働者について、基準日から1年以内に5日以上を取得させる義務が会社側にある。時間単位で取る制度も、5日の範囲内なら就業規則の定めによって使える。発生した年休を行使できる期間は2年。

つまり、申請の場で争点になりうるのは「いつ休むか」であって、「休むかどうか」ではない。この区別を持っておくと、繁忙期を理由に断られたときに、次の質問が「では、いつなら取れますか」になる。日付を1つ出して、代替日を相手に決めてもらう形に持ち込む。

自分の取得率を、自分の分母で出す

取りづらさを数字にする一番早い方法は、自分の取得率を出すこと。給与明細か勤怠システムに、その年に付与された日数と取得した日数が載っている。取得日数 ÷ 付与日数 × 100 が自分の取得率。付与20日で取得が7日なら35.0%になる。

平均との距離を見ると、感覚が補正される。全国の平均は66.9%で、業種と企業規模でも差がある。

自分が35%で、同じ業種の平均が60%台なら、差は25ポイント。この差は、自分の遠慮だけで説明できる大きさではない。

申請の出し方で動く範囲

自分の側で変えられる部分は、実のところ狭い。それでも、理由の分布のうち「引き継いでくれる人がいない」39.7%に当たっている人には、効く手がある。

休む日を決めたら、その日に自分が持っている仕事を3行で書き出す。1行目に、その日に期限が来るもの。2行目に、止めても翌日に回せるもの。3行目に、連絡が来る可能性のある相手と、誰に回してほしいか。この3行を申請と一緒に出すと、上司が判断する材料が揃う。「迷惑になるかどうか」を相手の想像に委ねない形。

申請は書面かメールで残す。口頭だけで断られると、何月何日に何と言われたかが後から使えない。提出した日付と、返ってきた言葉を、そのまま残しておく。

相談は、順番を決めてから

社内では、まず仕事の配分を決めている人に話す。その人が断る側だったときに、次が人事や労務の窓口。労働組合があれば、そこに持ち込む道もある。順番を飛ばさないほうがいい理由は、あとの窓口が「上司に相談したか」をたいてい聞くからだ。

社内で動かなければ、労働基準監督署の総合労働相談コーナーが外部の窓口になる。年5日の時季指定義務は会社側の義務なので、5日も取れていない状態は、そこで相談の対象になる。

4週間、記録しておくと判断が変わる

いま辞めるか続けるかを決める前に、次の項目を1か月ぶん記録してほしい。書くのは数字と日付だけで、感想は要らない。

  • 申請を出した日と、返答が来た日(日数の差)
  • 断られた回数と、そのとき言われた理由の言葉
  • 直前(3日以内)の申請が通ったかどうか
  • 上司自身がその月に年休を取った日数
  • 自分の月の残業時間
  • 「迷惑になる」と自分が感じた場面の回数

4週たつと、取りづらさの原因が、申請の手続きにあるのか、仕事の量にあるのか、上司の取り方にあるのかが分かれてくる。手続きなら来月の出し方で変えられる。仕事の量なら配分の相談になる。上司の取り方と職場の運用なら、自分の工夫で動く範囲ではないので、異動や転職を考えるときの条件として書き留めておく材料になる。

記録が残っていれば、次に職場を選ぶときにも使える。「有給は取れる職場ですか」という聞き方ではなく、「申請から返答まで何日か」「直前の申請が通るか」「上司は年に何日取っているか」という形で聞ける。答えが返ってくる質問。

出典

  1. 調査シリーズNo.211『年次有給休暇の取得に関するアンケート調査(企業調査・労働者調査)』/労働政策研究・研修機構/2020年実施・労働者調査の有効回答15,297人/2021年公表
  2. 同 調査結果本文(PDF)図表3-5-6「年次有給休暇を取り残す理由」(労働者調査、n=13,047)
  3. 年次有給休暇/確かめよう労働条件(厚生労働省)