入社後のギャップは何が原因か

入社前に聞いた話と実際の職場のずれは、4つの理由に割れる。厚生労働省の令和5年若年者雇用実態調査(個人調査 n=13,218、2023年10月1日時点で15〜34歳)で、初めて勤務した会社をやめた主な理由を3つまで挙げてもらうと、「労働時間・休日・休暇の条件がよくなかった」28.5%、「人間関係がよくなかった」26.4%、「賃金の条件がよくなかった」21.8%、「仕事が自分に合わない」21.7%の順に並んだ。この4つは、入社前に文書で確かめられるかどうかで2つに分かれる。原因を探すより、どちらの側のずれなのかを先に見分けたい。

ずれは珍しいことではない、という前提

同じ調査で、在学していない若年労働者が初めて勤務した会社で「勤務している」と答えたのは55.5%、「勤務していない」が42.7%。4割が最初の勤務先を離れている。

離職理由の割合を、そのままギャップの発生率として読むことはできない。やめた人だけに聞いた理由で、ずれを感じたが残っている人は入っていない。3つまでの複数回答という形なので、選択肢ごとの割合を足し上げても意味を持たない。それでも、どの種類のずれが人を動かしたかの順位としては使える。1位が労働時間・休日・休暇で、2位が人間関係。この2つの間に2ポイントしかない。

文書に書かれる項目と、書かれない項目

労働契約を結ぶとき、使用者が明示することになっている労働条件がある(労働基準法第15条)。契約期間、就業の場所と従事する業務、始業・終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、交替制の定め、賃金の決定・計算・支払いの方法と締切日・支払日、昇給、退職に関する事項(解雇の事由を含む)。2024年4月からは、就業の場所と業務については「変更の範囲」も、有期契約なら更新の上限や無期転換の申込機会も明示事項に加わった。

離職理由の1位と3位、つまり労働時間・休日・休暇と賃金は、この一覧に入っている。入社前に紙かデータで受け取っていて、照合できたはずの項目。もちろん明示された所定労働時間と実際の労働時間は別物なので、書面だけで残業の量までは分からない。用語の切り分けは実労働時間の定義にまとめた。

一方、2位の人間関係と4位の「仕事が自分に合わない」は、明示事項のどこにも入らない。書面で防げないずれ。ここを面接での印象や説明の丁寧さで埋めようとすると、確かめたことにならないまま入社日が来る。

1か月で分かるずれと、半年たたないと分からないずれ

ずれには出てくる時期がある。労働時間、通勤、使う道具、休みの取り方は、だいたい1か月で見える。実績が出るから。

任される範囲、評価の基準、異動の決まり方は、半年ほどたたないと形が見えない。評価は期の区切りを1回通らないと出てこないし、異動は年に1〜2回しか動かない。入社4か月で「思っていたのと違う」と感じている項目が後者に寄っているなら、まだ材料が足りていない可能性がある(これは推定で、調査の裏づけがある話ではない)。

先の調査は、初めて勤務した会社での勤続期間階級別にも理由を集計している。自分の在籍期間に近い区分で並びを見ると、時期によって何が効いているかの当たりがつく。

入社後の4週間で、ずれを数字にする

感覚をずれの大きさとして扱うのは難しい。次の4つを週ごとに記録する。

  • 始業と終業の実績(明示された所定労働時間との差を分で出す)
  • 担当した業務(労働条件通知書や求人票の記載に含まれるものと、含まれないものに分ける)
  • 上司と1対1で話した回数と合計時間
  • 自分の意見が入った決定の件数

4週間で、ずれの位置が特定できる。所定と実績の差が週5時間以上あるなら労働時間のずれ、記載に含まれない業務が半分を超えるなら業務範囲のずれ。人間関係の違和感だと思っていたものが、1対1の時間が4週間で30分しかないことに由来している、という結果もありうる。

上司との時間が少ないことが分かった場合、何を持ち込むかは1on1で上司に何を話すかで整理している。原因が上司との相性の側にあるかどうかは上司と合わない原因の分け方で切り分けられる。

次に同じずれを持ち込まない聞き方

防ぐ側の手は、明示事項の外側にある項目を、確かめられる形に言い換えることに尽きる。印象を聞くと印象が返ってくる。

  • 残業の説明を「多くない」で受け取らず、配属予定の部署の直近3か月の時間外労働の実績を聞く
  • 担当業務の「変更の範囲」がどう書かれるかを、内定前に労働条件の書面で確かめる
  • 配属先の人数、上司が何人を見ているか、1対1の面談が制度としてあるかと、その頻度
  • 評価の期の区切りと、評価者が誰か

逆質問の作り方は面接の逆質問で上司の何を聞くかに、異動の希望がどれくらい通っているかは異動の本人希望が反映される割合にある。辞める理由の分布そのものは転職理由のランキングと業種別の早期離職率で見られる。

今週やること

  1. 労働条件通知書か雇用契約書を出し、所定労働時間・休日・賃金・就業の場所と業務(変更の範囲)の記載を読む
  2. いま感じているずれを4つに分類する。労働時間・休日、人間関係、賃金、仕事の内容のどれか
  3. そのずれが書面にある項目か、書面の外の項目かを分ける。書面にある項目なら、記載と実績の差を分で出す
  4. 書面の外の項目なら、上の4週間の記録を今週から始める

分類と記録が揃えば、辞めるかどうかの判断の前に、何が変えられる側のずれかが見える。順番はそこから。

出典

  1. 令和5年若年者雇用実態調査の概況(厚生労働省、2023年10月1日時点、個人調査 有効回答 13,218人)
  2. 2024年4月から労働条件明示のルールが変わります(厚生労働省)