定着率は、ある集団のうち一定の期間を過ぎても在籍している人の割合を指す。ただし、公的統計に「定着率」という指標は存在しない。厚生労働省の雇用動向調査が出しているのは入職率と離職率で、定着率はその離職率を100から引いた値か、入社した人を追いかけた残存率として、各社が自分で計算している。だから同じ職場でも、分母の置き方と期間の取り方で数値が変わる。求人票で見た「定着率95%」が何を数えたものかは、式を確かめないと分からない。
定着率とは何をどう数えた割合か
公開 約 5 分

何を在籍と数え、何を離職と数えるか
定着率の分子に入るのは、基準の時点で雇用契約が続いている人である。部署の異動、転勤、出向、育児休業や病気による休職は、契約が続いているかぎり在籍として数えるのが普通の扱い。一方で、契約が終わればすべて離職の側に入るので、自分の意思で辞めた人と、定年退職や契約期間の満了で職場を離れた人、解雇された人が、同じ1つの分類にまとまって数えられている。
ここが読むときの注意になる。定年退職者が多い年は、本人の意思と関係なく定着率が下がり、平均年齢の若い職場では定年による離職がそもそも出ないので、辞めにくさとは別の理由で数値が高く出る。同じ95%でも、中身の構成が違う。
雇用動向調査の離職率は、「年初の常用労働者数に対する割合」として定義されている。分母は1月1日現在の常用労働者数で、その年のあいだに離職した人を分子に置く。令和7年調査の値、つまり2025年の離職率は13.7%だった。
3通りの数え方がある
定着率という言葉が使われるとき、式は主に3つに分かれる。
- 100 − 離職率 — 1年あたりの数値。雇用動向調査の離職率13.7%を引くと86.3%になる(定着率の平均は86.3%、1年あたり)
- 入社した人のうち、n年後に残っている人の割合 — コホートを追いかける形。新卒3年定着率がこれに当たる。大卒で3年以内に離職した人は33.8%なので、裏返すと66.2%(3年以内離職率は大卒33.8%)
- ある時点の在籍者数 ÷ 過去の時点の在籍者数 — 職場全体の人数の比較
3つめは扱いに注意が要る。分母を「入社時の従業員数」、分子を「現在の従業員数」と置いた場合、途中で中途入社した人が分子にだけ入ってくるので、値は100を超えることがある。10人で始めた部署に5人が入って12人になっていれば、この式では120%。残った人の割合としては読めない。
上位に出てくる解説記事の多くが1つめと3つめの式を並べて載せているが、この2つは違うものを測っている。使うなら、どの集団を追いかけたのかを書き添えるほうがいい。
期間の数え方で値が動く
同じ職場でも、期間を1年に取るか3年に取るかで数値は変わり、離職は入社から最初の数年に集中するので、期間を長く取るほど定着率は下がっていく。
基準日の置き方も効く。事業年度で区切るのか、暦年で区切るのか。4月入社の新卒を3月末で数えるのか、翌年の4月1日で数えるのか。1日の違いで、3月31日付で辞めた人が入る年が変わる。
期間の途中で入社した人をどう扱うかも決めておかないと、年をまたいだ比較ができなくなる。入社コホートを固定する方法(2023年4月入社の20人を追う)が、いちばんぶれが小さい。
公開されている尺度: ユースエール認定
数え方を決めた公的な例が、若者雇用促進法に基づくユースエール認定制度である。認定基準のひとつが「直近3事業年度の新卒者などの正社員として就職した人の離職率が20%以下」。採用者が3〜4人だった場合は、離職者が1人以下であれば基準を満たす扱いになる。
この基準の作りで、読む側が真似できる点は3つある。期間を3事業年度に固定した点、対象を新卒者等の正社員に絞った点、そして分母が小さいときの扱いを先に決めた点。
認定企業には、直近3事業年度の採用者数と離職者数(男女別)、平均継続勤務年数の公表も求められる。1つの率にまとめず、採用者数と離職者数を別々に出す形。分母が見えるので、読む側が自分で計算できる。
定着率の高さから分かること、分からないこと
定着率が高い状態は、辞めた人が少ない状態である。そこまで。働いている人が自分の条件に合っていると感じているかどうかはこの数値に入っていないので、異動の機会が少なかったり、外に出る選択肢が見えにくかったりする理由で人が残っている職場も、辞める人が少なければ同じ数値になる。
逆に、定着率が低い状態も、原因を1つに絞れない。定年退職が集中した年か、事業の縮小か、入社後に条件が違ったのか。離職の理由の分布は離職理由の推移、個人的理由10.2%に、業種と規模による差は定着率、業種別で17.1ポイント差と規模別の定着率は42%から73%にまとめた。
判断に使うなら、定着率を単独で見ないほうがいい。同じ職場の残業時間、有給取得率、異動の希望が通る割合と並べたときに、数値の意味が決まる。
自分の職場の数値を出す
自分の部署で数えるなら、入社の年でグループを作る。3年前の4月に入った人が何人で、いま何人残っているか。それだけで2つめの式の値が出る。人数が5人以下のときは、割合に直さず人数のまま書いておいたほうがいい。1人辞めるだけで20ポイント動く割合は、比較に使えない。
求人や面接の場で聞くなら、率ではなく数を聞く形にする。
- 直近3年の新卒(または中途)の採用者数と、いま残っている人数
- 平均継続勤務年数
- その部署で、この1年に異動または退職した人の数
率は相手の式に依存するが、人数は依存しない。数を2つ受け取れば、自分で割れる。





